第53話 絵柄の決定

 商業ギルドで、いろいろと商標登録済みのデザイン画を見せて貰いましたが、水龍ちゃんが希望するドラゴンも、トラ丸みたいな猫もすでに多くの絵柄が登録されていて、新たに作るのは大変そうです。


「う~ん、どうしようかなぁ……」


 ドラゴンや猫だけでなく、いろんな商標を見せてもらいながら水龍ちゃんが悩んでいると、それまでカウンターの上に置かれた情報端末を大人しく見ていたトラ丸がぺしっと前足を端末の上へ乗せました。


「なー」

「あら? トラ丸はそれが気になるの?」


 トラ丸は、鳴き声と共に、デザイン画の1つをぺしぺししています。そのデザイン画は、猫の目をデザインしたもののように見えます。


「それは、有名な鍛冶師が自分の作品に入れるマークですね。通称キャッツアイと呼ばれております」


 やはり猫の目だったようです。シュリさんが説明してくれました。


「ふふっ、トラ丸と同じ目だねー」

「なー♪」


 水龍ちゃんの言葉に、トラ丸は嬉しそうに尻尾をゆらゆらと揺らしました。


「こんなふうに、体の一部でもいいのね」

「ドラゴンで言えば、龍の牙とか、龍の爪、龍の宝玉などがあったと思います」


 水龍ちゃんが、ふむふむと呟くと、シュリさんがドラゴンの体の一部が使われているデザイン画を端末で探して見せてくれました。


「さすがに、ドラゴンはいろいろあるわね……」

「ドラゴンハートなんてのもありますね。いや、普通にハート型なんだけど。なんでこれがドラゴンハートなんて呼ばれてるのかしら?」


 水龍ちゃんが呟く隣で、ミリアさんが、ドラゴンハートに渋い顔をしながら突っ込みを入れてました。


「なー」

「ふふっ、トラ丸は、ドラゴンよりも猫の絵柄がいいみたいね。それじゃぁ、猫の手とか猫の尻尾とか見てみようか。シュリさん、お願いできますか?」

「もちろんですよ」


 シュリさんが、猫シリーズを検索して情報端末に表示してくれます。


「ふむ、猫の体の一部を商標登録しているのは、先ほどのキャッツアイくらいしかありませんね」

「もっとありそうですけど、意外となかったですね」


 シュリさんとミリアさんが、猫パーツのデザイン画が出てこなくて、少し意外そうな顔をしています。

 その横で、なぜかトラ丸が、水龍ちゃんの手をぺしぺししてきました。


「ん? トラ丸?」

「なー」


「ふふっ、トラ丸は手がいいのね。それじゃぁ、猫の手をシンボルマークにしようかしら」


 どうやら、トラ丸の一鳴きで水龍ちゃんのシンボルマークが決まりそうです。


「水龍様って、猫の言葉がわかるんですか?」

「う~ん、猫の言葉というか、トラ丸が言いたいことなら、なんとなくわかるかなって感じです」


 ミリアさんが、ちょっと驚いた様子で尋ねてくると、水龍ちゃんは、にっこり笑顔で答えました。


「さすが、飼い主さんですね」

「えへへ」

「な~♪」


 ミリアさんに褒められて、水龍ちゃんとトラ丸はちょっと嬉しそうです。

 それから、すぐにミリアさんが、トラ丸の前足を参考に猫の手をさらさらと描きました。


「こんな感じでどうですか?」

「わぁ~、トラ丸の手だよ~、かわいい~」


 ミリアさんが描いてくれたリアルな絵を見て水龍ちゃんが感嘆の声を上げました。


「シンボルマークなのですから、もう少し輪郭などを分かり易くした方が良いかもしれませんね。それと、ポーション瓶に張り付けるそうですので、もっと小さくても大丈夫なようにデザインした方がよいでしょう」

「「なるほど」」


 シュリさんのアドバイスに、水龍ちゃんとミリアさんの声がハモりました。その後もシールのサイズとか、かわいらしさ重視でいくのだとか、爪は描くのか描かないのかなど、みんなでワイワイ話して、ミリアさんが明後日までにいくつかデザインしてくれることになりました。





 商業ギルドを出た頃には、お昼を少し回っていました。水龍ちゃんは、露店売りのサンドウィッチを購入すると、ゆっくり歩きながら食べました。もちろん肩に乗せたトラ丸と一緒に食べます。


 半切りバゲットに切れ目を入れて、肉と野菜を挟んだサンドウィッチは、甘辛いソースが絶妙で、水龍ちゃんもトラ丸もほくほく顔です。


 そのまま水龍ちゃんは、ハンターギルドへ向かい、アーニャさんを訪ねます。


「アーニャさん、こんにちは」

「なー♪」

「こんにちは、水龍ちゃん。トラ丸も元気そうね」


 挨拶もそこそこに、ひょいっとカウンターに飛び乗って近づいたトラ丸をアーニャさんは笑顔で撫でまわしました。


「アーニャさん、ついに新型青毒ポーションが完成しました!」

「まぁ! 飲みやすくしたポーションが完成したのね」


「はい!」

「なー!」


 水龍ちゃんが、嬉しそうに新型ポーションの完成を報告すると、トラ丸がドヤ顔で胸を張りました。飲みやすい毒消しポーションの開発については、ときどきアーニャさんに話していたので、アーニャさんも嬉しそうです。


「それじゃぁ、今日は、解毒効果確認の依頼を出しにきたのね」

「はい」


 前々から、新しいポーションが完成したら、ハンターに効果確認の依頼を出す話をしていました。新薬の効果や安全性を確認する依頼は、ハンターギルドで時々受け付けているそうです。


「あ、うちのギルマスに頼めば、自ら毒を受けて確認してくれるかも?」

「えっ? ギルマスですか?」


「水龍ちゃんの頼みなら、にっこり笑顔で青毒マムシを捕まえて、自分の腕に噛みつかせるんじゃないかしら」


 アーニャさんの物言いに、水龍ちゃんは苦笑いです。さすがにそれは無いんじゃないかと話していたところへ、噂が呼んだのでしょうか、ギルマスがやって来ました。


「おっ、水龍ちゃんじゃないか。美味しい毒消しポーションの研究ははかどっているかい?」

「ギルマス、こんにちは。ついに苦くない青毒ポーションが完成しましたよ」


「おお、そうかそうか、おめでとう」

「ありがとうございます。今日は、解毒効果確認の依頼をしにきたんです」


「よし、それなら、私が確認してこよう。なぁに、ちょっと青毒マムシを捕まえてガブッと腕に噛みつかせればいいだけだ。簡単に確かめられるぞ。はっはっはっは」


 ギルマスの言葉に、水龍ちゃんは、アーニャさんと顔を見合わせ、2人で苦笑いを浮かべるのでした。

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