第41話 青毒ポーション再び

 お昼に天ぷらうどんを食べたあと、水龍ちゃんは、アーニャさんに送ってもらって帰宅しました。アーニャさんからは、戸締りをしっかりして、不用意に鍵を開けないようにと強く言われました。


「さてと、ばばさまが帰って来るまで薬草について聞けないし、なにをしようかな」

「なぅ?」


 水龍ちゃんが、調合室で腕を組んで呟くと、トラ丸が、テーブルの上で、なにするの?と言わんばかりに首を傾げて鳴き声をあげました。


「う~ん、もう一度、毒消しポーションを作ってみようかしら」

「なー」


 水龍ちゃんが呟くと、トラ丸も、いいんじゃないという感じでかわいらしく答えてくれます。


「全く同じというのもなんだし、試しに、解毒効果のある薬草だけで作ってみるのがいいわね。それと、薬草茶にしてから錬成するのも試してみましょ」


 そう言って、水龍ちゃんは、楽しそうにポーション作りの準備を始めました。

 トラ丸はテーブルの上に薬草の入った筒が出されると、嬉しそうにペシペシとネコパンチを食らわせて遊んでいました。


「まずは、青毒ポーションね。薬草は解毒効果があるアオドクダミンを使うとして、分量は取りあえずレシピ通りにしましょ」


 水龍ちゃんは、アオドクダミンと魔法水をレシピに書かれた通りに分量を量って錬金釜へと入れ、コンロで加熱しました。やがて、魔法水の温度が上がってくると薬草から緑色の成分がじんわりと溶け出してきました。


「色は、2種類の薬草を入れたときと変わらないみたいね」


 水龍ちゃんは、ふむふむと魔法水の色合いを観察してから、掻き混ぜ棒を手にしてポーション錬成を始めました。魔法水がぽわんと淡く光を発しながら、色がゆっくりと変化をはじめ、徐々に青みを帯びてゆきます。


 魔法水が沸々とするころには青色に近くなっていて、しばし魔力を込めて混ぜ続けると、やがて青紫色へと変わってゆきました。トラ丸は、いつのまにやらテーブルの上で丸くなって眠っていました。


「うん、出来たわね。冷めるのを待っている間に、アオドクダミンの薬草茶を作りましょ」


 水龍ちゃんは、小さな片手鍋に魔法水を入れてコンロでお湯を沸かし、沸騰したら加熱を止めて、アオドクダミンを適当にすくって鍋に入れました。蓋をして5分ほど蒸らしてから、茶こしを通してカップに注ぎ入れて、薬草茶の完成です。


「うん、緑色のお茶ね。美味しいかどうかは別にして、とりあえずポーション錬成してみましょ」


 水龍ちゃんは、そう言って、掻き混ぜ棒でカップの中の薬草茶をポーション錬成してみました。しかし、薬草茶の色は緑色のままほとんど変わりません。


「う~ん、色が変わらないわね。光るようすも無いし、ポーション錬成できてないのかしら?」

「なー?」


 水龍ちゃんが首を傾げていると、いつのまにやら起き出してきたトラ丸が、かわいく首を傾げて鳴き声を上げました。


 水龍ちゃんは、ポーションの小瓶にカップの薬草茶を入れ、ポーション鑑定魔道具で鑑定してみました。結果、魔道具のアナログメーターは、ほとんど動きませんでした。


「やっぱり、ポーション錬成できてなかったわ。薬草茶には、ポーション錬成できる成分が溶け出していないのね。治癒ポーションとは全然違うわ」


 水龍ちゃんは、ちょっとがっかり顔です。


「うん、薬草茶じゃ、ダメだと言うことが分かったので、よしとしましょ。さぁ、冷えた青毒ポーションをろ過して確認してみましょ」


 水龍ちゃんは、気を取り直して、ほどよく冷めた青毒ポーションをろ過して、ポーションの小瓶へと入れました。そして、ポーション魔道具で鑑定を掛けます。


「うん、4級ポーションね。薬草1種類だけだったけど、ちゃんとポーション錬成できてるみたいだわ。なんでレシピは2種類の薬草を使っているのかしら?」


 青毒ポーションの鑑定結果を見て、水龍ちゃんは腕を組んで首を傾げました。


「まぁ、いいわ。期待できそうにないけど、味見してみましょ」


 水龍ちゃんは、青毒ポーションの毒々しい色合いに顔を顰めながら、味見するためにポーションをカップへ注ぎ入れました。


「なー……」

「だ、大丈夫よ。ちょっとだけ、ほんのちょっと味をみるだけだから大丈夫……のはず……」


 心配そうに見つめるトラ丸に、水龍ちゃんは、大丈夫だと言い聞かせ、意を決してカップに口を付けました。


「ぐはっ!?」

「なー!!」


 水龍ちゃんは、青毒ポーションを一口飲むなり、呻き声とともに机に突っ伏してしまい、驚いたトラ丸が毛を逆立てて悲鳴のような鳴き声を上げました。


「ひ、ひどい味……、これはダメだわ……」

「なー……」


 なんと、水龍ちゃんは、青毒ポーションのあまりのマズさに撃沈したのでした。トラ丸は、真っ白な顔をして突っ伏している水龍ちゃんを癒すように、頬をぺろぺろと舐めてくれるのでした。

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