第9話 ハンター登録の壁
水龍ちゃんが、ハンターギルドでハンター登録を依頼すると、職員のお姉さんが驚きの声を上げました。
「ん? ハンター登録をお願いしたいんですけど?」
きょとんとした顔をしているお姉さんに、水龍ちゃんは小首を傾げてから、今一度、要件を伝えます。
「えっと……、誰がハンター登録するのかな?」
「もちろん、私です」
お姉さんが、少し戸惑いながら尋ねてくると、水龍ちゃんはポンと胸を叩いて自分が登録するのだと主張しました。
そんなやり取りを水龍ちゃんから少し離れたところで、おばばさまが息を殺して笑って見ています。
「あのね、お嬢ちゃん、14歳にならないとハンターにはなれないのよ」
「私は16歳なので大丈夫ですよ」
「う~ん、とても16歳には見えないわよ?」
「見た目で決めつけないでください。ちょっと背は小さいですけど、ちゃんと16歳ですからハンター登録をお願いします」
自信たっぷりに16歳だと主張する水龍ちゃんに、お姉さんは頬に手を当て、困り顔です。
「えっと、ご両親とか、誰か一緒に来た人はいるかしら?」
お姉さんは、子供と話していても仕方がないと思ったのでしょうか、保護者がいないか尋ねてきました。
「ん? ばばさまと一緒に来たわよ」
「そう? どこにいるの?」
「あそこにいるわ」
水龍ちゃんは、振り返って、ばばさまの方を指さしました。
「ひょうたん印のおばばさま!?」
お姉さんは、おばばさまを知っているようで、目を見張りました。
おばばさまは、見つかってしまっては仕方がないといったようすで、受付の方へとやって来ました。
「ふはははは、困っておるようじゃな」
「ええ、まぁ……、本人は16歳だと言っていますが、それを鵜吞みにしてハンター登録しても、すぐに死なせてしまうだけですから……」
おばばさまが声を掛けると、職員のお姉さんは、困ったように苦笑いをしながら子供をハンター登録しない理由を正しく述べました。
「ふむ、じゃがの、この子は11人の盗賊共をあっという間に倒すほどの強さがあると言ったらどうじゃ?」
「えっ? まさか、そんなことあり得ないですよ。おばばさまったら、揶揄わないでください」
おばばさまが、水龍ちゃんの実力のほどを引き合いに出しましたが、お姉さんは冗談だと思って全く信じてくれません。
「まぁ、そう思うじゃろうな。じゃが、冗談ではなく本当の話じゃよ。それだけの実力があれば、ハンターとして十分やっていけるじゃろう?」
「おばばさまが言うのなら、そうなのでしょうけど……」
「ふむ、お前さんでは判断出来まい。ギルマスを呼んで判断させるとええ」
「……そうですね。ギルマスに相談します」
「ついでに、わしが挨拶に来たと伝えておくれ」
「かしこまりました」
お姉さんは、そそくさとギルマスを呼びに行ってしまいました。
カウンターの奥から職員達が、何事かとこちらを見ていたのですが、おばばさまがじろりと睨むと慌てて目を逸らしていました。
「まぁ、どうせこんなことになるじゃろうと思っておったわい」
「そうなの?」
「多くの人間は、見た目で判断するからのう。特に初対面の者に対してはな。先ほどの職員も悪気があってハンター登録出来んと言ったわけではないのじゃ。その辺は分かってあげておくれ」
「そっか。分かった」
「ふむ、賢いのう」
「ん?」
最後におばばさまが小さく呟いた言葉に、水龍ちゃんは可愛らしく小首を傾げていました。
そうこうしていると、職員のお姉さんがギルマスらしき髭面の男を連れて戻って来ました。
「よう、久しぶりだな、おばば」
「ふん、相変わらず暑苦しい顔だねぇ。ギルマスなんだから、髭くらい剃ったらどうだい」
「これがいいんだよ。威厳が感じられるだろ?」
「むさ苦しいだけだね」
がっしりした体格のハンターギルドマスターは、あごひげを撫でつけながら陽気に挨拶すると、おばばさまと軽口を叩きあっていました。たいして険悪な雰囲気でもなく、職員のお姉さんも笑顔で見ていたので、いつもの挨拶なのでしょう。
「それで、この子がハンター登録したいって?」
「はい、水龍です。背は小さいですが16歳ですので問題ないですよね?」
ギルマスが顎髭を撫でながら水龍ちゃんを値踏みするように眺めつつ尋ねると、水龍ちゃんは、まず名前を名乗り、年齢を告げて、にっこり笑顔で確認するように問い返しました。しっかりとした物言いは、年端もいかぬ子供ではないと主張しているようです。
「うん、どう見ても16歳には見えないが、11人もの盗賊をあっという間に倒したと言うのは本当か?」
「それについては、わしが保証するよ。なにせその場に居合わせたのじゃからな。そこいらのハンターでは出来ない芸当じゃよ」
盗賊討伐のについては、おばばさまが、水龍ちゃんの実力を力説してくれました。
水龍ちゃんは、ふふんと胸を張って、ちょっと自慢げです。
「おばばの言うことだから、この子の実力は本物なのだろう。本来ならば、ハンター登録を認めるべきなのだが、見た目がなぁ……」
ハンターギルドマスターは、どうしたものかと腕を組んで考え込むのでした。
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