3.水龍ちゃん、ポーションを作る
第15話 ばばさまのお仕事
しばらく、図書館で勉強した水龍ちゃんは、そろそろ帰らないと言うアーニャさんと一緒に、図書館を出て帰宅しました。アーニャさんが送ってくれたので、道に迷うこともありませんでした。
呼び鈴を鳴らすと、ばばさまが出迎えてくれました。
「おかえり。読み書きの勉強は捗ったかえ?」
「ばばさま、ただいま? えっと、アーニャさんに教えてもらって、いろんな字を覚えたわ」
「そいつは、良かったのう。どうれ、茶でも入れるとしようかの。ゆっくり話を聞かせておくれ」
「うん!」
ばばさまが入れてくれたお茶は、ハーブティーです。素朴な味になんだかほっこりします。お茶うけに出してくれたクッキーは、ほんのり甘くてサクサク感がなんともいえません。
お茶を飲みながら、水龍ちゃんが読み書きの勉強の話をします。図書館へ行ったこと、辞書の引き方を覚えたことなどを話すと、ばばさまは少し驚いた顔を見せた後、愉快そうに笑いながら水龍ちゃんを褒めてくれました。
「さて、十分休憩も取ったし、もうひと仕事するかの」
「お仕事?」
「わしは薬師じゃからのう、ポーション作りじゃよ」
「なにか手伝おうか?」
「うん? 手伝ってくれるのかい?」
「泊めてもらってるからね」
「ふはははは、良い心がけじゃな。それじゃぁ、少し手伝ってもらおうかの」
「うん、任せて」
水龍ちゃんは、おばばさまと一緒に、おばばさまの仕事部屋である調合室へと入りました。整理整頓の行き届いた小綺麗な部屋には、中央に大きなテーブルがありました。テーブルの上には小型の魔導コンロがあり、その上に金属製の釜が乗っていました。
テーブルの高さは、背の低い水龍ちゃんには少し高いため、水龍ちゃんは、おばばさまに一声掛けて、キッチンから踏み台を持ってきました。水龍ちゃんが踏み台を運んでいる間に、おばばさまは、器材や材料の準備を進めていました。
「さて、始めるかの」
「はい!」
おばばさまの隣で、踏み台に乗った水龍ちゃんが元気よく返事をしました。
「まずは、魔法の水からじゃ」
おばばさまは、そう言ってから手にした小さなスティックをくるくると回します。すると、空中に魔法の水が発生して、テーブルに置いた鍋にドバドバと注がれてゆきました。
水龍ちゃんは、ドラゴンなので、この程度の魔法くらいでは驚きません。ふむふむと魔法の水が鍋に注がれるのを見つめていました。
「それじゃぁ、お前さんは、この線のところまで鍋の水を移しておくれ」
「分かったわ。水の量を測るのね」
「そういうことじゃ」
おばばさまが、大き目のガラスの計量カップとお玉を渡して指示をすると、水龍ちゃんは、その意図を理解してさっそく作業にかかりました。カップには横に線が書かれていて、水の量が測れるようになっています。
水龍ちゃんが水の量を測っている間に、おばばさまは、金属製の筒から乾燥させたお茶の葉のような材料を軽量スプーンですくって、コンロの上にある釜へと入れました。
「ばばさま、水を入れたわよ」
「ありがとう」
おばばさまは、水龍ちゃんが測った水を釜へ注ぎ込むと、魔導コンロのスイッチを入れて、つまみを回しました。
「ポーションはのう、薬草と魔法水を錬金釜に入れて、加熱しながら錬成して作るのじゃよ」
「ふうん、錬成っていうのね」
「ふはははは、簡単に言うと、薬草を煮込みながら魔力を注いでやるのじゃよ。そうすると薬草から溶け出した成分が変化してポーションが出来るのじゃ。魔力を練り込むようにすることから錬成と呼ぶのじゃよ」
おばばさまは、金属棒で錬金釜の中身を軽くかき混ぜながらポーション作りについて教えてくれました。金属棒は魔力を流しやすいミスリル製で、錬金釜と共に特注品だそうです。
錬金釜の魔法水に薬草成分が溶け出して魔法水が黄緑色に色付きました。そして、沸々とした錬金釜の中をおばばさまがかき混ぜると、錬金釜の中の魔法水がぽわわと淡く光を発して、黄緑色から緑色へとゆっくりと変化してゆきました。
「水の色が変わっていくわ」
「うむ、溶けだした薬草成分が魔力で変化しておるのじゃよ」
おばばさまは、コンロのつまみを回して加熱を弱め、魔力を込めてゆっくりと魔法水をかき混ぜてゆきます。魔法水は、ゆっくりと色を変えてゆき、青みがかった緑色へと変化してゆきました。
「ふむ、こんなところじゃの」
そう言って、おばばさまは、錬金釜をかき混ぜるのをやめて、魔導コンロのつまみを回し、加熱を止めました。
「完成したの?」
「錬成は終わったのじゃ。あとは、冷まして薬草を取り除いたら出来上がりじゃよ」
どうやら、ポーションの錬成は終わったようです。錬金釜の中をみると、青緑色の水に薬草が浮いていて、このままでは飲みにくそうです。
「さて、こいつを冷ましている間に、どうだい、お前さんもポーションを作ってみるかい?」
「えっ?」
おばばさまの言葉に、水龍ちゃんは、驚いて目をパチクリさせるのでした。
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