第59話 突撃するらしい

 早朝から水龍ちゃんは、リアカーを引いてハンターギルドへやって来ました。


「おはようございまーす! 納品でーす!」

「おはよう、水龍ちゃん。毎日ご苦労だね」


 水龍ちゃんが、ギルドの通用口から元気な声を上げると、近くにいたギルドの男性職員が、にっこり笑顔で挨拶を返してくれました。そして、その男性職員は、リアカーに乗せてあった木箱の荷下ろしを手伝ってくれました。


 水龍ちゃんの毒消しアイテムは、順調に売り上げをを伸ばしていて、今では販売品を運ぶためにリヤカーを使って運んでいるほどです。重ねて運べる木箱に並べると、納品数の確認が速く出来るというメリットもあります。


 いつものように、1階の受付の奥に設置された長テーブルの上に木箱を運んでいると、アーニャさんがやって来ました。


「おはよう、水龍ちゃん」

「アーニャさん、おはようございます」


「納品数を確認するから、ちょっと待っててね」

「頼まれていた青毒サンドの試作品を作ってきましたよ」


 いつものように、納品確認へと向かうアーニャさんに、水龍ちゃんは、青毒サンドの話をしました。


 いつの間にやら、赤毒消し卵サンドは、ハンター達の間で赤毒サンドと呼ばれるようになっていて、今では水龍ちゃんやハンターギルド職員の間でもそう呼ぶようになっています。


 そして、赤毒サンドはたいへん好評で、ハンター達から青毒サンド(青毒消しの卵サンド)も作って欲しいと熱望されていたのです。


「ふふっ、ハンター達が喜ぶわね」

「ぱっと見で赤毒サンドと違いが分かるように、ベーコンを挟んでみました」


「本当? ちょっと見てみたいわ」

「猫の手シールの隣に青色のシールを貼ってあるので、売るときにちゃんと確認してくださいね」


 水龍ちゃんは、青毒サンドを1つ取り出して、紙包みに貼ってあるシールを指さして赤毒サンドとの見分け方を説明しました。


「なるほど、青色シールで確認すればいいのね。うん、これなら、取り間違えて売ることもなさそうね」


 アーニャさんは、手渡された青毒サンドのシールを見ながら、ちょっとした工夫に感心しつつ、紙包みを開けました。


「へぇ~、マヨたまとベーコンが挟んであるのね。とても美味しそうだわ。いっただっきまーす」


 アーニャさんは、売り物だということなど全く気にするようすもなく、パクリと青毒サンドにかぶりつきました。


「ん~♪ 美味しい~♪」

「先輩、私も食べたいです!」

「私も!!」


 満面の笑みを見せるアーニャさんを見て、近くにいた受付のお姉さん2人も食い気味に手を上げました。


「売り物なんだから、ちゃんとお金を払うのよ?」

「「もちろんです!!」」


 いちおう、アーニャさんも商品だと言うことは理解していたようです。受付のお姉さん達曰く、自分達が売る物なので、それがどんなものなのかを食べて確認しておかなくてはならない、のだそうです。


「これで、さらに毒持ち魔物の討伐依頼が捗るわね」

「もう何日も続けて討伐依頼を出してますけど、まだ続くんですか」


 アーニャさんが、ベーコン卵サンドを食べながら、にっこり笑顔で呟くと、水龍ちゃんが問いかけました。水龍ちゃんの毒消しアイテムは、討伐依頼を受けるハンター達だけに限定で売っているため、気になるのも当然です。


「それがね、毒持ち魔物が思った以上に増えていたみたいなの。魔物の巣窟と化した場所もいくつかあって、ハンター達も苦労してるわ」

「そうなんですか」


「もう、いつスタンピードが起きてもおかしくない状況だったのよ。本当、水龍ちゃんの毒消し改革があって助かったわ」

「えへへ、役にたって嬉しいです」


 どうやら、ダンジョンの中は大変なことになっていたようで、ハンター達はもちろん、ハンターギルドの中でも、水龍ちゃんが作った赤毒サンドは、毒消し改革と呼ばれるほどに優れた効果を発揮して、スタンピードの危機を救ったことになっていました。


「ふふっ、赤毒持ちの魔物だけがいる巣窟なら、ハンター達は赤毒サンドを食べて突撃するらしいわよ」

「突撃って……、大丈夫なんですか?」


「しばらく毒が効かなくなるから平気みたいよ。毒が無ければ、たいして強い魔物じゃないしね」

「なるほど、ハンターのみなさんも大胆ですね」


 魔物の巣窟へ突撃するハンター達の話を聞いて、水龍ちゃんは、赤毒サンドの想定外の使われ方に、ちょっと感心しています。


「青毒サンドも販売されたら、難航していた青毒持ちの魔物の巣窟も一気に攻略できるでしょうね。もう、水龍ちゃんさまさまだわ」

「それって、やっぱり、突撃するんですか?」


「おそらくね。ハンター達が嬉々として突撃する姿が目に浮かぶわ……」

「ですよねー……」


 アーニャさんと水龍ちゃんは、毒持ち魔物の群れへと嬉々として突撃するハンター達を思い浮かべたのか、ちょっと遠い目をしていました。




 毒消しサンドを食べて魔物の巣窟へ突撃するという、ちょっと過激なハンター達の行動ですが、しばらくの間 毒無効という毒消しサンドの利点を生かした戦法です。


 実際は毒無効ではなく、毒を受けた先から解毒しているため、毒を受けたことにすら気付かないだけなのですが。


 そして、このあと、赤毒サンドと青毒サンドを両方食べて、毒無双とか叫んで嬉々として暴れ回るハンター達が現れたのは、まぁ、容易に想像できたことでしょう。

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