第13話 読み書き
水龍ちゃんは、ハンターギルドで、ギルド職員のアーニャさんにマンツーマンで読み書きを教わります。初日の今日は、仮名文字を教えてもらっています。
「ようし、仮名文字はすべて覚えたわ」
「ふふっ、まだ、一通り書いてみただけよ。何度も読み書きしなくちゃ覚えられないわよ」
「大丈夫よ。絵本を読んであげるわ」
「そう? それじゃぁ、絵本を読んでもらおうかな」
まだ、一通り教わったばかりですが、水龍ちゃんは、自信たっぷりに机の上に置いてある絵本の1冊を手にしました。
「むかしむかりあるところに、おじいさんとおばあさんがすんでいました――」
「えっ? うそ? すらすら読んでる?」
水龍ちゃんが、絵本をすらすらと読み進めるのを見て、アーニャさんは、信じられないとばかりに驚いています。
「ちゃんと仮名文字はマスターしたから、当然よ」
「ほ、本当に? 本当に覚えちゃったの?」
「もちろんよ。それじゃぁ、続きを読むわね」
「……」
ちょっと思考が停止してしまったアーニャさんの前で、水龍ちゃんは、よどみなくすらすらと絵本を読んでゆきました。
「——おしまい。うん、なかなかおもしろいお話だったわ」
「はっ!? もしかして、水龍ちゃんは、本当は前から仮名文字の読み書きが出来たんじゃないのかしら?」
絵本を読み終わったところで、はっと我に返ったアーニャさんが、そんなことを言い出しました。
「そんなことないわよ」
「でも……」
「もともと仮名文字の読み書きができたのなら正直に言うわ。だって、一から学び直すなんて意味がないもの」
「そ、そうよね。おかしなことを言ってごめんなさい」
アーニャさんは、すっかり動揺してしまって、水龍ちゃんのことを疑うような発言をしたことを謝ってくれました。どうやら、水龍ちゃんの説明で冷静になったようです。
「大丈夫よ。次は何を覚えればいいの?」
「えっと、そうね、簡単な表意文字から教えようかしら」
「表意文字?」
「ええ、ちょっと待っててね。適当な本を探してくるわ」
アーニャさんは、参考となりそうな本を探しに会議室を出て行きました。その間、やることのなくなった水龍ちゃんは、まだ読んでいない絵本を開いて、嬉しそうに読み始めました。
「お待たせ。これを使って勉強しましょうか」
戻って来たアーニャさんは、手にした1冊の本を机の上に置きました。
「ハンターの……何とか?」
水龍ちゃんは、本の表紙に書かれたタイトル文字を読みますが、仮名文字以外の文字は読めず、小首を傾げていました。
「ふふっ、ハンターの心得って書いてあるのよ。この心得っていうのが表意文字といって、文字の1つ1つに意味が込められている文字なのよ」
「意味のある文字……」
「そうよ。だから、ぱっと見で伝えたい事がざっくりと理解できるのよ。まぁ、文字がたくさんあるから、覚えるのが大変なんだけどね」
「うふふっ、なかなかおもしろそうだわ」
ひとまず、”ハンターの心得”という新人ハンターに配る冊子を教科書として、読み書きの勉強を再開しました。
アーニャさんは、心得という2文字を紙に書いて見せ、書き順があることや、同じ文字でも別の読み方があることなどを説明してくれました。そして、水龍ちゃんは、心得という2文字をアーニャさんが用意してくれた紙に書いて練習しました。
その後は、ハンターの心得という冊子を開いて、出て来た表意文字をアーニャさんが別の紙に書き出して説明し、水龍ちゃんが実際に書いて練習するといった形で勉強が進められました。
お昼も近づいたころ、ギルドマスターが勉強部屋(会議室)に入って来ました。
「やぁ、水龍ちゃん、読み書きの勉強、頑張っているかな?」
「アーニャさんに教えてもらって絶賛練習中です」
ギルマスに声を掛けられ、水龍ちゃんはにっこり笑顔で答えます。
「それは結構だな。あー、なんだ、もうお昼だし、よかったら飯でも食べに行かないか?」
「ギルマスが御馳走してくれるんですか!?」
ギルマスは、水龍ちゃんに向けて食事の誘いを掛けたのですが、なぜかアーニャさんが瞳をキラキラ輝かせ、机をバンと叩いて立ち上がりながらギルマスの奢りなのかと食い気味に確認しました。
「お、おう、もちろんそのつもりだが……」
「やったわ、水龍ちゃん、今日のお昼はギルマスの奢りよ! 近くに良いお店があるの。さぁ、行きましょう!」
ギルマスが、勢いに押されながら肯定すると、アーニャはすぐにでも飛び出さんばかりの勢いで、水龍ちゃんの手を取りました。
「でも、ただでご馳走してもらうのは何だか悪いような……。はっ!? 後で高額請求を――」
「しないから!!」
はっとする水龍ちゃんの口から出た言葉を最後まで言わせずにギルマスが詐欺まがいの話を否定しました。
「大丈夫よ、水龍ちゃん。天下のハンターギルドマスターが、そんな詐欺まがいのことなんてしたらギルドをクビになっちゃうからね。まぁ、その前に私が首を飛ばしちゃうわ。物理的に」
「怖いこと言わないで!!」
にっこり笑顔で説明してくれたアーニャさんの言葉に、ギルマスが悲痛な叫びを上げました。
結局、水龍ちゃんは、にっこり笑顔のアーニャさんに諭されるまま、ギルマスの奢りで、お昼ご飯を食べに行くことになりました。
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