第35話 服屋さん

 おいしいお昼ご飯を食べた後は、お買い物の時間です。今日、水龍ちゃんは、アーニャさんと服を買いに行く約束をしていたのです。ちなみにアーニャさんは、午後からお休みを取っています。


「さぁ、ここがお勧めの服屋さんよ。デザインも豊富だから、きっと水龍ちゃんの気に入る服もあるはずよ」

「わぁ~、いろいろな服があるのね! 目移りしちゃうわ!」

「な~!」


 アーニャさんに連れられて、服屋さんへと足を踏み入れた水龍ちゃんは、目の前に広がるたくさんの服に、瞳をキラキラ輝かせます。肩に乗ってるトラ丸も服に興味があるのか、水龍ちゃんと同じように瞳を輝かせています。


 水龍ちゃんが、気に入った服をいくつか手に取ってみていると、アーニャさんから試着を勧められて試着室へと入りました。水龍ちゃんは、自身が選んだフリフリ付きのワンピースを着て上機嫌です。


「まぁ、水龍ちゃん、可愛らしいわ!」

「よくお似合いですわ!」


 淡い緑色のワンピースを試着した水龍ちゃんを見て、アーニャさんと店員のお姉さんが、歓喜の声を上げました。


「水龍ちゃんには、こっちの服も似合うと思うの。試着してみてね」

「はい」


 アーニャさんが選んで渡してくれたのは、白を基調としたちょっとおしゃれな洋服です。水龍ちゃんは、さっそく着替えてお披露目しました。


「どうかしら?」

「素敵よ! 水龍ちゃん! とっても似合っているわ!」

「なー!」


 ちょっと照れくさそうに、お披露目した水龍ちゃんを、アーニャさんが瞳をキラキラ輝かせながら褒めてくれます。トラ丸も、似合ってるよと言いたげに、嬉しそうな鳴き声を上げました。


「とてもお似合いですわね。この辺りのもいいと思いますよ。是非試着してみてください」


 そこへ店員のお姉さんが、新たな服を手にして、水龍ちゃんに差し出しました。赤を基調としたドレス風の洋服です。キラキラと期待に瞳を輝かせるアーニャさんと店員のお姉さんに勧められ、水龍ちゃんもえへへと笑ってまんざらではないようす。


すぐに着替えて試着室から出て来た水龍ちゃんは、少し照れくさそうです。


「ちょっと、派手じゃないかしら?」

「そんなことないわ! とっても素敵よ!」

「そうですわ! ほかにも素晴らしい商品を用意しておりますので、是非試着してみてくださいませ!」


 赤いドレスを身に纏った水龍ちゃんの姿を見ると、アーニャさんと店員のお姉さんが、鼻息を荒くして絶賛しました。そして、2人は顔を見合わせ頷きあうと、勢いよく服を探し出しました。


 それからはもう、水龍ちゃんは、着せ替え人形のごとく2人が持ち寄って来るさまざまな服をとっかえひっかえ着せられて、プチファッションショーのようになってしまいました。


 アーニャさんはもちろんのこと、店員のお姉さんもずいぶんと楽しそうにしていたので、問題はなさそうです。なんだかんだで、いろいろな服を着ることができて、水龍ちゃんも楽しんでいました。トラ丸だけは、途中で飽きてしまったようで、試着室の片隅で丸くなっていました。


 結局、水龍ちゃんは、洋服2着の購入を決め、お会計を済ませました。


「試着だけでも結構ですので、是非とも、またお越しください!」

「あはははは……」


 帰り際、店員のお姉さんが水龍ちゃんの両手をガシっと握りしめ、力強く次の来店を訴えてきたのに対して、水龍ちゃんは、苦笑いで答えるのが精一杯です。隣でアーニャさんがにこにこ笑顔で、もちろんですよと答えていたのが印象的でした。



 水龍ちゃんが、買った服を入れてもらったマイバッグを手にして店を出ると、アーニャさんが声を掛けて気ました。


「水龍ちゃん、背中のバッグには入らなかったの?」

「後ろのバッグは、毒消しポーション用の薬草でいっぱいなの。ハンターギルドへ行く前に買ったんだけどね、家に戻ってる時間がなくって、そのまま持ってきちゃったのよ」


 水龍ちゃんは、そう言って、小さく肩を竦めてみせました。


「ふうん、毒消しポーションか……。そう言えば、最近、ダンジョンで毒を持つ魔物が増えているって聞いたわね。今作れば、ハンター達に結構売れると思うわよ」

「そうなんですか? それじゃぁ、頑張って作らなきゃだわ」


 アーニャさんから毒消しポーションが売れると聞いて、水龍ちゃんは小さな拳をきゅっと握りしめて、すっかりやる気になっていたのでした。

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