第54話 赤毒ポーション不足

 水龍ちゃんが、新型青毒ポーションの解毒効果確認の依頼をしに来たと聞いて、ハンターギルドマスターが、自分が効果確認に行くと言い出しました。


「ギルマス、仕事が溜まっていたようですけど、大丈夫なんですか?」

「ぎくぅ! あ、いやぁ、ちょっとくらいは大丈夫かなー、なんて……」


 アーニャさんにジトっとした目で尋ねられ、ギルマスはあからさまに動揺をみせました。


「それに、ギルマスは毒の耐性が強いんじゃないですか? 毒耐性が強い人の評価は信頼性が低いので依頼は受けさせられません。分かってますよね?」

「うっ! あ、えーっと……、毒耐性かぁ、どうだったかなぁ……」


 さらにアーニャさんに問い詰められて、ギルマスは目を泳がせてしまいました。そんなギルマスのようすをみて、アーニャさんは、まったくもう、と大きな溜め息を吐くのでした。


「水龍ちゃん、ギルマスはダメみたいだから、ギルドの方で信頼できるハンターに打診するわね」

「はい、よろしくお願いします」


「それじゃぁ、依頼書を作るから、開発した青毒ポーションを出して待っててね」

「はーい」


 アーニャさんが、テキパキと依頼書を作っている間に、水龍ちゃんはバックパックから新型青毒ポーションの入ったポーションケースを出しました。ポーションケースはポーション瓶が12個入るように仕切られていて持ち運びに便利です。


「ほほう、これが美味しい毒消しポーションか。綺麗な色をしているなぁ」

「美味しいかどうかは微妙ですけど、飲みやすくしてありますよ」


「どれ、ちょっと味見をしてみよう」

「あっ……」


 ギルマスが、手にしたポーション瓶を開けて、ごくりと一口飲みました。突然のことだったので水龍ちゃんも声を漏らしただけで、ギルマスを止めることができませんでした。


「おおっ! これが青毒ポーションか! 全っ然、苦くない! ってか普通に美味いじゃないか」

「ちょっと、ギルマス!! 何やってんですか!!」


 ギルマスが、目を見開いて絶賛していると、気付いたアーニャさんが、思いっきり𠮟りつけました。解毒効果確認用に持ってきたポーションを飲んでしまったのですから当然です。


 1個ぐらい、いいじゃないかと口先を尖らせるギルマスでしたが、さらにアーニャさんに怒られることになりました。水龍ちゃんが余分に持ってきていたので事なきを得ましたが、ギルマスとしてはダメダメです。


 水龍ちゃんは、アーニャさんが書いてくれた依頼書を一読して確認し、依頼料を支払いました。あとは、依頼を受けたハンターからの報告を待つだけです。


「それで、水龍ちゃん、赤毒ポーションの方は売り出さないの?」

「えっと、赤毒ポーションはまだ研究中で、もう少し時間が掛かりそうです」


 アーニャさんの問い掛けに水龍ちゃんが答えると、アーニャさんは、ちょっと残念そうな顔をしました。


「今、赤毒ポーションがなかなか入手できなくて、みんな困っているのよ」

「そうなんですか」


 そういえば、以前、トーマスさんが、アカレギョウンの値段が上がってきていると教えてくれました。たしか、どこかの商会が買い占めているとか言ってたような気がします。


「今まで多くの赤毒ポーションを売り出していたオーパール薬局に役所の立ち入りが入ってね、生産が止まってる状態なんだよ。困ったもんだ」


 さらにギルマスが赤毒ポーション不足の原因を溜め息交じりに話してくれました。オーパール薬局って、どこかで聞いた気がします。


 多くの赤毒ポーションを作っていた薬屋が急に作るのをやめちゃったため、お店に並ぶ赤毒ポーションが無くなってしまったみたいです。


「でも、ほかの人達が赤毒ポーションの生産を増やせば、すぐに数はそろいそうですね。値段は高くなるかもしれませんが……」


 水龍ちゃんが、素直にそうなるだろうなという推測を口にしましたが、アーニャさんとギルマスは、困った顔で互いの顔を見合わせました。


「それが、そうでもないようなの。ハンター達から聞いたんだけどね、どこの薬屋も薬草が手に入らなくて、赤毒ポーションを増やしたくても増やせないそうなのよ」


 なんと、薬草不足が根本の原因だったようです。某商会の買い占め情報と関係がありそうですが、詳しいことはわかりません。


「そういうわけで、明日にでも商業ギルドマスターと薬師ギルドマスターを呼んで、情報共有と対策を話し合うことになっているんだ」


 ギルマスが、なんとか問題を打開しようと動いているようです。ハンター達が困っているのですから、ギルドも放っておくわけにはいかないのでしょう。





 帰宅した水龍ちゃんは、ハーブティーを入れて、リビングのソファでトラ丸と一服です。


「今日は、忙しかったわね」

「なー」


「ポーションに張り付けるシールのデザインも決まりそうだし、青毒ポーションの効果の確認もお願いできたし、販売準備は順調ね」

「なー」


 水龍ちゃんの言葉に、トラ丸は、テーブルの上で、うんうんと相槌を打つように鳴いてみせます。トラ丸の前には、トラ丸専用のお皿にハーブティーが注がれていて、ときおりぺろぺろと舐めている姿がとってもかわいいです。


「それにしても、赤毒ポーション不足が深刻そうだったわね」

「なー」


「う~ん、今研究中の赤毒ポーションも解毒効果はいい線行ってると思うんだけど、まだ、ちょっと辛みが残っていて飲み難いのよねぇ……」

「なー、なー、なー」


「ん? ハンターギルドが困ってるんだから、美味しくなくても売り出せばいいって? それはそうなんだけど……」


 水龍ちゃんが、トラ丸の意見を聞いて、悩まし気な顔を見せます。どうやら、水龍ちゃんには、トラ丸の言ってることが、ちゃんと理解できているようです。


「なーなー、なー」

「どうせ棄てるのだから、試作品として提供すればいいって? 確かにそうね」


「なーなー」

「なるほど、こちらとしても試作段階で効果の確認ができるってことか。それは嬉しいかも」


「なー」

「そうね、そのあたり、一度アーニャさんに相談してみればいいわね。うん、そうしましょう」


 どうやら、話はまとまったようです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る