2.水龍ちゃん、毒消しポーションをつくる
第36話 青毒ポーションづくり
「さぁ、毒消しポーションを作ってみましょ」
水龍ちゃんは、調合室で、ふんすとやる気をみなぎらせました。
「赤毒ポーションと青毒ポーション、どっちを作ろうかしら? う~ん、赤毒ポーションの材料が高くなってるから、こっちは後回しにして、まずは青毒ポーションからにしましょ」
水龍ちゃんは、青毒ポーションを作ってみることにして、薬草の入った2つの筒をテーブルへ並べました。金属製の筒には、薬草名を書いたラベルが張ってあります。
トラ丸が、薬草の筒にペシペシと軽くネコパンチを繰り出して遊んでいるようすを微笑ましく見ながら、水龍ちゃんはレシピを確認し、必要な計量カップと計量スプーンを準備します。
「よし、準備完了。トラ丸、青毒消しのポーションを作るから、いたずらしちゃだめよ」
「なー」
トラ丸が、かわいらしく返事をして、ちょこんとお座りすると、水龍ちゃんは、おりこうさんねと微笑んでから作業を開始しました。
「まずは、薬草ね」
水龍ちゃんは、計量スプーンを使って、2種類の薬草をレシピ通りに錬金釜へ投入します。
「よし、次は魔法の水よ」
水龍ちゃんは、人差し指をひょいっと上げて空中に魔法で水を発生させると、計量カップへ注ぎ入れました。魔法で必要な量の水をピッタリ作り出すところは、さすが水龍ちゃんです。
水龍ちゃんは、計量カップの水の量をしっかりと確認してから、錬金釜へ注ぎ入れると、温度計をセットしてコンロをつけました。
「レシピには、ぐつぐつ煮ながら錬成するって書いてあるけど、やっぱり苦みが出るんじゃないかしら?」
水龍ちゃんが、かわいらしく腕を組んで首を傾げてみせると、トラ丸も真似して首を傾げていました。
「まぁ、はじめてだし、沸騰したら加熱を弱めて、あまりぐつぐつしないようにすればいいわね」
水龍ちゃんは、錬金釜をじーっと覗き込みました。錬金釜の温度が上がってくると薬草から緑色の成分がじんわりと溶け出してきました。
「ふふっ、薬草成分が出て来たわ。ポーション錬成開始よ」
水龍ちゃんは、ミスリル製の掻き混ぜ棒を手にして、錬金釜の中をゆっくりと掻き混ぜます。魔力を込めて混ぜることで、薬草成分を変化させてポーションを作るのです。
錬金釜の中の魔法水が、ぽわんと淡く光を発して、ゆっくりと色が変わってゆきます。途中、魔法水が沸騰しはじめ、コンロの加熱量を調整しましたが、魔法水は、緑色から青色を経て、やがて青紫色へと変わりました。
「う~ん、これ以上、魔法水の色は変わらないみたいだわ。これで錬成は完了ってところかしら?」
水龍ちゃんは、掻き混ぜるのをやめて、コンロを止めました。
「なー」
「ふふっ、ポーション錬成は終わったわ。あとは、冷まして薬草を取り除けば出来上がりよ」
トラ丸の呼び声に、水龍ちゃんはにっこり笑って答えると、小さな漏斗を出して、ろ紙をセットしてから、ポーション瓶を出しました。
「な~」
「よしよし、もう少しで冷めるから、待ってようね~」
トラ丸がテーブルの上をトコトコ歩いて寄って来ると、水龍ちゃんは、トラ丸を捕まえて、モフモフしながら青毒ポーション液が冷めるのを待ちます。トラ丸は、気持ちよさそうに目を細めていました。
「そろそろ冷めたころね」
水龍ちゃんは、温度計を確認してからポーション液をろ過して小瓶へと注ぎ入れました。その間、トラ丸は、じゃましないようにと思ったのでしょうか、少し離れたところにちょこんと座って大人しく水龍ちゃんの手元を見つめていました。
「できたわ。青毒ポーション……。なんか、毒々しい色だけど、大丈夫かしら?」
「な?」
水龍ちゃんが微妙な顔で呟くと、トラ丸も大丈夫かとでも言いたげに小首を傾げました。出来上がったポーションは濁った青紫色をしていて、毒消しというよりも毒物に見えます。
「いちおう、ポーション錬成ができているか、鑑定してみましょ」
水龍ちゃんは、作った青毒ポーションを壁際の小さな台に置かれたポーション鑑定魔道具で鑑定しました。
「4級ポーションね。もう少しで3級ってところだわ。毒消しポーションは治癒ポーションより低い等級になるって聞いてたけど、そのとおりだったわね」
ポーション鑑定魔道具は、治癒ポーションの品質鑑定用に作られた魔道具ですが、毒消しポーションなどの鑑定にも使われています。ただし、薬師ギルドでは、参考値という扱いとしています。
「あとは、味よね……」
水龍ちゃんは、毒々しい色の青毒ポーションを手にして、ものすごく嫌そうな顔で呟くのでした。
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