第65話 特許ポーションの作り方

 特許取得手続きの一環で、水龍ちゃんは、自身が開発した治癒ポーションの錬成を実演することになりました。




 さて、始めますか。

 錬金釜は、いつも実験でよく使っているやつと同じね。

 ポーション小瓶2個分を作るのにちょうどサイズなの。

 うん、汚れもないし、綺麗に洗ってあるようだわ。


 ふふっ、ポーション錬成技術の資格試験の時は、錬金釜が汚れていたのよね。

 あの時は、器材を全部洗って使ったのよ。

 懐かしいなー。


 今回は、ほかの器材もちゃんと洗ってあるようで綺麗だわ。

 気を使ってくれたのかしら?


 よし、まずは魔法で水を出して、計量カップへトプンと入れてっと。

 うん、ポーション2個分ピッタリね。

 そのまま、錬金釜へザパーっと投入ー。


 魔導コンロへ錬金釜を乗せて、温度計をセットしてっと。

 よし、魔導コンロ、オン!


 魔法で水温を上げるのは……、やめておこうっと。

 時短になるけど、普通はやらないみたいだものね。

 みんなが見てる前では、やらない方が無難だわ。


 魔法水を温めている間に、薬草を量っておきましょ。

 くんくん。

 うん、いつも使ってるチトマールの香りだわ。

 混ざりものもないみたい。


 ふふっ、ポーション錬成技術の資格試験の時は、他の草が混じってたのよね。

 懐かしいわー。


 計量スプーンを使って、ポーション2個分の薬草を取ってっと。

 えーと、とりあえず、ろ紙の上に置いておきましょっと。


 さて、魔法水の温度はどうかな?


 うん、順調に温度が上がっているわ。

 80度を超えて……、もう少しね。




 水龍ちゃんが、薬草を取り置いた後、じっと温度計を見つめていると、薬師ギルド職員の人達から、『お湯が沸いてから薬草を入れるつもりか?』、『だが、あまり意味が無かったはずだ……』などと小さく呟く声が聞こえてきました。


 そんな呟きを聞いて、ギルマスとおばばさまが顔をニンマリとさせていました。トラ丸は、そんな人達など、気にも留めないようすで、テーブルの上にちょこんとお座りしたまま、お行儀よく水龍ちゃんのようすを眺めています。




 もうすぐ90度、魔導コンロを弱めてっと。

 うん、ちょうど90度くらいで温度上昇がとまったわ。


 壁に掛けてる時計を確認して、よし、薬草投入っと。

 このまま90度をキープして、5分から10分煮出すのよ。


 温度計を見ながら、魔導コンロを微調整。

 90度ピッタリに保つのは難しいけど、1度や2度くらい上下してもOKよ。

 温度が上がり過ぎると苦みが増えるから気を付けないとね。




 水龍ちゃんが、魔導コンロのつまみをちょこちょこと捻って微調整していると、見ていた人達は、『ポーション錬成せずに何をやっているんだ?』とか、『魔導コンロの調子が悪いのか?』などと呟く声が聞こえてきました。


 ギルマスとおばばさまは、やっぱり顔をニマニマさせていました。トラ丸も、やっぱり気にも留めないようすで、静かに水龍ちゃんのようすを眺めています。




 もうすぐ7分ね。

 鍋掴みを手に嵌めて、小さなお鍋と茶こしも準備よし!

 魔導コンロを止めて、温度計を外してっと。


 よし! ちょうど7分!

 茶こしを通して、お鍋に注ぎ入れるわよ。

 ドバドバっとね!

 うん、黄色い薬草茶の出来上がり。




 水龍ちゃんが、お鍋に薬草茶を注ぎ入れるのを見て、薬師ギルド職員の人達は、ぎょっとして、『何をやっているんだ?』とか、『ポーション錬成はどうした?』などと騒めきたちました。


 ギルマスとおばばさまは、そんな職員達へとチラチラ視線を向けては、してやったりといった顔で口角を上げています。トラ丸は……、なぜかドヤ顔でした。




 出涸らしの薬草は捨てて、薬草茶をろ過しなくちゃね。

 漏斗にろ紙をセットして、錬金釜の上に乗っけてっと。


 うん、ちょうどいい感じに乗っかったわ。

 これなら手で支えなくても大丈夫そうね。


 お鍋の薬草茶をちょろちょろっと、少しずつ注いで、注いで……。

 う~ん、魔法を使うと楽なんだけどなぁ。

 今日は、皆が見てるからやめておいた方が無難よね。




 水龍ちゃんが、薬草茶をろ過しながら錬金釜へと戻していると、薬師ギルド職員の人達から、『もう出来たのか?』とか、『ポーション錬成してないけどいいのか?』などと囁く声が聞こえてきます。


 ギルマスとおばばさまは、ニマニマしながらうんうんと頷いています。そして、トラ丸は、ドヤ顔でお行儀よく胸を張っています。




 ようやく、ろ過が終わったわ。

 仕上げのポーション錬成ね。


 一気に行くわよ!

 それー!!




 水龍ちゃんは、ミスリル製の掻き混ぜ棒に魔力を込めて、錬金釜の薬草茶をぐるぐると掻き混ぜます。薬草茶がぽわわと淡く光を発して、黄色から緑色、そして青色へと変わってゆきました。


 水龍ちゃんのポーション錬成を見て、薬師ギルド職員の人達から、『今頃ポーション錬成するの?』とか、『薬草なしでポーション錬成なんて意味ないだろ?』などとどよめき声が聞こえてきます。


 ギルマスとおばばさまは、とてもいい笑顔になって、そうだろうそうだろうとばかりに頷いています。トラ丸は、やはりドヤ顔で鼻を鳴らしていました。




 うん、いい色合いね。

 苦くない治癒ポーションの出来上がりよ!


 あとは、ポーション瓶へ移すのだけど……。

 もう少し冷ましてからの方がいいわね。


 お鍋に魔法で冷たい水を入れて、錬金釜を浸して冷ませばいいわね。

 この方法はありだったはず。

 直接魔法でポーションを冷やしたいけど、普通はやらないらしいの。

 めんどくさいわね。


 冷やしている間に、ろ紙を外した漏斗を軽く洗ってっと。

 周りも軽く後片付けね。




 水龍ちゃんが、周りを片付けている間、薬師ギルド職員の人達からは、『できたのか?』とか、『まだ何かあるのかもしれないぞ』などと思い思いに呟く声が聞こえてきました。


 ギルマスとおばばさまは、にっこり微笑んでいて、トラ丸は、おすまし顔でした。


 水龍ちゃんは、周りを軽く片付けた後、念のためとばかりに温度計でポーションが冷めたのを確認してから、漏斗を使って、2つのポーション小瓶へ順番にポーションを注ぎ入れて蓋をしました。


「出来ました。ポーション鑑定をお願いします」


 水龍ちゃんは、にっこり笑顔で、完成したポーション瓶を差し出すのでした。

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