第52話 シンボルマーク

 シュリさんから、商業ギルド会員についていろいろ話を聞いた後、水龍ちゃんは会員登録を行いました。


 水龍ちゃんは、嬉しそうに頬をゆるませて、手に入れた会員証をまじまじと眺めました。すると、トラ丸が、見せて見せてとすり寄って来たので、水龍ちゃんは、微笑みながらトラ丸にも見せていました。


「さて、シンボルマークの相談をと言うことでしたが、具体的にはどういったお話でしょうか?」


 水龍ちゃんとトラ丸のやり取りを微笑ましく見ていたシュリさんでしたが、頃合いをみて話しを切り出してきました。


「はっ!? そうだった! あの、私が作ったポーションにシンボルマークのシールを付けて売り出そうと思っているんです。ですが、その、絵が上手く描けなくて、どなたか絵心のある方を紹介していただけませんか?」


 はっとした水龍ちゃんは、会員証を手にしたままで、一息にそう伝えました。


「なるほど……。ふむ、実は当ギルドに、デザイナーを目指している者がおりますので、その者ならば、すぐに紹介することができます。ほかの有名どころのデザイナーをご希望ということであれば、別途ご紹介させていたく形になりますが、いかがなさいますか?」

「あの、費用とかはどうなりますか?」


「デザイナー毎に相応の額を交渉いただく形となりますので、一概にはなんともいえません。ですが、当ギルドの者でしたら、かなり格安で応じられるでしょう」

「ぜひともギルドの方を紹介してください!」


 水龍ちゃんは、格安と聞いて即決でズバッと答えました。そんな水龍ちゃんに微笑みながら、シュリさんは、おおよそ推定される相場を教えてくれました。


 聞けば、有名どころになればなるほど、たくさんの依頼が舞い込むために価格が跳ね上がるとのことです。


 対して、商業ギルドの職員の者は、デザイナーの卵の卵というくらいの駆け出しなので、お金はいらないと言ってるそうですが、さすがに無料は良くないとギルドの方で最低価格を決めているのだそうです。


 シュリさんが、駆け出しデザイナーのギルド職員を呼びに行っている間、水龍ちゃんは、デザインの世界もなかなか厳しいもんだね、とトラ丸をモフモフしながら話していました。



 シュリさんが連れて来たギルド職員の女性は、ミリアさんという名で、若くて初々しい女性でした。シュリさんの紹介で、お互いに挨拶を交わすと、さっそくシンボルマークの話を始めました。


「水龍様は、シンボルマークを作りたいとのことですが、どのようなイメージで考えられていますか?」

「ドラゴンがいいです!」


 ミリアさんの問いに、水龍ちゃんが、ちょっと鼻息を荒くして、ズバッと答えました。


「ふむ、ドラゴンですか。ドラゴンを描いた商標は、かなりたくさん登録されておりますので、差別化するというのであれば、少々厳しいかもしれませんね」


 シュリさんが、ドラゴンの商標について、少し難しい顔で教えてくれました。


「難しいですか?」

「デザインを既に登録されたものと酷似しないように注意する必要がありますね。それから、買い手側もドラゴンだけでは他のドラゴンと勘違いする可能性もあります」


「シンボルマークにもたくさんのドラゴンがいて、目立たないということですか?」

「簡単に言ってしまえば、そういうことになります」


 水龍ちゃんの問いに、シュリさんが丁寧に答えてくれましたが、水龍ちゃんは、ちょっとがっかり顔になってしまいました。


「残念だけど、仕方がないわね。それじゃぁ、トラ丸に似た猫ならどうですか?」

「猫ですか……。ドラゴンに比べれば少ないと思いますが、かなり登録されているのではないかと思います。少し調べてみましょう」


 水龍ちゃんが、猫はどうかと尋ねると、シュリさんは、淡々とその頭に入っている情報を話してから、どこから取り出したのか、いつの間にやら手にしていた石板のようなものを触り始めました。


「シュリさん、それは何ですか?」


 水龍ちゃんが、興味津々といった顔をあらわに、シュリさんが手にした石板を指さして尋ねました。


「これですか? これは、情報端末と言う魔道具で、あらかじめ登録しておいた情報を検索して調べたりすることが出来る優れものです」

「魔道具ですか。なんかすごいですね」


「商業ギルドでしばらく前に導入されたのですが、最近、商標登録など一部の情報が検索できるようになったので、さっそく使ってみているところです。追々ですが、ギルド会員情報などの検索もできるようになるそうですよ」

「なんか良く分からないけど、すごそうです」


 シュリさんの説明に、水龍ちゃんが感心していますが、何が凄いのかはよく分かっていないようです。もっとも、シュリさんの説明から、情報関連の魔道具は、まだまだ一般には普及していないようです。


「ふむ、やはり、猫についても結構な数が商標登録されていますね。こちらをご覧ください」


 シュリさんは、情報端末をカウンターに置いて見せてくれました。そこには猫のデザイン画がいくつか並んでいます。


「うわぁ、いろんな猫がいますね。なんかかわいいです」

「なー♪」


 水龍ちゃんとトラ丸は、情報端末の画面に表示された猫たちを見て嬉しそうです。シュリさんが画面を触ってスライドさせると、黒猫、白猫、三毛猫、トラ猫など、いろいろな猫の画像が次々と映し出されてゆきます。


「双子猫とか三つ子猫みたいなのもあるのね。どれもかわいいわー」

「猫と言っても、いろいろなデザインがあって勉強になりますね」

「な~♪」


 水龍ちゃんとミリアさんが、さまざまな猫のデザイン画を見て、少しテンション高めに話していると、一緒に見ていたトラ丸も嬉しそうに尻尾をゆらゆら揺らしていました。


「でも、困ったわ。私のシンボルマーク、どうしようかしら」


 水龍ちゃんは、商標登録されているデザイン画をいろいろ見せて貰いながら、悩まし気に呟くのでした。

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