第29話 ポーション革命

 水龍ちゃんが、完成した苦くないポーションの鑑定結果が1級だったと告げると、薬師ギルドマスターとおばばさまが、呆けた声を上げていました。


「聞き間違いだろうか……。 すまんが、もう一度、このポーションの鑑定結果を教えてくれるか?」

「ん? 1級ポーションでしたよ?」


 ギルマスが、片眉を上げて再度尋ねてきたので、水龍ちゃんは、あれ?っという感じで小首を傾げながら答えました。ギルマスとおばばさまの雰囲気がいつもと違っていて変だなとでも思ったのでしょう。


 そんな水龍ちゃんの回答に、ギルマスはゆっくり首を回して、おばばさまと顔を見合わせました。


「おばば、ポーションっていうのは確か、苦みを抑え過ぎると効果が下がるのだったよな……」

「うむ、ポーション作りのいわば常識じゃな……」


「それが、どうして……」

「知らんわ。じゃが、とりあえずは実物の鑑定をしてみようかの。こやつが嘘を吐いているとは思わんが、この目で確かておいた方がええ」


 ギルマスとおばばさまが、なにやら話していましたが、とにかく一度、水龍ちゃんの作った苦くないポーションを鑑定することにしたようです。


「水龍、苦くないポーションは、まだあるか?」

「あるわよ」


 水龍ちゃんは、バックパックから、もう1つポーションを取り出して、ギルマスへと手渡しました。


 執務室の片隅には、ポーション鑑定魔道具が置かれています。ギルマスは、水龍ちゃんの作った新型ポーションを鑑定魔道具にかけました。


 キュイーンと甲高い音が鳴り、魔道具正面のアナログメーターがゆるゆると動き出しました。ギルマスとおばばさまは、魔道具の前に陣取って、メーターの動きをまじまじと見つめています。


 ピロリロリ~ン♪と魔道具から音が鳴り、ポーションの鑑定が完了しました。アナログメーターの針は、2級と1級の境界ラインを超えて、1級ポーションであることを示しています。


「まじか……」

「1級じゃな……」


 ギルマスとおばばさまは、ポーション鑑定魔道具のアナログメーターを呆然と見つめながら、それぞれ小さく呟きました。


「ふふっ、ギルマスもばばさまも、味の革命に驚いているみたいね」

「いや、驚いてるのはそこじゃないぞ……」


 水龍ちゃんの声に、ギルマスが呆れたようすで、そう言いました。


「ん? 味の革命……よね?」

「ふはははは、お前さんは、1級ポーションを作ったという意味が分かっておらんようじゃのう」


 小首を傾げる水龍ちゃんの様子をみて、おばばさまは大きく笑い出しました。


「いいか、水龍、薬師ギルドが把握している中で、1級ポーションを作れる者など世界中のどこにもいないんだ」

「あれ? でも、ポーション等級にはちゃんと1級がありますよね?」


 ギルマスの説明に、水龍ちゃんは、素朴な疑問を口にしました。だって、作れる人がいないのに1級の等級があるなんて変な話です。


「ああ、それはな、このポーション鑑定魔道具がダンジョン産のポーションを最大値として作られているからなんだ」

「ダンジョン産のポーション?」


「そう、ダンジョンで手に入るポーションだ。そして、ポーション鑑定魔道具のメーターを5等分して等級を定めているんだ」

「ふ~ん。つまりは、ダンジョン産のポーションをもとに、ポーション等級を設定したということね」


 ギルマスの説明をすぐに理解した水龍ちゃんは、そういうことかと納得顔をみせました。


「ふふっ、理解が早くて助かるな。だから、等級はあれども1級ポーションを作る者はいなかった。各国の研究機関が1級ポーションを目指して研究を続けているというのが現状だったのだよ」


 ギルマスは、そこで一度話を区切り、にっこりと水龍ちゃんに微笑みかけてから話を続けました。


「だが、その1級ポーションが、今、ここにある。しかも、苦みがないポーションときたもんだ。これぞ、まさしく、ポーション革命と言えるだろう」


 ギルマスが、いつの間にやらポーション鑑定魔道具から取り出していた水龍ちゃんの新型ポーションを高らかと掲げて革命宣言するのでした。



「むふふっ、つまり、このポーションは売れるってことよね。たくさん作って売り出せば、その売り上げでいろいろ美味しいものが食べられそうだわ」


 水龍ちゃんが、瞳を銀貨のようにキラキラ輝かせながら、小さな手をきゅっと握りしめます。


「まったく、偉業を成し遂げたというのに、こやつは……」

「ふぅ、とんだ大物だな……」


 そんな水龍ちゃんのようすを目にして、おばばさまとギルマスがやれやれといった顔つきで呟くのでした。

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