第10話 ハンターギルドの事情

 ハンターギルドのギルドマスターは、水龍ちゃんをハンター登録するかどうか、腕を組んで考え込んでしまいました。


「お前さんも見た目で判断するのかい?」


 おばばさまが、そう言うと、ギルマスは困った顔をしておばばさまと水龍ちゃんを交互に見つめました。


「はぁ……、正直に話そう。実は先日、よその街のハンターギルドで年齢を偽った子供をハンター登録してしまい問題になったばかりなんだよ。それで、今、子供のハンター登録は、たとえ実力があっても停止しているんだ」


 ギルマスは、現状ハンターギルドが抱えている問題について、正直に話してくれました。


「そりゃまた、タイミングが悪いねぇ」

「そういう話がハンター達の間でも広がっているからな。さすがに、この見た目でハンター登録すると、騒ぎ出す奴らが出て来るだろうな」


 おばばさまとギルマスは、揃いも揃って溜息を吐きました。


「つまり、私は小さい子供に見えるから、実力があってもハンター登録は出来ないってことですか?」

「申し訳ないが、現状では、そうなるな」


 水龍ちゃんが確認するように尋ねると、ギルマスがすまなそうに体を小さくして肯定しました。それを聞いて、水龍ちゃんは、ぷぅっと頬を膨らませました。


「あ、いや、今は間が悪いってだけで、しばらくすれば落ち着くだろうからな、そうしたらハンター登録できるようになるから、それまでは何とか辛抱してくれってことだ」


 水龍ちゃんの顔を見たギルマスは、慌ててそう言いつくろいました。


「しかし、お前さん、しばらくしたらと言うが、それまでの間、この子は仕事が出来ないということじゃぞ。ハンターギルドとして、その辺はどう考えておるのじゃ?」

「うっ、痛いところを突いてくるなぁ。ギルドとしては、この子には今まで通りの暮らしをしばらく続けてもらうしかないと考えている」


「つまり、この子に街を出て行けと言うことじゃな?」

「いや、何でそうなるんだ?」


「この子は遥か遠くの村から旅をして来たんじゃ。今まで通りの暮らしと言うなら街を出て行くしかあるまい」

「いや、それは……」


 おばばさまの言う水龍ちゃんの境遇が想定外だったのでしょう、ギルマスは、言葉を詰まらせてしまいました。


「もういいです。私はハンターにはなれないということは分かりました」

「あ、いや、その……、すまん」


 おばばさまとギルマスのやり取りを見ていた水龍ちゃんが、やれやれといった感じで状況は分かったと告げると、ギルマスはしょぼんとした顔で頭を下げるのでした。


「それで、嬢ちゃんは、これからどうするのじゃ?」

「そうねぇ。取りあえず、盗賊の褒賞金が出るまでの間、読み書きをの勉強でもしようかしら」


「ほう、読み書きの勉強かい?」

「ええ、街に来たら学ぼうと思ってたのよ」


 水龍ちゃんは、漁村や旅の途中にお邪魔した村々で、トラ猫の姿でこの辺りの言葉を学んでいましたが、文字についてはさっぱりです。なにぶん小さな村では、ほとんど文字を見る機会がなかったのですから仕方がありません。


「それならば、うちのギルド職員が文字を教えようじゃないか。ハンター登録出来ない代わりと言ってはなんだが、それくらいはさせて欲しい」


 ギルマスが、ここだとばかりに提案してきました。おばばさまから聞いた水龍ちゃんの境遇に思うところがあったのでしょう。


「いいんですか?」

「ただし、朝夕の忙しい時間帯は勘弁してくれ。それ以外の時間ならば問題ないぞ」


 水龍ちゃんが確認するように問いかけると、ギルマスは、どこか自慢げに胸を張って答えました。ちゃんと忙しい時間帯を外すように言うところは抜かりないです。


「はっ!? もしや、授業料と言って、後で高額の請求がくるのでは!?」

「いや、そんなことはしないから! 子供相手にそんなことしたら、確実に俺の首が飛ぶからね!」


 水龍ちゃんが、はっとして詐欺まがいの手口に警戒の声を上げると、すかさずギルマスが突っ込みました。


「それに、ハンターギルドとしても、常日頃から希望する子供達に剣術を教えたり、薬草採取の仕方を教えたりしているんだ」


 そして、ギルマスが、ギルドとしても子供の教育に貢献していることを話してくれました。


「ぼったくり教育ビジネス?」

「いや、ボランティアだから! お金はもらってないから! 無償で教育に貢献しているんだからね!」


 水龍ちゃんが、小首を傾げて呟くと、すかさずギルマスが突っ込みを入れてくるのでした。

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