第27話 薬草茶

 お気に入りのおばばさま特製シチューを美味しく食べ終えた水龍ちゃんは、お風呂に入って髪を乾かしてから、翌日販売分のポーションを作ります。


 薬師ギルドは、新米ポーション職人から買い取る量を大瓶1本分と制限しているため、水龍ちゃんは今日も大瓶1本分のポーションを作りました。


「よし、これで明日もポーションを売ることができるわ」


 出来上がったポーションを前にして、水龍ちゃんは、腰に手を当て満足顔です。


「そうだ、薬草茶を入れてみよっと」


 水龍ちゃんは、昼間、図書館で読んだ本のことを思い出して、ポンと手を打ちました。さっそく魔法で水を出して錬金釜に注ぎ入れ、コンロでお湯を沸かします。そして、なぜか棚の引き出しに入っていた茶こしとカップを準備しました。


 沸騰手前でコンロを止めて、適当に薬草を入れます。蓋をして数分蒸らしてから茶こしを通して薬草茶をカップへ注ぎ入れました。


「ふふっ、薬草茶って薄い黄色なのね。もう少し黄緑色かと思っていたわ」


 茶こしで濾しながら、水龍ちゃんは、そう呟きました。


「さてと、お味の方はどうかな?」


 水龍ちゃんは、小さな両手でカップを持って、ずずっとお茶をすすりました。


「うん、かなり薄味だけど、口当たりも悪くないし、そう苦くも無いわね。昔、お茶の代わりに飲まれていたというのも納得だわ」


 カップの中の薬草茶をまじまじと見つめながら、水龍ちゃんは一口飲んだ感想を漏らしました。そして、ずずっともう一口。


「ふぅ、ポーションもこれくらい苦みが抑えられたらいいのにねぇ」


 お茶を飲んで、ほっこり顔で呟きました。


「……ん?」


 水龍ちゃんは、しばしの間、じーっとカップのお茶を見つめました。


「ふむ……」


 おもむろに掻き混ぜ棒を取ると、水龍ちゃんは、カップの中の薬草茶をかき混ぜ始めました。


 魔力を込めて掻き混ぜると、薬草茶がぽわわと淡く光を発して、徐々に黄色から緑色、そして青色へと変わってゆきました。


「ふむふむ……」


 そして、水龍ちゃんは、青く変わった薬草茶をずずっと一口飲みました。


「苦くない……」


 そう呟いて、水龍ちゃんは、コトンとカップをテーブルに置いて、腕を組み、じーっとカップを見つめました。


「苦くないポーション……、できたかも?」


 水龍ちゃんは、そう言って、小首をこてんと傾げるのでした。


 それから水龍ちゃんは、棚からポーション瓶を出してきて、薬草茶ポーション?の入ったカップの横に置くと、改めてカップを見つめました。そして、カップの薬草茶ポーション?が冷えたころを見計らって、漏斗でポーション瓶へと注ぎ入れ、壁際の小さな台に置かれたポーション鑑定魔道具へセットしました。


 水龍ちゃんが、魔道具のスイッチを押すと、キュイーンと甲高い音が鳴り、魔道具正面のアナログメーターがゆるゆると動き出しました。やがて、ピロリロリ~ン♪と魔道具から音が鳴り、ポーションの鑑定が完了しました。


「うん、3級ポーションだわ。なんかあっさりと問題が解決しちゃったわね」


 水龍ちゃんは、鑑定結果を見て淡々と呟きました。


「まさか、薬草茶を錬成したら、苦みの無いポーションができちゃうなんて思わなかったわ。だけど、いくつか検証が必要ね。なぜ薬草茶だと苦みが出ないのか。ポーション作りのプロセスとの違いを調べて、苦み成分が出る原因を明確にすれば、さらに改良できるかも? そうすると――」


 しばらくブツブツと呟いた後、水龍ちゃんは、ふと壁に掛けてある時計へと視線を移しました。


「はっ!? もう、こんな時間! 続きは明日にしましょ」


 水龍ちゃんは、いそいそと調合室をきれいに片付けました。水龍ちゃんは、ドラゴンなので何日も眠らずにいても平気なのですが、人間の生活に合わせてちゃんと眠るようにしているのです。





 そして翌日、水龍ちゃんは、まず苦くないポーションを再現しました。


「やっぱり、薬草茶にしてから錬成すると、苦くないポーションが出来たわ。今までのポーション作りと大きく違うのは、ポーション錬成の前に茶こしで薬草を取り除いてしまうことね」


 再現した苦くないポーションを前にして、水龍ちゃんは、腕を組んで考えます。


「つまり、薬草が入っている状態でポーション錬成すると、苦み成分が溶け出してしまうということみたいね。う~ん、茶こしでこした薬草茶を2つに分けて、片方だけ茶こしの薬草を半分くらい戻して、その両方を錬成すれば、検証ができるわね。ふふっ、なんだか楽しくなってきたわ!」


 水龍ちゃんは、嬉々として検証作業を行いました。予想通り、薬草を戻した薬草茶に魔力を込めて錬成すると、いつも通りの苦いポーションが出来たのです。予想通りの検証結果に、水龍ちゃんは、よし!っと、小さな拳を握りしめるのでした。

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