第12話 おばばさまの家
水龍ちゃんは、おばばさまと一緒に屋台でラーメンを食べてから、宿泊先であるおばばさまの家へと向かいました。
おばばさまの家は小さな一軒家で、ドアを開けると草の香りがしました。草の香りと言っても不快な香りではなく、心が落ち着くようなほんのりした良い香りです。家の中は、飾り気もなくシンプルですが、掃除が行き届いていて素朴で小綺麗な住まいでした。
水龍ちゃんは客間に案内されて、荷物の整理やらベッドメイキングやらなんやかんやとやっているうちに、すっかり夜も更けて就寝とあいなりました。
水龍ちゃんは、ベッドで布団に入ると、今日あったことを思い出していました。
今日はいろいろあって楽しかったな。
予定通り? 盗賊を倒してお金を手に入れたし、街にも入れた。
それに、あのラーメンとかいう食べ物は美味しかったな。
昔、人間の街へ行ったときにはなかった食べ物ね。
この地域独特のものかしら?
値段も手頃らしいし、また今度食べに行こっと。
だけど、ハンターになれなかったのは残念だったなぁ。
思えば、子供の姿になったのが失敗だったわ。
盗賊も寄ってこなかったしね。
まぁ、あと数日もすれば、盗賊を捕らえた件で褒賞金が貰えるわ。
そうしたら、大人の姿になってハンター登録をすればいいわよね。
うん、それまでの間は、読み書きを覚えて、この街のことを知りたいな。
ラーメン以外にも美味しいものがあると思うのよね。
ふふっ、楽しみだわ。
翌朝、水龍ちゃんは日の出と共に起き出しました。おばばさまに借りたタオルで顔を洗っていると、おばばさまも起き出して来ました。
「おはよう、昨日はよく眠れたかの?」
「おはよう、ばばさま。ぐっすり眠れたわ」
「それは、よかった。それじゃぁ、朝ご飯を作るから手伝っておくれ」
「は~い」
約束通り、水龍ちゃんはおばばさまのお手伝いです。しかし、料理などしたことのない水龍ちゃんは、目玉焼きを見事に焦がしてしまいました。
「料理の方は全然だのう」
「ごめんなさい……」
「なぁに、1つ1つ覚えていけばいいのじゃよ」
「うん、がんばるわ」
おばばさまに優しく励まされて、水龍ちゃんは、小さな拳をきゅっと握りしめ、次こそはと、やる気をみなぎらせるのでした。
焦げた目玉焼きにパンとスープを食べて、食器の後片付けを終えると、水龍ちゃんは、おばばさまに誘われて朝市へと繰り出しました。おばばさまが言うには物の価格が分かっていいだろうとのことです。
「うわぁ、すごく賑わっているのね」
「うむ、いろいろ安く仕入れるのなら朝市が一番じゃからのう」
市場の店先には、新鮮な野菜や果物などが所せましと並べられ、行き交う人々が店頭で値引き交渉を繰り広げていて、実に活気に満ちています。
おばばさまは、目ざとく質の良さそうな野菜や果物を見つけては、軽く店主と値引き交渉をして買い付けてゆきます。おばばさまは店主との値引き交渉もどこか楽しんでいるように見えます。
水龍ちゃんは、おばばさまの買い物に荷物持ちとして付き合いながら、周りの人達に目を配っては、ふむふむと何やら呟きながら物の価格や値引きのやり取りを興味深く観察するのでした。
市場を抜ける頃には、持ってきた籠が野菜やお肉、果物などでいっぱいになっていました。
朝市から戻って、おばばさま特製のハーブティーを一杯味わってから、水龍ちゃんは、ハンターギルドへと向かいました。昨日約束したとおり、読み書きを習うためです。
「おはようございます。アーニャさん」
「おはようございます。水龍ちゃん」
ハンターギルド2階の受付で、水龍ちゃんは昨日対応してくれたギルド職員のお姉さんと挨拶をしました。お姉さんはアーニャという名で、ギルマス公認の下、水龍ちゃんに読み書きを教えてくれることになっています。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね。向こうに部屋を取ってあるから、そこで読み書きの勉強をしましょうね」
水龍ちゃんは、アーニャさんに案内されて、ギルドの小さな会議室へ入りました。アーニャさんによると、そこは少人数でのミーティングに使われるほか、職員の休憩所としても利用されているそうです。
「ふふっ、水龍ちゃんのために絵本を用意してきたわよ」
「うわぁ! 本ですね! うれしい!」
なんと、会議室には3冊の絵本が用意されていました。アーニャさんが近所の子供が読まなくなったものを貰ってきたそうです。
「まずは、基本の仮名文字から覚えましょうね。仮名文字を覚えたら、絵本が読めるようになるわよ」
「ようし、がんばるわ!」
こうして、水龍ちゃんは、アーニャさんに教えてもらいながら、まず仮名文字の読み書きを学ぶのでした。
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