4.水龍ちゃん、毒消しポーションを売り出す
第50話 販売準備
水龍ちゃんは、おばばさまの前で実際に新型ポーションを作って見せた後、調合室をきれいに片付けてから、おばばさまと一緒にお茶にしました。
「見事な青毒ポーションじゃ。さっそく売りに出すとええ」
「でも、まだ、赤毒ポーションの研究が終わってないわ」
「ふはははは、2つとも同時に売り始める必要はないじゃろ。完成した方から売り出すとええ」
「まぁ、そうだけど……。それに新型治癒ポーションの手続きも終わってないわ。そっちを先に売り出した方がいい気がするのよね」
おばばさまが、青毒ポーションの販売を勧めてくれますが、水龍ちゃんは、すこし戸惑っているようです。
「ふむ、そういえば、特許登録の手続きに手間取っているようじゃのう。しかし、まぁ、今すぐ青毒ポーションを売るかどうかは別にして、遅かれ早かれ作ったポーションを売りだすのじゃろ?」
「もちろんよ」
「ならば、今から準備をしておいてもいいじゃろう」
「準備?」
おばばさまから準備と聞いて、水龍ちゃんは、小首を傾げておうむ返しに聞き返してしまいました。なぜか、トラ丸も小首を傾げています。
「そうじゃ。薬師ギルドでは、治癒ポーション以外の買い取りはしないからのう。じゃから、それ以外のポーションを作って売ろうとするならば、その販売方法を考えんとならん」
「そうね。ばばさまの言う通りだわ」
おばばさまが言うように、薬師ギルドでは、買い手の多い治癒ポーションだけ買い取りを行っています。これは、ポーション錬成資格試験に合格したばかりの新米ポーション職人に当面の収入源を与えると共に、治癒ポーションの価格を安定させる効果を見込んだ制度だと、ポーション錬成資格試験に合格した時に薬師ギルドから聞いています。
「普通は、薬屋に雇われてその薬屋の店売りポーションを作るか、ダンジョン出入り口付近で露天売りするかのどちらかじゃな」
「ふ~ん。雇われるって、勧誘されるのはやだなぁ。どっちかというと、露天売りする方がいいかも」
おばばさまと、ポーション販売の話をする中、水龍ちゃんは、雇われるという言葉で勧誘者のことを思い出したようす。嫌そうな顔をして露店売りをする方が良いと言います。
「そう、慌てるでない」
「ん?」
「普通は、そういう選択をすると言うことじゃが、お前さんの場合は少し違った選択肢があるのじゃよ」
「えっ? どういうこと?」
おばばさまの言うことに、水龍ちゃんは、首を傾げてみせました。なぜか、トラ丸も一緒に首を傾げてみせます。
「お前さんには、この開発した新型青毒ポーションがあるじゃろ。じゃから、お前さんのブランドを立ち上げるのじゃよ」
「ブランド? 何それ、美味しいの?」
おばばさまが、これでもかというほど、口角を上げて自信満々に提案するも、水龍ちゃんにはピンとこなかったようで、トラ丸と一緒に首を傾げて見せました。
「ふはははははは、要は、お前さんが作ったポーションじゃと分かり易く示してやるということじゃよ。ほかとは違って飲みやすいポーションじゃから、飛ぶように売れるじゃろう」
「ふむふむ、なるほど、ぱっと見で私のポーションだと分かるようにするのね」
おばばさまが、高らかな笑いを上げて、要点を簡単に説明すると、水龍ちゃんも納得したようで、トラ丸と一緒にうんうんと頷いていました。
「そこでじゃ、お前さんが作ったポーションだと分かるようにシンボルマークを作るのじゃ」
「シンボルマーク? ばばさまも作ったの?」
「もちろんじゃよ。わしのシンボルマークは、ひょうたんじゃな」
おばばさまは、そう言って、懐からメモ帳を出して見せてくれました。メモ帳の表紙にはひょうたんマークの描かれた丸いシールが張り付けてあります。
「ほれ、これがわしのシンボルマークじゃよ」
「なるほど、それで、ばばさまは、ひょうたんおばばって呼ばれているのね」
「そういうことじゃ。こうやって、シンボルマークをシールにしてポーション瓶に張り付けて売っておるのじゃよ」
「シールを見れば、一目でおばばさまが作ったポーションだってわかるわね」
おばばさまは、にっこりと頷きました。
「そして、シンボルマークを商業ギルドで商標登録することで、登録した者以外が勝手に使えないようになるのじゃ」
「ふ~ん、確かに、勝手にシールを作られて貼られちゃったら困るわね」
「商標登録は、そういうことを防ぐために作られた制度なのじゃよ」
おばばさまの話に納得顔の水龍ちゃんは、さっそく紙とペンを取り出してきて、自身のシンボルマークについて考え始めました。
「やっぱりドラゴンがいいわよね」
「なー」
水龍ちゃんが、紙にドラゴンの絵を描き始めます。トラ丸は、テーブルの上にちょこんとお座りをして、ゆらゆらと尻尾を揺らしながら、描き出されるドラゴンを眺めています。
「う~ん、なかなか難しいわねぇ……」
「なぅぅ……」
水龍ちゃんが、描き終えたドラゴンの絵を眺めながら、渋い顔をしていると、隣で見ていたトラ丸も、残念そうな顔をしていました。
水龍ちゃんには、絵心が無かったようで、描かれたドラゴンは、どうみても子供の落書きにしか見えませんでした。
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