第57話 試作品の効果

 本日、水龍ちゃんは、朝早くからハンターギルドを訪れました。超早起きして作った試作赤毒消し卵サンドを持ってきたのです。


 なぜか、ハンターギルドマスターが、ギルドの入口の前に仁王立ちして待っていました。そして、水龍ちゃんは、着いて早々ギルマスに熱烈に歓迎されて、なぜか一緒に2階の受付へ向かいました。


 アーニャさんとの挨拶もそこそこに、水龍ちゃんが、バックパックから試作品を出して受付カウンターの上へと並べてゆきます。


「あら? この紙包みって卵サンドよね。昨日より小さくなってるわ」

「昨日の試食会での意見をもとに改良してみました」


 試食会では、もっと辛くてもいいという意見やポーションに比べてかさばるという指摘に対して、水龍ちゃんは、さっそく改良品を作ってきたのです。


「うむ、これくらいの大きさなら我慢できるだろう。赤毒ポーションが手に入らないのが現状だから、みんな喜んで買うだろう」


 ギルマスも、トラ丸がペシペシと軽くネコパンチ浴びせている紙包みを見ながら、許容範囲の大きさになったと太鼓判を押してくれました。


「それと、試作の赤毒ポーションです。昨日と同じ3級相当ですよ」

「ありがとう。こっちも赤毒消し卵サンドと一緒に効果の確認をするわね」


 卵サンドを出し終えた水龍ちゃんが、さらに試作赤毒ポーションの入ったポーションケースを取り出すと、アーニャさんがにっこり笑顔で受け取りました。


「あー、それでだな、赤毒消し卵サンドの効果確認については、ギルドの方で指名依頼の費用を負担することにした。だから、水龍ちゃんが依頼料を払う必要はないぞ」


 ギルマスがそう言うと、水龍ちゃんは、どゆこと?といった顔で、目をパチクリさせました。そんな水龍ちゃんの表情を読み取ったのか、ギルマスが眉尻を下げながら話を続けます。


「赤毒ポーション不足はなかなか深刻でな、ギルドとしても可能な限りの支援がしたいのだよ」

「なるほど、それで、費用を負担してくれると」


 ギルマスの言葉で、賢い水龍ちゃんは、ハンターギルドも赤毒ポーション不足対策に本気で取り組みたいのだと理解しました。


「さらにだな、水龍ちゃんが提供してくれた研究中の赤毒ポーションの効果確認についても、ギルドが費用を負担することにしたぞ」

「ん? そっちもですか?」


「ああ、研究中の試作品といえども、この品不足のときに提供してもらうのだから当然だ。有効性が確認できたならばギルドが相場で買い取ることを約束しよう」


 ギルマスが、珍しくギルマスらしい堂々とした口ぶりで、買取まで約束してくれました。


 試作の赤毒ポーションと赤毒消し卵サンドの効果のほどは、明日にでも分かると聞いて、水龍ちゃんはハンターギルドをあとにしました。





 そして、翌日。水龍ちゃんが、ハンターギルドを訪れると、アーニャさんがニコニコ顔で迎えてくれました。


「水龍ちゃんの作った試作の赤毒ポーションと赤毒消し卵サンドだけど、どちらも十分な毒消し効果が確認されたわよ」

「えへへ、よかったー」


 アーニャさんから報告を受け、水龍ちゃんが、嬉しそうな笑顔をみせると、水龍ちゃんの肩の上に乗っているトラ丸が、よかったね、とでもいうように水龍ちゃんの頬にすりすりしてきました。


「えっと、効果の確認をしてくれたハンターさん達の感想を詳しく教えてもらっていいですか?」

「もちろんよ。それがね――」


 アーニャさんが詳しい話をしてくれました。まず、赤毒ポーションは、問題なく解毒効果が確認されたそうですが、これまで飲んでいた赤毒ポーションよりも辛みが少なくて飲みやすいと好評だったそうです。


 そして、赤毒消し卵サンドの方ですが、効果が出るまでに5分~10分ほど掛かったそうですが、ゆっくりと毒が消えていったそうです。赤毒ポーションのように即効性はないものの、十分使えるだろうとのことでした。ただ、ハンターによっては、美味しくいただける毒消しだと喜んでいた人もいたようです。


「それでね、水龍ちゃんには、明日からでも赤毒ポーションと赤毒消し卵サンドを販売して欲しいのだけど、いいかしら?」

「もちろんOKですけど、あの、青毒ポーションの方はどうでしたか?」


「あー、そっちは、まだ、報告が来てないわ。ちゃんと依頼は受けて貰っているから心配しないでね」

「そうですか。残念です」


 水龍ちゃんは、青毒ポーションの結果がまだと聞いて、ちょっと残念そうです。


「まぁ、赤毒の方は、ギルマスがすぐに結果を持って来いって脅し――、いえ、とっても素敵な笑顔で入念に頼み込んでいたから早かったのよ」

「……なんか、依頼を受けたハンターさんが気の毒だった気がします」


 アーニャさんが零した話に、水龍ちゃんは、苦笑いでした。赤毒ポーションと赤毒消し卵サンドの依頼に、ギルマスが積極的に関わっていたことから、それだけギルドとしても重要な案件だということがわかります。


「ふふっ、水龍ちゃんのおかげで、最近増えていた毒持ち魔物を減らすことが出来そうよ」

「毒持ち魔物ですか?」


「ええ。困ったことにね、――」


 アーニャさんの話によると、赤毒ポーションの値段が高騰してから、ハンター達が赤毒を持つ魔物が出るエリアに近付かなくなり、赤毒を持つ魔物がだんだんと増えだして、近頃はエリアの外に溢れ出すようになってきたのだそうです。


 ハンターギルドの方でも、解毒魔法の使えるハンター達へ討伐依頼を出しているそうですが追いつかないのだそうです。


「ハンターさん達のためにも、頑張って卵サンドを作らないとね!」

「なー!」


 毒持ち魔物の話を聞いて、フンスとやる気をみなぎらせる水龍ちゃんとトラ丸なのでした。

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