第20話 ポーション提出

 ポーション錬成技術の試験において、水龍ちゃんは、ポーション錬成を終えると、ポーションを入れる小瓶を手に取りました。



 このポーション瓶に入れて提出するのよね。

 汚れは大丈夫かな?


 う~ん、特に汚れてはいないようだけど、一応洗っておこうかな。

 ついでに漏斗の方も洗っておこうっと。



 水龍ちゃんは、人差し指をひょいっと上げて空中に魔法で水を発生させると、水を操作して提出用の小瓶と漏斗を洗います。洗った水は、水流操作で水滴ひとつ残さずに鍋へパシャリと排水しました。



 よし、洗い終わったわ。

 ろ紙を漏斗にセットしてっと。


 ポーションを冷やすために、錬金釜を水に浸そうかな。

 ばばさまが、試験の時は時間短縮になるって言ってたからね。


 火傷しないように、ばばさまから借りた鍋掴みを手に嵌めてっと。

 鍋の水へ錬金釜をザブンと浸してしばらく待ちますっと。


 小さな錬金釜だから軽くていいけど、大きな錬金釜だと重そうだなぁ。

 錬金釜に持ち手を付けたらいいのかも?


 おっと、水流操作で鍋の中の水を攪拌すると早く冷えるよね。

 それ、ぐ~るぐるっと。

 はやく冷めないかな~。



 水龍ちゃんは、小さな錬金釜が倒れて中のポーションを零してしまわないように、錬金釜の上の方を持ったまま、水流操作で鍋の水を撹拌してポーションが冷めるのを待ちます。試験で作るポーションの量は少ないので、冷めるまでにそれほど時間は掛かりませんでした。


「まぁまぁ冷めたかしら」


 水龍ちゃんは、ポーションが程よく冷めたころを見計らって、錬金釜を引き上げて水流操作で水を切り、テーブルの上へ置いてから錬金釜の外側を触って温度を確認しました。


「ふふっ、いい感じね」


 水龍ちゃんは、ポーションの温度が下がっていることを確認すると、慌てずゆっくりとポーションをろ過してゆきました。


 ただ1人だけ、まだポーション作りを行っている水龍ちゃんは、試験官や見学者の注目を集めていましたが、水龍ちゃんは全く気にするようすはありません。


 ろ過したポーションが容器へと溜まってゆくと、その色合いに気付いた人達が小声で話始めました。


「えっ? あの色……」

「青みがかっているぞ」

「高品質のポーションか?」

「あんな小さな子が……」


 ざわざわと騒めき出した見学者たちの中には、ハンターギルドのギルドマスターもいましたが、彼は周りのざわめきを聞いて、なぜかドヤ顔をしていました。


「完成したわ!」


 水龍ちゃんは、出来上がったポーションを入れた小瓶に蓋をすると、テーブルの上を片付けてから、ポーションを提出しに向かいます。



「水龍です。ポーション完成しました」

「うむ、いい色合いだ。これは3級が期待できるな。さっそく鑑定してみよう」


 水龍ちゃんがポーションを提出すると、受け取った女性職員は、男勝りな口調で短くコメントしました。そして、隣のテーブルに置かれているポーション鑑定魔道具で鑑定をかけました。


 キュイーンと甲高い音が鳴り、魔道具正面のアナログメーターがゆるゆると動き出します。


「おおっ、メーターの針が3級ラインを超えたぞ」

「まじかよ……」

「まだまだ上がって行くぞ」

「すげぇ……」


 メーターが上昇してゆくと、やはりというか、見学者たちから騒めきの声が聞こえてきました。そして、なぜかハンターギルドマスターが腕を組んでドヤ顔です。


 しばらくすると、ピロリロリ~ン♪と魔道具から鑑定完了の音が鳴りました。


「ほう、2級ポーションときたか。ふふふっ、なるほど、おばばが見に来いという訳だな」


 男勝りの女性職員が、鑑定結果を見て、実に愉快そうな笑みを浮かべて感心しきりに言いました。


「どうじゃギルマス。大型新人の作ったポーションは?」

「正直驚いたぞ、おばば。まさかの2級ポーションを作るとはな」


 おばばさまが、男勝りの女性職員をギルマスと呼び、したり顔で話しかけると、彼女は笑みを浮かべて親し気に答えました。どうやら彼女は、薬師ギルドのギルドマスターで、おばばさまとも仲がよさそうです。


「ふはははは、わしもまさか、これほどまでとは思わなんだがのう」

「おばばの予想を超えてきたということか。そいつは頼もしいな」


 おばばさまと薬師ギルドマスターが上機嫌で話している間も、周囲の人たちのざわめきは止まりません。鑑定結果に驚く声、感心する声、信じられないと言った声が多く聞こえて来て、なぜかハンターギルドマスターが、ドヤ顔で腕を組んでうんうんと頷いています。


「う~ん、何だか騒がしいけど、私は試験に合格したってことでいいのかしら?」


 騒めきの中心である水龍ちゃんは、誰も合格だとはっきり言ってくれないので、どうしたものかと腕を組んで小首を傾げるのでした。


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