第19話 資格試験

 今日は、ポーション錬成技術資格試験の日です。水龍ちゃんは、おばばさまに連れられて薬師ギルドへ向かうと、おばばさまと一緒にで受付を済ませ、時間までロビーで待ちました。


 受付終了時間になると、薬師ギルドの職員から声が掛かり、ほかの受験生たちと共にギルド職員の案内で試験会場へと向かいました。会場は、大きな部屋で作業用のテーブルが距離を置いて並べられており、その上には錬金釜などポーション作りの器材がきれいに並べられています。


 試験官を名乗る薬師ギルドの職員から試験についての説明があり、そのあと受験生は、それぞれ案内されたテーブルの前に立ちました。背の低い水龍ちゃんは、試験官に頼んで踏み台を持ってきてもらっていました。


「それでは、試験を始めます。各自ポーションを作ってください」


 試験官の言葉で、受験生は一斉にポーション作りを開始しました。試験の間、試験官が数名、会場をみてまわると言ってましたが、おばばさまも試験官の1人としてみてまわるようです。


 水龍ちゃんは、まず最初に錬金釜を手に取りました。



 ふむ、この錬金釜は、練習で使ったのと同じくらいの大きさね。

 あら? なんか中に汚れが付いているわ。


 むぅぅ、ちょっと埃っぽいし、お手入れがなってないわね。

 仕方がないから、洗うとしましょ。



 水龍ちゃんは、人差し指をひょいっと上げて空中に魔法で水を発生させました。そして指先をひょいひょいっと動かし、水を操作して錬金釜の中を洗います。水龍ちゃんの水流操作で、魔法の水は渦を巻いて釜にこびりついていた小さな汚れを絡め取ってしまいました。



 よしよし、錬金釜が綺麗になったわ。

 洗った水は……、鍋に入れておこうっと。

 魔法で生み出した水を入れておくための鍋だろうけど、まぁ、いいわよね。


 ついでだから、計量カップと計量スプーン、掻き混ぜ棒も洗っちゃおうっと。

 水を生み出して、くるくるくるっと渦洗い。

 最後はドバっと鍋に排水よ。

 水流操作で水滴ひとつ残さないわ。



 そんな器材を洗う水龍ちゃんの姿をみた試験官は、何をしているんだといった顔をしていましたが、特に何も言いませんでした。


 次に、水龍ちゃんは、薬草の入ったガラス瓶を手に取り、蓋を開けました。



 う~ん、薬草の匂い……いぃ?

 ばばさまの薬草とちょっと違う感じ?


 すんすんすん……。

 なんか違う匂いが混じってる?


 良く見れば、色合いの違うのが混じってるっぽい?

 う~ん、違いが良く分からないわね。


 パクっと。

 うん、苦い。

 だけど、こっちは、おばばさまの薬草と一緒ね。


 匂いの違う方はどうかな?

 パクっと。

 うげっ、なにこれ?

 これも薬草なのかしら?


 う~ん、品質に影響があるといけないわね。

 ちょっとめんどくさいけど、おばばさまの薬草と一緒のやつだけ使いましょ。



 すんすんと匂いを嗅ぎながら薬草を選り分ける水龍ちゃんの姿を見て、試験官の1人が、むっとした顔で「そこの君、何をやっているんだ」と呼びかけたところで、おばばさまがその試験官の腕を捕まえて、小声で「好きにやらせておくがええ」と窘めていました。そんなやり取りも、試験に集中している水龍ちゃんは、全く気付かなかったようです。


 水龍ちゃんが、計量スプーン1杯分の薬草をせっせと選り分け、ようやく錬金釜に投入したころには、ほかの受験者達は、すでに掻き混ぜ棒を手にしてポーション錬成を始めていました。



 うん、薬草はこれでいいから、次は魔法水の計量ね。

 直接、計量カップへ魔法の水を注ぎこんでっと。

 ふふふ、さすが私、ピッタリの水量を生み出したわ。


 魔法水を錬金釜に注ぎ入れたら、魔導コンロのスイッチオン!

 早く温度が上がらないかな~。



 水龍ちゃんは、錬金釜の中を覗き込み、掻き混ぜ棒で薬草入りの魔法水を軽く混ぜながら、温度があがるのをにっこり笑顔で待っています。試験だというのに、実に楽しそうです。



 あ、薬草成分が出て来たわ。

 少し、コンロの熱を弱くしてっと。


 魔力を込めて掻き混ぜ棒をゆっくりまぜまぜ。

 ぐ~るぐるっと、まぜまぜ、まぜまぜ。


 よしよし、魔力水の色が黄緑色から緑色に変わって来たわ。

 この調子でぐ~るぐるっと。


 あっ、錬金釜の内側に小さな気泡が出来て来たわ。

 もう少しコンロの熱を弱くしようかな。


 このまま沸騰するまで魔力を込めてぐ~るぐるっと。

 ふふっ、緑色が濃くなってきたわ。

 いい調子、いい調子。


 沸騰したら、コンロを止めてっと。

 さらに魔力を込めてぐ~るぐる。


 うふふっ、青みがかって来たわね。

 このまま色が変わらなくなるまでぐ~るぐるっと。



「よし、こんなもんね」


 水龍ちゃんが、そう呟いて掻き混ぜるのを止めた頃には、ほかの受験者のうち何人かは、作り上げたポーションを試験官へ提出していました。

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