第21話 ちょっとお高いステーキ

 結局のところ、水龍ちゃんは見事にポーション錬成技術の資格を取得することができました。


 薬師ギルドで合格証を授与された水龍ちゃんは、おばばさまの勧めで、そのまま薬師ギルドの会員登録をしました。なんと、薬師ギルド会員は、ギルドを通してポーションを販売することが出来るのだそうです。もちろん、ポーション錬成技術の資格が必要です。


 これで、水龍ちゃんは、ポーションを作って販売することが出来るようになりました。薬師ギルドへポーションを持ち込むだけでよく、手数料は掛かりますが、税金もギルドが代行して納めてくれるため、いろいろ手間が省けて便利です。


 水龍ちゃんが、おばばさまと一緒に薬師ギルドを出ると、なぜかハンターギルドマスターが待ち構えていました。お祝いに食事をおごってくれるというので、先日チーズハンバーグを食べたレストランへと行きました。


「水龍ちゃん、試験合格おめでとう!」


 注文した料理がくると、なぜか合流したアーニャさんが音頭を取って、ハンターギルドマスターとおばばさまが順に「おめでとう」と続きました。


「えへへ、ありがとうございます」


 水龍ちゃんは、嬉しそうにお礼を言いました。テーブルを囲むのは水龍ちゃんを含めた4人で、お祝いのランチです。ギルマスのおごりということで、ちょっとお高いお肉のステーキをみんなで注文したのです。


 ナイフとフォークを使って切り分けたお肉を一口食べると、柔らかいお肉からジュワーっと濃厚な肉汁が染み出て、ソースと絡み合って口いっぱいに広がる美味しさにほっぺたが落ちそうになります。


「う~ん、美味しい!」

「最高ね!」


 水龍ちゃんとアーニャさんが幸せそうな顔で声を漏らすと、ギルマスも孫でも見るように顔がほころびます。


「それにしても、水龍ちゃんが2級ポーションを作ったなんて驚いたぞ」

「えっ!? 2級ポーション!?」


 ギルマスの話にアーニャさんが驚きの顔を見せました。試験会場でもみんな驚いていましたが、2級ポーションを安定して作れる人は少ないからだそうです。


「先日、ポーション作りを教えたばかりなんじゃが、すばらしい才能じゃ」

「読み書きを覚えるのも早いし、ポーション作りの才能もあるし、水龍ちゃんってばすごいわぁ」


 おばばさまもアーニャさんも、べた褒めです。


「ふふっ、ギルマスったらね、ハンター登録出来なくて水龍ちゃんが路頭に迷ったらどうしようって、かなり心配してたんですよ」

「なっ!」


「最悪、うちのギルドで働いてもらおうかって、真剣に話していたんですから」

「いや、まぁ……」


 アーニャさんから、ギルマスが水龍ちゃんのことを相当心配していたことが暴露されると、ギルマスは照れ臭そうに鼻の頭を掻いていました。


「ギルマス、心配してくれて、ありがとう」

「お、おう、ポーション作れるなら、安定した収入を見込めるからな。良かったな」


「うん。ばばさまも、ポーション作りを教えてくれて、ありがとう」

「なぁに、いいってことじゃ」


 水龍ちゃんがお礼を言うと、ギルマスもおばばさまも嬉しそうに微笑んでくれるのでした。




 食事を終えて、おばばさまと一緒に帰宅してから、水龍ちゃんが、改まって話を切り出しました。


「ばばさま、しばらくの間、ポーション作りの器材を使わせてください」

「もちろんじゃよ。好きに使うとええ」


「ありがとう。それと、薬草の仕入れ先を紹介してください」

「うんうん、トーマスのところに頼むとええ」


 さっそく、ポーション作りに必要な器材と材料の確保にあたる水龍ちゃんに、おばばさまは、うんうんとにこやかに応じてくれます。


「エメラルド商会ね。わかったわ。あとは、練習で使った薬草の代金を払うわ。いくら払えばいいかしら?」

「ふはははは、相も変わらず、しっかりしておるのう。じゃが、これまで練習で使った分は払わんでもええ。盗賊から救ってくれたお礼じゃよ」


「それは、数日間泊めてくれることで話がついてるわ」

「細かいのう……。それじゃぁ、宿泊代の方を月決めで支払ってもらおうかのう。調合室の器材の使用も込みでどうじゃ?」


「それはありがたいわ」

「うむ、それじゃぁ――」


 おばばさまは、とりあえずの宿泊代を提示し、水龍ちゃんが高いと思えば、いつでも交渉に応じると言ってくれました。また、光熱費は宿泊代に含め、食費については食材の購入代金を帳簿につけておいて、折半することとしました。


 後ほど、おばばさまの提示した宿泊代が、破格の安さだと知り、水龍ちゃんが値上げの交渉をするという珍事件が発生するのですが、水龍ちゃんもおばばさまも、そんなことになろうとは思ってもみませんでした。

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