第49話 新型青毒ポーションの作り方
水龍ちゃんは、おばばさまに新型青毒ポーションの作り方を教えるために準備を始めました。実際に作ってるところを見てもらおうというのです。
実験用の小さな錬金釜と小さめの鍋、計量カップ、計量スプーン、漏斗、ろ紙、そして茶こしをテーブルに並べて、材料となるアオドクダミンとタチマチソウ、それに加えてブルーライムと呼ばれる柑橘系の小さな青色の果実を用意しました。
「さぁ、はじめるわよ」
「なー!」
青毒ポーションを作る準備が完了して、水龍ちゃんの気合の入った声に合わせて、トラ丸が頑張れーとでも言うように声を上げました。おばばさまは、そんな2人のようすを微笑ましく見つめています。
水龍ちゃんは、計量スプーンを使ってアオドクダミンの分量を量り、錬金釜へと入れました。それから人差し指をぴっと立てて、小さな魔法の水球を生み出すと、ひょいっと錬金釜へと注ぎ入れ、魔導コンロのスイッチを入れました。
「ほう、タチマチソウは入れないのかの?」
さっそくおばばさまが、従来の作り方との違いを尋ねてきました。従来の作り方ではアオドクダミンとタチマチソウの2種類の薬草をいっぺんに入れていたのです。
「今はまだ入れないわ。でも、あとでちゃんと入れるわよ」
「ふむ、初手から違いがあるのじゃな。これは楽しみじゃのう」
水龍ちゃんが、にこにこしながら答えると、おばばさまは、興味津々に水龍ちゃんの青毒ポーション作りを見つめます。
魔法水の温度が上がってくると、薬草から緑色の成分がじんわりと溶け出してきました。魔法水が沸騰したところで、水龍ちゃんはコンロを弱めて薬草をコトコトと煮込み始めます。魔法水はだんだんと緑色が濃くなってゆきます。
「ポーション錬成はせんのかの?」
おばばさまは、いつまで経ってもいっこうにポーション錬成を始めない水龍ちゃんに尋ねました。
「ふふっ、今はアオドクダミンの下ごしらえの段階なの。こうして薬草を煮出すことで苦みやえぐみの成分が溶け出してくるのよ」
「下ごしらえのう……。しかし、毒消し成分まで溶け出してしまうと思うのじゃが、良いのかの?」
おばばさまは、下ごしらえと聞いて、苦みやえぐみを取り除くのだろうと考えたのでしょう。だけど、毒消し成分も一緒に溶け出すのなら、あまり意味がないのではないかと思ったようです。
「大丈夫よ。実験の結果、ポーション錬成しなければ、毒消しの有効成分はほとんど薬草から溶け出さないことが分かったの」
「ほほう、そうじゃったのか。そんなこと、このおばばも知らなんだわい」
水龍ちゃんの説明に、おばばさまは、たいそう感心していました。テーブルの上にちょこんとお座りしているトラ丸が、なぜかドヤ顔で胸を張っていました。
水龍ちゃんは、チラチラと時計を見ながら錬金釜のようすを確認し、一定時間が過ぎたところでコンロを止めました。
そしてテーブルの引き出しから鍋掴みを出して手にはめると、熱々の魔法水が入った錬金鍋を持ち上げて、茶こしを通して煮出した魔法水を小鍋に注ぎ入れました。
「ふむ、先ほどの説明じゃと、こっちの鍋に移した魔法水に苦み成分が溶け出しているということじゃな?」
「そうよ。ポーション錬成する前に、苦みやえぐみの成分を取り出して、棄ててしまえばいいって気付いたの」
「なるほど、それで下ごしらえということじゃな」
「えへへ、そういうことよ」
水龍ちゃんは、にっこり笑顔で、魔法で小さな水球を作り出すと、その水球で茶こしの中の薬草をジャブジャブとすすぎ洗いしてから茶こしを通して水球を鍋へと落としました。茶こしに残った薬草は、錬金釜へと戻しました。
それから、水龍ちゃんは魔法で新しく出した魔法水を計量カップで量って錬金釜へと注ぎ入れ、魔導コンロで加熱しました。さらに水龍ちゃんは、タチマチソウを計量スプーンで量って錬金釜へと投入しました。
「ふむ、ここで、ようやくタチマチソウを投入するのじゃな」
「そうよ」
「じゃが、従来よりも随分と量が少ないようじゃのう」
「いろいろ試してみたけど、ほんのり香りづけ程度が一番飲みやすかったの。ちなみに、全く入れないと不思議とえぐみが残ってダメだったわ」
水龍ちゃんが、タチマチソウについて説明すると、おばばさまは、なるほどのうと感心しきりでした。
錬金釜の魔力水が沸騰すると、水龍ちゃんはコンロを弱めて、ミスリル製の掻き混ぜ棒を手にとり、ポーション錬成を始めました。うっすらと緑色をしていた魔力水はぽわんと淡く光を発して、ゆっくりと青みがかり、薬草から青紫色の成分が滲み出てきました。
じっくりコトコト煮込みながらじっくりじっくりポーション錬成をしてゆき、十分毒消し成分が溶け出したところで、水龍ちゃんは錬成をやめてコンロを止めました。
「こいつはどうするのじゃ?」
おばばさまが、テーブルの上に置かれたブルーライムを指差して尋ねました。
「果汁を冷ました青毒ポーションに加えるのよ。少し加えるだけで、すっきりして飲みやすくなるわ」
「なるほど、味にこだわっとるのう」
はにかみながら答える水龍ちゃんに、おばばさまは微笑みながら感心しきりです。
ポーションが冷めるのを待っている間、水龍ちゃんは、おばばさまにポーション研究中のあれこれを話して聞かせていました。
冷めたポーションをろ過して計量カップへ注ぎ入れ、ブルーライムを絞った果汁を小さな計量スプーンで量って混ぜれば完成です。水龍ちゃんは、出来た新型青毒ポーションを小さじでちょこっとすくって味見をすると、満足顔で頷きました。
水龍ちゃんは、漏斗でポーションを瓶へ注いで蓋をして、ポーション鑑定魔道具に掛けました。ちゃんとポーション等級を確認するのは、ポーション作りの基本です。結果は、3級、それも上の方でした。
「うむ、ポーション等級も安定しているようじゃな。ほんとうに、ここまでよく頑張ったのう」
「えへへ」
おばばさまが、うんうんと頷きながら褒め称えると、水龍ちゃんは、それはもう嬉しそうにはにかみました。そして、テーブルの上では、やはりトラ丸がドヤ顔で胸を張っていました。
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