第28話 苦くないポーション

 薬草茶から苦くないポーションを作れることが分かってから数日、水龍ちゃんは、苦くないポーション作りの研究を続けました。苦くなく、それでいて最大限効果の高いポーションを作るため、成分抽出時の温度や時間、薬草の量などについてコツコツと研究をしていたのです。


「よし、出来たわ。苦くないポーションの完成よ!」


 完成したポーションを前にして、水龍ちゃんは、腰に手を当て、ふんすと胸を張りました。


「ばばさま~、苦くないポーションが完成したわ!」


 水龍ちゃんは、ポーションの入った小瓶を手に、嬉しそうにリビングのドアをバーンと開けました。しかし、肝心のおばばさまの姿はありませんでした。


「あー……、ばばさま、薬師ギルドに行ってるんだったわ」


 おばばさまが居なくて、水龍ちゃんはちょっとがっかり顔です。


 最近、おばばさまは薬師ギルドへよく行っています。なんでも、ギルド職員の技術指導とかやっているようです。その関係で、おばばさまは、先日から薬師ギルドの調合室でポーションを作るようになっていて、おばばさまの家の調合室は、水龍ちゃんが、ほぼほぼ専用で使っている状態なのです。


「そうだ、ポーションを売りに行くついでに、ばばさまとお昼ご飯を一緒に食べればいいわ。その時に、この完成した新型ポーションを見せるのよ。ふふっ、ばばさま、きっと喜んでくれるわ」


 水龍ちゃんは、調合室をきれいに片付け、本日売るために作ったポーションをバックパックに入れると、薬師ギルドへと向かいました。途中、薬師ギルドのすぐ近くにあるパン屋さんでサンドイッチを購入しました。


「こんにちは。ポーションの買取をお願いします」

「あら、水龍ちゃん、この時間に来るなんて珍しいわね」


「ばばさまと一緒にお昼ご飯を食べようと思って」

「まぁ、そうなのね。それじゃぁ、ポーションの買取が終わったら、おばばさまのところへ案内してあげるわ」


 ギルドの女性職員は、いつものようにポーションの買取をしてくれた後、水龍ちゃんをおばばさまのところへ案内してくれました。おばばさまは、ギルドの一室で机に書類を広げて、ギルマスとなにやら話をしていたようです。


「ばばさま~」

「おや、まぁ、どうしたんじゃ?」


「お昼ご飯を一緒に食べようと思ってね、サンドイッチを買ってきたわ」

「そうかそうか、もうすぐお昼時じゃな」


 おばばさまは、まるで孫の顔をみたときのように、とても嬉しそうです。


「私も一緒にいいかな?」

「もちろんです。あ、でも、サンドイッチは、私とばばさまの分しか買ってこなかったわ」


「問題ない。弁当を持参しているからな」


 少し早いですが、ギルマスの執務室へ移動して、3人でお昼ご飯を食べることになりました。


 執務室の応接用テーブルで、ギルマスが出してくれた大皿に、水龍ちゃんは、買ってきた卵サンドにカツサンド、それとハムサンドを並べます。ギルマスは、串焼きをパンに挟んだ自家製串焼きサンドを持ってきていて、いっしょに大皿に並べました。


 「「「いただきます」」」


 水龍ちゃんはカツサンド、おばばさまはハムサンドを手に取って食べました。ギルマスは、もちろん串焼きサンドです。もぐもぐ食べる水龍ちゃんは満面の笑顔です。水龍ちゃんは、ギルマスに串焼きサンドを勧められ、これまた美味しそうに平らげました。


「ばばさま、ようやく苦くないポーションが完成したわ」

「ほほう、よう頑張ったのう」


 食事が終わったところで、水龍ちゃんが嬉しそうに報告すると、おばばさまは頭を撫でてくれました。


「苦くないポーションか。おばばから話は聞いているぞ。ポーションは苦くて当然。そこを何とかしようなんて発想は、私には無かったな」


 ギルマスも腕を組んで感心しきりにそう言いました。


「ふふふっ、これが、そのポーションです」

「ほう、綺麗な透き通った青色だな」


「そうなんですよ。苦み成分が無くなったからかなって思ってます」

「ふむ、なるほどな。飲んでみていいか?」


「もちろんですよ、ギルマス。ばばさまも飲んでみて」


 ギルマスとおばばさまは、新しいコップ2つにポーションを分け入れて、味見とばかりに飲みました。


「なるほど、苦くないな」

「こりゃぁ、驚いたわい。さしずめ、味の革命といったところじゃな」


 ギルマスもおばばさまも目を丸くして、それぞれに感想を漏らしました。


「苦みが少なくなったが、色も透けているし効果が弱くなったのだろうな。 鑑定結果はどうだった? 3級は確保できたのか?」


 ギルマスが冷静にそう尋ねてきました。ポーションの効果は鑑定魔道具により等級という形で表されます。水龍ちゃんは2級のポーションを作るので、等級が1つ下がったくらいかと推察したのでしょう。


「1級でした」

「「へっ?」」


 水龍ちゃんが、にっこり笑顔で答えると、ギルマスとおばばさまが目を点にして呆けた声を漏らしました。

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