第40話 薬草調べ

 アーニャさんと図書館へ入った水龍ちゃんは、薬草の本を取り出してきて、机と椅子の並べられている読書スペースに陣取りました。


「さて、毒消しポーションに使う薬草について調べるわよ」


 水龍ちゃんは、ふんすと意気込むと、薬草の本を広げてパラパラとページをめくってゆきます。トラ丸は、机の上でお座りして、めくられるページを目で追いかけています。


 そんな様子を微笑ましく見ながら、アーニャさんは、1冊の本を手にそっと水龍ちゃんの隣へ座りました。


「見つけたわ。アオドクダミン、青毒ポーションの薬草ね。えーっと……」


 水龍ちゃんは、さっそくお目当ての薬草について書かれているページ見つけて、ふむふむと読みふけります。トラ丸は、トコトコと回り込んで、水龍ちゃんと本の間に入り込むと、ちょこんとお座りして、じーっと本を眺め始めました。


 青毒ポーションに使われる薬草は、アオドクダミンとタチマチソウです。順番に調べた結果、アオドクダミンは、青毒に対する強い解毒効果があり、タチマチソウには整腸効果があることがわかりました。


 続いて、赤毒ポーションに使われるアカレギョウンとロゼールソウについて調べてゆきました。アカレギョウンには、赤毒に対する強い解毒効果があり、ロゼールソウは、風邪の予防効果があるハーブで、バーブティーとして広く一般に嗜まれていることがわかりました。


 水龍ちゃんは、赤毒ポーション、青毒ポーション、それぞれに使われている薬草を調べ終えると、腕を組んで考え込んでしまいました。


「なー?」

「ん? 大丈夫よ。ちょっと分からないことがあって、考えていたの」


 難しい顔をしていた水龍ちゃんに、トラ丸が、大丈夫?とでも言いたげに心配顔で鳴くと、水龍ちゃんは、にっこり笑みを浮かべてトラ丸をなでなでしました。


「何をそんなに考え込んでいたの?」


 そんな2人の様子を見て、隣の席に座っていたアーニャさんが、読んでいた本から視線を上げて尋ねてきました。


「え~っとね、毒消しポーションの材料になる薬草を調べてたんだけど、解毒効果のない薬草も使っているのね。それで、なんでかな~って考えていたの」


 水龍ちゃんは、少し頭を巡らせて、掻い摘んで説明しました。


「なるほど。私はポーションのことについては、よく分からないけど、本を読んでも分からないなら、おばばさまに聞いてみるといいんじゃないかしら?」

「そうね。ばばさまなら知っているかもしれないわね。うん、帰ったら、聞いてみることにするわ」

「なー」


 アーニャさんからのアドバイスを受けて、水龍ちゃんは、ちょっとすっきりしたようでした。トラ丸も、よかったねと言っているようです。


「うふふっ、それじゃぁ、お昼ご飯でも食べにいきましょうか」

「あら? もうそんな時間? って、お昼を回っちゃってるわ!」


 アーニャさんの言葉に、水龍ちゃんは図書館の壁に掛けられている時計を見てびっくりしてしまいました。


「そうよ。水龍ちゃんったら、時間を忘れるほど集中していたものね」

「えへへ、本を読みだすとつい夢中になっちゃって」


 水龍ちゃんは、はにかみながら本を閉じると、そそくさと本棚へ薬草の本を戻しに行くのでした。




 図書館を出ると、アーニャさんが辺りをぐるりと確認してから、水龍ちゃんに例の勧誘者の気配がないか尋ねてきました。水龍ちゃんが、近くにはいないと答えると、アーニャさんは、ほっとしたようでした。


 それから、アーニャさんお勧めのうどん屋さんへと行きました。水龍ちゃんとトラ丸は、はじめて見るうどんに興味津々です。どれも美味しいというので悩みましたが水龍ちゃんは天ぷらうどんを頼みました。


 しばし待つ間に、水龍ちゃんは、トラ丸用にとバックパックに入れておいた木皿を出しておきました。出て来た熱々のうどんの美味しそうな匂いに、水龍ちゃんとトラ丸のテンションが高まります。


「美味しそうだね、トラ丸!」

「なー!」


 さっそく、水龍ちゃんは、箸を使ってトラ丸の分を木皿に取り分けてあげました。おばばさまの家では食事に箸を使うことが多いため、水龍ちゃんの箸使いも、ずいぶんと上手になっています。


「「いただきま~す」」

「な~」


 水龍ちゃんとトラ丸は、キラキラ瞳を輝かせてうどんを食べはじめました。しょうゆベースで出汁の旨味が効いた汁は、ほんのりやわらかな甘さがあり、各種野菜の天ぷらから染み出る油がまた深い味わいを出していて、こしのあるうどんの麺と共に、口いっぱいに美味しさが広がります。


「う~ん、美味しいわ!」

「な~♪」


 水龍ちゃんもトラ丸も、ご満悦です。ずるずる、もぐもぐと幸せそうに食べるようすは、一緒に食べるアーニャさんも自然に笑顔にしてくれます。


「うふふっ、水龍ちゃんって、本当に美味しそうに食べるわね。一緒に食べるといつもよりも美味しく感じるわ」

「えへへ、とっても美味しいですよ!」

「な~♪」


 テーブルを囲む3人は、とても幸せそうにうどんを平らげるのでした。

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