第42話 2種類の薬草を使う意味

「まさか、アオドクダミンだけでポーションを作ったら、あんなにひどい味がするなんて思ってもみなかったわ……」

「ふはははは、アオドクダミンは、ポーション錬成すると途端に味がひどくなるからのう」


 水龍ちゃんが、水の入ったコップを手にして、げっそりとした顔で呟くと、おばばさまが笑い飛ばしながら教えてくれました。


「だから、タチマチソウと一緒にポーション錬成するの?」

「うむ、先人の知恵じゃな。タチマチソウと一緒に煮出すと、不思議とえぐみが薄まって、なんとか飲める味になるのじゃよ」


 おばばさまが、そう教えてくれました。


 つい先ほど、おばばさまは、帰って来るなり調合室でぐったりしている水龍ちゃんを見つけると、何事かと驚きながらも介抱してくれたのです。おばばさまは経緯を聞くと、呆れた顔で水を飲ませてくれました。


 水龍ちゃんは、作った青毒ポーションのあまりのマズさに、精神的にやられてしまっていただけで、体に別状はありませんでした。


「もしかして、アカレギョウンの方も単体でポーション錬成すると、ひどい味になっちゃうのかしら?」


 水龍ちゃんが、膝の上でトラ丸をモフモフしながら、にわかに顔を引き攣らせつつ呟きました。


「いや、赤毒ポーションの方は、アカレギョウンだけで作っても、ちと辛いが飲めないほどではないのう」

「えっ? じゃぁ、なんでロゼールソウと一緒にポーション錬成するの?」


 おばばさまの言葉に、水龍ちゃんは首を傾げて疑問を投げかけました。だって、ロゼールソウと一緒にポーション錬成する理由が思いつかないのです。


「ロゼールソウは、ポーションに赤みを色付けするために使っておるのじゃよ」

「色付け?」


「うむ、アカレギョウンはポーション錬成すると、紫色になるのじゃよ。そうすると青毒ポーションと色が似ていて、間違えやすいのじゃ」

「なるほど、それで、赤色を混ぜて赤紫色にするのね」


「まぁ、同じ紫じゃが、青毒ポーションは青紫じゃ、ロゼールソウの赤みを入れることで赤毒ポーションが赤紫になって区別がつきやすくなるということじゃ」


 おばばさまと話をして、水龍ちゃんは、ようやく謎が解けたと納得顔で、トラ丸をモフモフして癒されていました。


「ところで、お前さんの作った赤毒ポーションと青毒ポーションは、いったい何級相当のポーションになったのじゃ?」

「ん? ポーション鑑定魔道具に掛けたら、どちらも4級だったわよ」


「うーむ、やはりのう」

「?」


 水龍ちゃんが作った毒消しポーションの等級を聞いたおばばさまは、予想通りだと言わんばかりに微笑みました。そんなおばばさまのようすに、水龍ちゃんはトラ丸と一緒に首を傾げます。


「赤毒ポーションと青毒ポーションはの、じっくり煮込みながら錬成していくと徐々に効果が高くなっていくのじゃよ。とはいっても限界はあるがの。だいたい沸騰してから10分くらい煮込みながら錬成するのが普通じゃのう」

「えっ!? 10分も!? うわぁ、なんかすごく苦くなりそう!」


 おばばさまの話を聞いて、水龍ちゃんは目を見張って驚いたあと、すごく苦そうな顔をしました。トラ丸は、そんな水龍ちゃんを心配そうに見上げています。


「ふはははは、そりゃぁ、まぁ、煮込めば煮込むほど苦くなるわのう。じゃが、毒を喰らえば、どうせ飲むのじゃから、効果が高い方が喜ばれるのじゃよ」

「うえぇ……」


 やはり苦くなるのだと聞いて、水龍ちゃんは、顔を引き攣らせて嫌そうな声を上げました。


「う~ん、毒消しポーションを作ってる人達は、もう少しなんとかしようとは思わないのかしら?」

「赤毒、青毒については、効果重視で味は二の次じゃのう」


 水龍ちゃんが、膝の上のトラ丸を優しくなでながら素直な意見を述べると、おばばさまは、淡々と実情を教えてくれます。


「今より少し飲みやすくなるだけで、きっと売れるわよ?」

「そりゃぁ、そうじゃろうな。じゃが、毒消しポーションを改良しようという者はおらんじゃろうな」


「どうして?」

「毒消しポーションは、治癒ポーションに比べて売れる数がかなり少ないからのう、どうせ研究するなら治癒ポーションの方を研究するじゃろうな」


 さらに、おばばさまは、売れる数から考えて、毒消しポーションを研究する奇特な人はいないだろうと説明してくれました。水龍ちゃんには、毒消しポーションがどれだけ売れているのか分かりませんが、確かにたくさん数が売れる方を研究するだろうというのは理解できます。


「それじゃぁ、私が研究してみようかな」

「ふはははは、そりゃぁ、いいのう。お前さんなら、きっと良い毒消しポーションが出来るじゃろうて」


 水龍ちゃんが、トラ丸を抱き上げて毒消しポーションの研究に意欲を示すと、おばばさまが、嬉しそうな、そして期待の籠った声で応援してくれるのでした。

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