第62話 午前中、薬師ギルドで

 早朝、ハンターギルドへ毒消しポーションと毒消しサンドを納品した後、水龍ちゃんは、空箱を積んだリアカーを引いて帰宅しました。


「ただいまー」

「なー」

「おかえり、朝食が出来ておるぞ。一緒に食べようかの」


 玄関ドアを開けると、いつものようにおばばさまが朝食を作って待っていてくれました。


 今日の朝食は、魚の切り身の塩焼きと野菜たっぷりのお味噌汁でした。朝は卵料理が多いのですが、最近、マヨたま作りで卵はちょっとという水龍ちゃんには、嬉しいおかずです。


 主食にご飯が欲しいところですが、なぜか端っこバゲットの山がテーブルの中央に盛りだくさんで、ジャムの瓶が隣にありました。


「いっただっきまーす!」

「なー!」


 水龍ちゃんとトラ丸は、元気よく朝食を頂きます。ぱくぱくもぐもぐ食べながら、水龍ちゃんは、アーニャさんから聞いたハンターギルドへ怒鳴り込んできた商会の役員さんの話をしました。おばばさまは、なるほどのうと、ゆっくり食事を取りながら聞いてくれました。


 食後、水龍ちゃんが食器を洗っている間に、おばばさまがハーブティーを入れてくれたので、みんなで一息つくと、おばばさまは薬師ギルドへと向かいました。


 水龍ちゃんは、薬師ギルドで買い取ってもらうための治癒ポーションを作りにかかります。


 ちょうど大瓶1つ分のポーションが作れる大きさの錬金釜を魔導コンロへのせて、計量カップを使って魔法で出した水を錬金釜へ注ぎ入れます。


 さらに、計量スプーンを使って錬金釜へ薬草を投入すると、コンロで加熱ながら金属棒で錬金釜をかき混ぜてポーション錬成を行います。


 最初は、レシピどおりにコンロの加熱だけで水温を上げていたのですが、最近はコンロによる加熱に加えて、水龍ちゃんが魔法で水温を上昇させながら、ポーション錬成を行っています。


 ポーション小瓶2個分の小さな錬金釜で作るときと同程度の水温上昇であれば問題ないだろうと気付いたのです。おかげで、より短い時間でポーションが作れるようになりました。ちょっとした改善です。


「そういえば、苦くない治癒ポーションの特許手続きってどうなったのかしら? あれから、もう何日も経つけど、まだ連絡が来ないのよねぇ」

「なぁ?」


 水龍ちゃんが、のんびりとミスリル製の掻き混ぜ棒で魔法水をかき混ぜながら呟くと、トラ丸が、何のこと? とばかりに首を傾げました。


 以前、水龍ちゃんが苦くない1級治癒ポーションを開発しのですが、特許を取得して薬師ギルドでレシピを公開するためにと、薬師ギルドマスターが手続きを進めてくれているのです。


 その間、水龍ちゃんは、開発したポーションを作らないようにと言われています。


「一度、ばばさまに聞いてみようかな」

「なー」


 水龍ちゃんの言葉に、トラ丸は、そうだねー、と尻尾をゆらゆら揺らしながら、のんきに鳴くのでした。


 ポーション錬成を終えると、水龍ちゃんは、茶こしを手にして、錬金釜の中の薬草を大雑把にすくい取りました。こうしておくと、若干ですが、ろ過が速く出来るのです。


 あとは、ポーションを冷ましてろ過して大瓶に注ぎ入れるだけですが、ここでも水龍ちゃんは魔法を使って時間を短縮します。


 水龍ちゃんは、ろ紙をセットした漏斗を左手で持ち、大瓶の口へ挿し入れて支えると、水流操作で錬金釜からポーションを細く吸い上げ、空中で冷やしながら漏斗へゆっくりと注ぎ入れるのです。


 大瓶がいっぱいになったところで、瓶に蓋をして、少し余ったポーションを別の小瓶に入れました。小瓶の方は、薬師ギルドのお姉さん達への差し入れです。





 水龍ちゃんは、作ったポーションを持って薬師ギルドへやってきました。


「おはようございまーす」

「水龍ちゃん、いらっしゃい」

「トラ丸ちゃんは、今日もかわいいわね~」

「クッキー作ってきたの。良かったら食べてね~」


 水龍ちゃんが、薬師ギルドへ入って元気よく挨拶すると、ギルド職員のお姉さん達がとても優しく接してくれます。そして、毎日、何かしらお菓子をくれるのが日常となっていました。


「クッキー、ありがとうございます。あの、ポーションの買取をお願いします」


 水龍ちゃんは、クッキーを受け取って、バックパックからポーションの入った大瓶を取り出して、いつもの買取カウンターの上に置きます。


「それと、これ、作り過ぎちゃったので、良かったらみんなで使ってください」


 そう言って、水龍ちゃんは、バックパックから取り出した小瓶をすすっとお姉さんの方へと差し出しました。


「うふふっ、いつもありがとう。ありがたく使わせてもらうわ」


 代表して受け取ってくれたお姉さんが、にこにこ笑顔でお礼を言ってくれました。なんでも美容のために薄めたポーションを飲むのが流行しているらしく、余ったポーションをあげると、とても喜んでくれるのです。


 お姉さんたち曰く、水龍ちゃんの作るポーションは、苦みが少なくて飲みやすいのだとか。あまりにお姉さん達が喜んでくれるので、水龍ちゃんは、毎日少し多めにポーションを作って差し入れするようになったのです。





 薬師ギルドを後にした水龍ちゃんは、図書館へとやってきました。


「今日は、どんな本を読もうかな~♪」


 たくさんの本棚を前にして、水龍ちゃんは、嬉しそうに本を選びます。


「おっ! これが面白そうかも」


 水龍ちゃんが手に取ったのは、挿絵の入った小説でした。水龍ちゃんは、図書館でいろいろな本を読んで勉強をしていますが、最近はこういった小説なんかも読んでいるのです。


 読書スペースへ移動して、水龍ちゃんは、静かに本を読み始めました。トラ丸は、そんな水龍ちゃんの膝の上へ移動して、丸くなってひと眠りするのでした。

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