第11話 宿泊先

 ハンター登録は出来ませんでしたが、水龍ちゃんは、ハンターギルドで読み書きを教えてもらえることになりました。翌日の10時に約束をして、水龍ちゃんは、おばばさまとハンターギルドを後にしました。


 ハンターギルドを出ると、もう日が沈んでいて、すっかり暗くなっていました。そして、トーマスさんの竜車にいた護衛が1人、水龍ちゃん達の方へと歩み寄ってきました。


「おや? どうしたんじゃ?」

「トーマスさんから、その子の宿泊先を確認するように言われたんです」


 おばばさまの問いに、護衛が用件を伝えてきます。どうやら、水龍ちゃんがハンターギルドから出て来るのをずっと待っていたようです。


「ああ、なるほど、褒賞金が出たとき、連絡先が分からないと困っちまうってことじゃな」

「ええ、まだ宿が決まっていないだろうから、良い宿を紹介するようにと」


 そして、宿の紹介をするように指示していたとは、トーマスさんは、なかなかに気が利く商人です。


「宿は安い宿がいいわ。ハンター登録できなかったから、節約しなくちゃ」

「ふむ、よい心がけじゃな。それじゃぁ、しばらく、わしの所に泊めてやろう」


「はっ!? それって、まさか――」

「後から高額請求はせんぞ……」


 はっとする水龍ちゃんの言葉を遮って、おばばさまは呆れ顔で詐欺まがいのことはしないと告げました。


「そうなの? でも、ばばさまの家に泊めてもらう理由はないわよ?」

「まぁ、意図したわけではないようじゃが、結果的に盗賊から助けて貰ったのじゃからのう。その礼と思ってくれればええ」


「そっか……」

「不服そうじゃな」


「う~んとね、ただで泊めてもらうのもなんだかなぁって思うの」

「なるほどのう。ならば、宿泊の対価として料理とか掃除とか家の手伝いをしてもらおうかのう。なぁに、難しいことは言わん。お前さんの出来る範囲で手伝ってもらえばええ」


 それならばと、水龍ちゃんは、おばばさまの家に泊めてもらうことにしました。宿泊先が決まったことで、護衛の人は、トーマスさんに伝えると言って去って行きました。


 水龍ちゃんは、おばばさまと一緒におばばさまの家へと向かいます。途中、何かに気付いたのか、水龍ちゃんが立ち止まり、すんすんと匂いを嗅ぎました。


「なんか美味しそうな匂い……」

「これは、ラーメンの匂いじゃな」


「ラーメン?」

「食べたことがないのかい?」


「うん、食べたことない」

「そうか、それじゃ、今夜のご飯はラーメンにするかのう」


「う~ん、お金足りるかな?」

「心配せんでもええ、庶民に優しい金額じゃ」


 それじゃぁと、水龍ちゃんはおばばさまと、すぐ先の屋台でラーメンを食べて行くことにしました。


「おおっ、これがラーメン……。ごくり」


 水龍ちゃんは、屋台で出て来たラーメンをまじまじと見つめました。


 屋台のおっちゃんが、目の前で作るようすを見ていたので、大きな深い器にゆがいた細長い麺を入れ、よい香りのする熱々のスープをかけて肉や野菜をトッピングした食べ物だというのは分かります。


「さぁ、食べようかの。いただきます」

「いただきます……」


 水龍ちゃんは、おばばさまと共に手を合わせます。水龍ちゃんが見て来た村々でも食事を前にいただきますと言っていたので、こういった習慣は学習済みです。


 しかし、その後、水龍ちゃんはじっとおばばさまの様子を伺っています。


「どうしたのじゃ? 食べんのか?」

「えっと、どうやって食べるのかなと思って……」


 どうやら、水龍ちゃんは食べ方が分からなかったようです。


「ふはははは、初めて食べるのじゃったな。見ておれ、こうやって食べるのじゃ」


 おばばさまが、そう言うと、水龍ちゃんはコクコクと頷きます。おばばさまは、見本とばかりに箸を使って麺を掴み上げ、ズルズルとラーメンを食べ始めました。


 水龍ちゃんは、見よう見まねで箸を手に麺を掴み上げようとしてみましたが、どうにも上手く掴めません。


「なかなか難しいな」と呟きながらも、水龍ちゃんは、ぎこちなく麺を掬うとズズっとラーメンを食べました。


 スープの絡みついたラーメンを口に入れた水龍ちゃんは、衝撃を受けたようにカッと目を見開き、もぐもぐと麺を噛み、ごくりと飲み込みました。


「美味しい!!」


 水龍ちゃんは、嬉しそうに叫ぶと、ズルズル、もぐもぐと勢いよくラーメンを食べます。実に美味しそうに食べる水龍ちゃんの姿に、おばばさまも屋台のおっちゃんも嬉しそうに微笑みます。


「ほれ、これでスープを掬って飲むとええ」

「ん?」


 おばばさまにレンゲを渡されて、水龍ちゃんは、一瞬、おや?という顔をしましたが、すぐにレンゲを使ってスープを口に含みました。


「んん~、美味しい! こんな美味しい食べ物があるなんて知らなかったわ!」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ、ほれ、こいつはサービスだ」


 水龍ちゃんの感激ぶりに気を良くした屋台のおっちゃんが、トッピングのお肉をサービスしてくれました。


「うわぁ、ありがとう!」


 水龍ちゃんは、嬉しそうにお礼を言うと、それはもう美味しそうにラーメンを平らげるのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る