3.水龍ちゃん、毒消しポーションを研究する
第43話 研究開始
アオドクダミンだけで作った青毒ポーションの壊滅的なマズさに撃沈した水龍ちゃんは、当面、毒消しポーションの研究をすることにしました。
とはいえ、急ぐこともありません。水龍ちゃんは、おばばさまと一緒にキッチンに立ち、晩ご飯にと肉じゃがを作りました。もちろん、おばばさまに作り方を教わりながら一生懸命つくりました。
「ん~!! 美味し~い!」
「な~♪」
はじめて作った肉じゃがは格別で、ホクホクのジャガイモを頬張って、水龍ちゃんもトラ丸もご機嫌でした。パクパクもぐもぐと美味しそうに食べる姿を見て、おばばさまも自然と笑顔になりました。
美味しいご飯を食べて、後片付けをした後は、ハーブティーで一息つきました。水龍ちゃんが、勧誘者に会った話をすると、おばばさまは怪訝な顔で、うかつに契約書にサインをしないようにと注意してくれて、さらには信頼できる人達に相談するようにとアドバイスをしてくれました。
お茶の時間を切り上げると、水龍ちゃんは、調合室へ入って毒消しポーションの研究について考えます。
「赤毒ポーションと青毒ポーションがあるけど、ここはよりひどい味の青毒ポーションの研究が先よね。少しでも改善できれば、きっと喜んでくれるはずよ」
「なー」
水龍ちゃんが腕を組みながら呟くと、テーブルの上にちょこんとお座りしているトラ丸が、いいんじゃないかなーという感じで鳴き声を上げました。
「まずは、アオドクダミンから溶け出す有効成分の量を調べたいわね」
「なー……」
水龍ちゃんが、アオドクダミンの入った薬草缶を手に取って呟くと、トラ丸がちょっと心配顔で鳴きました。トラ丸は、水龍ちゃんがアオドクダミン単独で作ったポーションで撃沈したことをしっかりと覚えているようです。
「ふふっ、心配しなくても大丈夫よ。有効成分の確認はポーション鑑定魔道具で出来るから、味見なんかしないわよ」
「なー」
水龍ちゃんが、心配そうなトラ丸を優しく撫でながら味見はしないと言うと、トラ丸は、良かったと、安心したようにひと鳴きしました。
水龍ちゃんは、トラ丸をモフモフしながら考えを続けます。
「今、わかっているのは、薬草茶では、ほとんど有効成分が溶け出さないこと。それから、ばばさまが言うには、煮込めば煮込むほど有効成分がたくさん溶け出すらしいということね……」
「なー」
トラ丸が、気持ちよさそうにモフモフされながらも、そうだねーと相づちをうつように、かわいらしく鳴き声を上げます。
「じゃぁ、まずは、アオドクダミンだけで基礎データを取っていこうかな。錬成する温度と時間を数パターン設定して、それぞれ、どの程度の等級が得られるか、データを並べてみれば、なにかみえて来るに違いないわ」
水龍ちゃんは、そう決めると、さっそく実験に取り掛かりました。
トラ丸は、水龍ちゃんが味見しないと聞いたからでしょうか、テーブルの上で大人しく水龍ちゃんのことを見守ります。
真剣な顔で、しかし、楽しそうに、水龍ちゃんは、しばらくの間、実験に没頭するのでした。
「なー」
「ん? どうしたの?」
トラ丸の鳴き声に、水龍ちゃんが反応しました。トラ丸は、水龍ちゃんの視線を誘導するように、ゆるりと時計の方へ視線を向けました。
「あら、もうこんな時間なのね。トラ丸、教えてくれてありがとう。切りのいいところでやめて片付けるとしましょ」
時計の針は、そろそろ寝る時間を示していました。水龍ちゃんは、ろ過中のポーションをろ過し終えると、ポーション鑑定魔道具で鑑定をかけながらテキパキと後片付けをしました。そして、鑑定結果をメモしてから、調合室を出て今日はもう眠ることにしました。
翌朝、水龍ちゃんは、いつものように販売用の2級ポーションを作り、おばばさまと朝食を食べてから、家の掃除をしました。そして、薬師ギルドの営業開始の頃合いをみて、おばばさまと一緒に家を出ます。もちろん肩にはトラ丸を乗せています。
「薬師ギルドの向かいに、勧誘者がいるわ」
「あの街灯の陰にいるスーツを着た男かの?」
薬師ギルドが見えてきたところで、水龍ちゃんが勧誘者へと視線を向けて、その存在を口に出すと、おばばさまは眉を顰めて確認します。
「ええ、そうよ。はっ!? 朝っぱらから高額請求をしてくるのかしら!?」
「いや、さすがにそれは無いじゃろ……」
水龍ちゃんが、はっとして、かなり無理がある妄想を口に出すと、おばばさまが、呆れた顔で突っ込むのでした。
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