第34話 カレーライス
毒消しポーションの材料を購入した水龍ちゃんは、エメラルド商会を後にしました。水龍ちゃんのバックパックは、買い付けた薬草で膨らんでいます。
「う~ん、思いのほか時間が掛かってしまったわね。アーニャさんとの約束まであまり時間がないから、このまま直接ハンターギルドへと向かいましょうか」
「なー」
水龍ちゃんが、肩に乗っているトラ丸に次の行先を話すと、トラ丸は、そうだねと言わんばかりに鳴き声を返しました。
「トラ丸、勧誘されないように気を付けないとね」
「なー」
トコトコと街を歩く水龍ちゃんは、トーマスさんが話してくれた勧誘の話が気になるようで、トラ丸に話しかけています。
「勧誘されると、あとで高額請求されるらしいわよ。怖い話よね」
「ぅな?」
水龍ちゃんの肩に乗って、話し相手をしていたトラ丸でしたが、勧誘イコール高額請求となっているような水龍ちゃんの話しぶりに小首を傾げてしまいました。なんかちょっとちがくない?と目で訴えているようです。
ハンターギルドへ着くと、水龍ちゃんは、いつものように2階の受付へと向かいました。
「アーニャさん、こんにちは」
「水龍ちゃん、よく来てくれたわね。って、かわいい子猫ちゃんね」
挨拶もそこそこに、アーニャさんは、水龍ちゃんの肩に乗ってるトラ丸に目が行ったようです。
「新しく家族になったトラ丸です」
「なー」
水龍ちゃんが紹介すると、トラ丸は、かわいらしい鳴き声で挨拶してから、ぴょいっと、カウンターの上に飛び乗りました。
「まぁ、かわいい! 私は、アーニャよ。よろしくね、トラ丸ちゃん」
「な~」
アーニャさんが手を差し出しても、トラ丸は嫌がることなく、そのままアーニャさんに撫でられていました。すぐにほかの女性職員も寄って来て、きゃいきゃいとトラ丸を代わる代わる撫でまわします。またたく間に、トラ丸はハンターギルドのアイドルとなってしまいました。
お昼ご飯は、アーニャさんに連れられて、カレーの美味しいというお店へ入りました。水龍ちゃんは、アーニャさんお勧めの特製カレーライスを頼みました。
「これが、カレーライスね。なんか独特の香りがするわ」
「ふふっ、カレーにはいろいろなスパイス使われているのよ。ちょっと辛いけど、とっても美味しいわよ」
水龍ちゃんが、はじめてのカレーライスをまじまじと見つめながら素朴に感じたことを口に出すと、アーニャさんが微笑みながらカレーについて教えてくれました。トラ丸もテーブルの上でカレーライスのお皿に顔を寄せて、すんすんと匂いを嗅いでいます。
さっそく水龍ちゃんは、いただきますをして、スプーンでカレーを少しすくって味見をするように食べました。
「ちょっと辛いけど、すごく美味しいわ!」
水龍ちゃんは、瞳をキラキラ輝かせ、満面の笑みを浮かべました。そして、すぐにもう一口、こんどはご飯と一緒に口へ放り込むと、もぐもぐしながら、トラ丸にもカレーライスを食べさせました。
「な~!!」
トラ丸も瞳をキラキラ輝かせ、ちょっと興奮気味に鳴きました。
水龍ちゃんとトラ丸が、そろって瞳を輝かせ、嬉しそうにもぐもぐとカレーライスを食べるようすを、アーニャさんは微笑ましく見つめていました。
「うふふっ、2人とも気に入ってくれたみたいね」
「すっごく、美味しかったわ!」
「な~!」
カレーライスをぺろりと平らげて、水龍ちゃんもトラ丸もご満悦です。
食後は冷たい麦茶を飲みながら、お話タイムです。水龍ちゃんは、トーマスさんから聞いた勧誘の話をしました。
「アーニャさん、勧誘してくるような悪党は、殴り倒して警察に突き出した方がいいわよね?」
「えーっと、水龍ちゃん、暴力はダメよ。それに勧誘自体は犯罪じゃないから、突き出されても警察も困ってしまうわね」
「ええっ!? 警察も手が出せないんですか!?」
水龍ちゃんは、ひどく驚いてしまいました。
「それに、殴り倒したら、逆に訴えられたりして、それこそ悪党たちの思うつぼよ」
「はっ!? 治療費とかいって高額請求されるんですね!?」
「場合によっては、逆に警察に突き出されるかもしれないわね」
「ええっ!?」
水龍ちゃんは、頭を抱えてしまいました。そんな水龍ちゃんを宥めるように、トラ丸がすりすりしてくれます。
「とにかく、暴力だけはダメよ。そういう場合は――」
それから、アーニャさんが勧誘された場合の対処方法をいろいろとアドバイスしてくれました。水龍ちゃんは、トラ丸と一緒に真剣な顔つきで、悪徳勧誘対策を学ぶのでした。
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