第51話 商業ギルド

 その日、水龍ちゃんは、いつものように薬師ギルドで自作のポーションを売却したあと、トラ丸を肩に乗せて商業ギルドへとやって来ました。その目的は、ポーションに貼るシンボルマークを作って商標登録をするためです。


「さすが商業ギルドね。トーマスさんみたいな人がたくさんいるわ」

「なー」


 商業ギルドに入った水龍ちゃんが、ワイワイと活気に満ちたギルド内の様子を見ながら呟くと、トラ丸が、そうだねーと共感するように鳴きました。


 商業ギルドは、薬師ギルドよりも大きく、受付の数も倍以上ありました。さらに、受付前には広い待合ロビーがあって、商人風の人達や職人風の人達が談笑していて賑わいがありました。


 水龍ちゃんは、きょろきょろと周りのようすを見ながら、正面にある総合受付と書かれたカウンターへトコトコと歩いて行きました。


「ギルドの会員登録と、シンボルマークの商標登録の相談をしたいです」

「え~と、お嬢ちゃん、お年はいくつかなぁ?」


 総合受付で、水龍ちゃんが用件を伝えると、受付のお姉さんはちょっと困った顔をして、小さな子供を相手にするように問いかけてきました。


「16歳です」

「え?」


「背は小さいですけど、16歳ですよ?」

「え~と、とても16歳には見えないわねぇ……」


 水龍ちゃんが、胸を張って自信満々に年齢を主張すると、お姉さんは、頬に手を当ててとても困った顔で呟きました。水龍ちゃんは、どこからどう見ても幼女なので、お姉さんが困るのも無理はありません。


 すると、隣で別の人の案内を終えた女性職員が声を掛けて来ました。


「どうしたの?」

「先輩、それがですね、この子16歳って言うんですけど、とてもそうは見えなくてどうしたらいいのかなって……」


「そうね、それなら、シュリさんに任せましょう」

「あ、はい。そうします」


 どうやら、受付職員のお姉さんたちの間で話がまとまったようです。


「それじゃぁ、お嬢ちゃんは、これを持って一番向こうの101番窓口へ行ってくださいね~」


 受付のお姉さんは、そう言って、101と書かれた赤い札を差し出してきました。水龍ちゃんは、赤札を受け取ると、にっこり笑顔でお礼を言って、101番窓口へトコトコと歩いて向かいました。



「誰もいないわね……」

「なー……」


 101番窓口には、受付の人は居ませんでした。

 水龍ちゃんが、赤札を手にしてトラ丸と一緒に首を傾げていると、受付の奥からビシッとスーツを着こなした壮年の男性がやって来ました。


「おや? お嬢さん、どうかしましたか?」

「あの、これを持って101番受付に行くように言われてきたのですが、受付に誰もいなくて困っていたところなんです」


 壮年の男性に声を掛けられ、水龍ちゃんは、赤札を見せて事情を説明しました。


「なるほど、失礼致しました。私は101番窓口を任されているシュリと申します。お嬢さんは私が担当させていただきますので、よろしくお願い致します」


 壮年の男性は、シュリと名乗り恭しく挨拶をしてくれました。見た目が子供の水龍ちゃんに対しても全く子供扱いすることはなく、紳士的な態度で好感が持てます。


「ご丁寧にありがとうございます。水龍と言います。この子はトラ丸です。こちらこそよろしくお願いします」

「なー」


 水龍ちゃんは、にっこり笑顔で自分とトラ丸の名を告げると、トラ丸と共にぺこりと挨拶を返しました。


 それから水龍ちゃんは、シュリさんに促されるまま受付カウンターの椅子によっこらしょっとよじ登るようにして座りました。大人用に設えられてある椅子は、水龍ちゃんにはちょっと高いのです。


「本日は、どのようなご用件でしょうか?」

「ギルドの会員登録をして、シンボルマークの商標登録の相談をしたいです」


 シュリさんが、大きな椅子にちょこんと座る水龍ちゃんを見て一瞬苦笑いしたあと要件を尋ねきたので、水龍ちゃんが、淡々と答えました。


 トラ丸はというと、水龍ちゃんの肩からぴょいっとカウンターの上へ飛び移って行儀よくおすまし顔でお座りしました。


「なるほど……。失礼ですが、水龍様は、どのような商いをなさるおつもりでしょうか?」


 シュリさんは、一つ頷いてから、尋ねてきました。その表情には、水龍ちゃんを子供扱いする様子は微塵も感じられません。


「先日、ポーション錬成技術の資格を取得しまして、私が作ったポーションを売ろうと考えています」

「ほほう、ポーション錬成が出来るのですか。それは素晴らしいことでございます。資格証を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」


 水龍ちゃんは、胸元から大事な物を入れておくための首紐付きの小さな袋を引き出して、中から資格証を出して提示しました。


「はい、ポーション錬成技術の資格証です」

「確かに確認いたしました。それでは、商業ギルド会員登録を行うにあたって、規約等について説明させていただきます」


 シュリさんは、ポーション錬成技術の資格証を確認すると、柔らかな笑顔を浮かべました。そして、カウンターの下から商業ギルド会員について分かり易く抜粋した資料を取り出し、それをもとに、いろいろと説明してくれました。


 説明の中に、会員登録の要件として、なにかしらの商いを行うに値する能力を有することが必要という話もありました。年齢制限はないそうです。


 水龍ちゃんの場合、自作したポーションを売るという意思と、それが可能な能力、つまりはポーション錬成技術の資格を有しているため、会員の要件を十分満たしているのだと、シュリさんは話してくれました。

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