第61話 早朝、ハンターギルドで

 夜中に起き出して、赤毒マヨたまを作った水龍ちゃんは、スプーンを使って切り分けておいたバゲットへと、赤毒マヨたまを挟んで赤毒卵サンドを完成させます。


 水龍ちゃんは、できた赤毒サンドを手早く紙で包んで、赤色の短冊シールで包の端っこを止めて、猫の手シールを貼りました。


 昨日までは、紙包みを止める短冊シールは無地の白色でしたが、赤毒サンドと青毒サンドを見分けるために、赤い短冊シールを買い入れて、今日からさっそく使い始めました。


 水龍ちゃんは、もう達人の域に達するほどの手際の良さとスピードで、テキパキと赤毒サンドを作って、次々と納品用の箱へと並べてゆきます。トラ丸は、尻尾をゆらゆら揺らしながら、水龍ちゃんの手元を眺めて赤毒サンドを目で追っています。


「ふう、赤毒サンドは完成したわ。トラ丸、少し片付けたら一息つきましょう」

「な~♪」


 水龍ちゃんは、ボウルや木べら、スプーンなどを手早く洗い、調理台の上を拭いたあと、ハーブティーを入れて一服します。


「はい、トラ丸、今日はミックスジャムを塗ってみたわ」

「な~♪」


 切り落としたバゲットの端っこにジャムを塗っただけの端っこジャムパンをおやつに休憩を取るのもいつものことです。いろいろと買い揃えたジャムをその日の気分で選んでいます。


 ぱくぱくもぐもぐと、端っこジャムパンをたくさん食べて、ハーブティーでほっこりしてから、水龍ちゃんは、再びやる気を漲ぎらせます。


「さぁ、トラ丸。今度は青毒サンドを作るわよ!」

「なー!」


 フンスと気合を入れ直して、水龍ちゃんは、再びゆで卵作りから始めます。赤毒サンドと違うところは、バゲットに挟むときに、フライパンで軽く焼いたベーコンを追加することくらいです。



 水龍ちゃんの毒消しシリーズは、ハンターギルドの毒持ち魔物討伐依頼を受けた者限定で販売していますが、なかなか好調な売れ行きです。


 毎日たくさんの毒消しポーションと毒消しサンドを作っているのですが、あっという間に売り切れてしまうそうです。


 さらに増産をお願いされるのかというと、そこは、ギルドの方で討伐依頼を受けるハンター数を制限しているので、これ以上は増えないようです。



 青毒マヨたまを作った水龍ちゃんは、フライパンで薄切りベーコンを焼いて、お皿に取り置いてゆきます。


 あとは、バゲットに青毒マヨたまとベーコンを挟んで、紙で包めば青毒サンドの完成です。こちらは、紙包の端止めに青色の短冊シールを使っています。もちろん猫の手シールを貼るのも忘れません。


 水龍ちゃんが、青毒サンドを作り終えるころには、夜明けが迫っていました。水龍ちゃんが、キッチンを片付けていると、おばばさまが起き出して来ました。


「ばばさま、おはよう!」

「なー!」

「おはよう。相変わらず、たくさん作ったものじゃのう……」


 水龍ちゃんとトラ丸が、元気よく挨拶すると、おばばさまは挨拶もそこそこに、箱積みされた毒消しサンドを見て、呆れた顔で呟くのでした。


 キッチンを綺麗にしてから、水龍ちゃんは、毒消しサンドを入れた箱をリアカーへと運び込みます。


 このリアカーは、ハンターギルドで使われているものを丁度いいからと借り受けたものです。ギルマスが、自ら毎朝運搬すると意気込んでいたのをお断りしたのは、つい先日ですが懐かしい話です。


「行ってきまーす!」

「なー!」


 水龍ちゃんは、おばばさまに見送られる中、荷物満載のリヤカーを引いて、今日も元気にハンターギルドへ向かいます。夜が明けたばかりの空気は、ちょっとひんやりしていて気持ちがいいです。





「おはようございまーす! 納品でーす!」


 いつものように、水龍ちゃんは、ハンターギルドの通用口から元気な声を出して入って行きます。


 ギルド職員の人達に手伝ってもらって納品を済ませた後は、アーニャさんと雑談タイムです。


「そうそう、今、ハンターギルドが、アカレギョウンを水龍ちゃんに直接卸しているでしょ」

「そうですね。赤毒ポーション不足の対策ですよね」


「ええ、そうよ。それでね、昨日、とある商会の役員が来て、ダンジョンで取れた薬草を市場へ流さないとはどういうことだ!って怒鳴り込んできたのよ」

「話の流れ的に、アカレギョウンのことですね」


「そう。その商会はね、——」


 アーニャさんが詳しく話してくれたところによると、その商会は、前にトーマスさんが言っていた、アカレギョウンを買い占めていた商会のようです。


 さらに、その商会は、オーパール薬局と関係があって、そこへアカレギョウンを卸して赤毒ポーションを作らせて、さらに高値で売り捌いていたというのです。


 オーパール薬局は、違法な契約で雇った従業員にかなりブラックな仕事をさせていたとして役所の立ち入りが入って、今、生産が止まってる状態だと聞いています。


 そして、今回、ハンターギルドが、ダンジョンで採集したアカレギョウンを水龍ちゃんに直接卸し、水龍ちゃんが作った赤毒ポーションと赤毒サンドが討伐依頼限定とはいえ販売されているため、誰も高値のアカレギョウンを買おうとはしなくなったそうです。


「なるほど、アカレギョウンが売れなくなったので、その原因であるハンターギルドへ怒鳴り込んできたと」

「あくまで推測だけど、そういうことでしょうね」


 水龍ちゃんが腕を組んで、納得顔で言うと、アーニャさんがトラ丸をモフモフしながら、ちょっと楽しそうに肯定しました。


「それで、怒鳴り込まれて、どうなったんですか?」

「もちろん、ギルマスが追い返したわよ。赤毒ポーションが入手できないのはハンターにとって死活問題だから緊急措置だ!って言ってね」


「役員さんは、納得したんですか?」

「ううん、そんな横暴なって怒鳴ってたけど、商業ギルドマスターも公認だって言ったら、押し黙って帰っちゃったわ」


 アーニャさんが、とても楽しそうに話してくれました。聞けば、商業ギルドと薬師ギルドとは、きっちり話をつけていて、両ギルドとも今回の件は容認しているそうです。


 そして、アーニャさんによると、その商会は、買い占めたアカレギョウンが売れなくて大赤字を出すんじゃないかということです。

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