2.水龍ちゃん、街に着く

第8話 ロニオンの街

 水龍ちゃんは、エメラルド商会の竜車に乗ってロニオンの街へ向かいます。のどかな草原が広がる景色の中、街道を進み、丘を越えると、前方にロニオンの街が見えてきました。


「さぁ、ロニオンの街が見えてきましたよ。あと一息です」

「うふふ、ようやく着くのね。楽しみだわ」


 トーマスさんが少し安堵した顔つきで告げると、水龍ちゃんは、ワクワク顔で遠くに見える街を眺めました。


 ロニオンの街には、高い外壁などはありません。街道沿いに疎らに家屋が建ち並んでいたかと思うと、すぐに家屋が密集しはじめ、街道の幅が広がり石畳に変わるころにはすっかり街中の景色へと変わっていました。


 水龍ちゃんが、お上りさんのごとく人が行き交う街の景色をどこか楽し気に眺めていると、竜車は2階建ての建屋が建つ敷地内へと入って行きました。


「さぁ、警察署へ着きましたよ。まずは、盗賊共を引き渡すとしましょう」


 トーマスさんの言葉で、警察署に着いたことが分かりました。トーマスさんは、竜車を降りて護衛達へと指示を出すと、警察署へと入って行きました。護衛達は、盗賊共を積んだ連結リアカーを竜車の荷車から外しています。


 トーマスさんが警察官を数名引き連れて出てくると、警察官達は盗賊共を確認し、事情聴取を始めました。聴取にはトーマスさんが前面に立ち、襲われた時の状況などを詳しく説明してゆきます。


 水龍ちゃんが盗賊共を倒したのだ説明すると、警察官達は酷く驚いて水龍ちゃんへと視線が集まりました。まさかと声を上げる警察官は、トーマスさんと護衛達、そしておばばさまに何度も繰り返し話を聞いて、更には盗賊共に確認するなど、どたばたする一幕がありましたが、何とか手続きを済ませることができました。


 事情聴取を終えると、盗賊共は警察官の手によりリアカーごと奥へ運ばれて行きました。盗賊共は全員目覚めていましたが、警察官の姿を見て観念したのか、もはや騒ぎ立てる様子もなく疲れた顔をしていました。


「褒賞金についてですが、警察署の方の手続きが終わり次第、私どもの商会に連絡が来ることになっています。おそらく5日もあれば完了するでしょう」

「ありがとうございます」


 無事に盗賊共の引き渡しが終わり、トーマスさんが、褒賞金について教えてくれました。警察の方でいろいろ手続きがあるようで、それまで待つことになるようです。


「それでは、宿へと向かいましょうか」

「いや、嬢ちゃんのハンター登録が先じゃな」


 トーマスさんが、にっこり笑顔で宿へ向かおうと言うと、おばばさまが、先に水龍ちゃんのハンター登録へ行こうと言い出しました。


「おばばさま、今日はもういいお時間ですし、水龍ちゃんのハンター登録は明日になさった方がよろしいかと思いますが……」

「ハンターギルドは、まだ開いているじゃろ。嬢ちゃんもさっさと登録を済ませてしまった方が良かろう、のう?」

「そうですね。間に合うのなら、登録してしまいたいです」


 なんだかんだで、もう夕方です。トーマスさんは時間を気にしてやんわりと明日にしてはと提案しましたが、おばばさまと水龍ちゃんの意向を聞いて、ハンターギルドへと向かうことになりました。


 警察署からハンターギルドへは大した距離も無く、すぐに着きました。


「さぁ、嬢ちゃん、ついておいで」

「ばばさま、私、1人で大丈夫ですよ」


「ふはははは、わしはわしで知人に挨拶に行くのじゃよ」

「そうなのね。それじゃぁ、一緒に行きましょ。トーマスさん、送ってくれてありがとう」


 水龍ちゃんは、竜車の御者台に座るトーマスさんに手を振ると、おばばさまと共にハンターギルドへと入って行きました。


 ハンターギルドの中は、ハンター達で賑わっていました。みんな仕事を終えて帰って来る時間帯なのでしょう。


「えーっと……」

「ハンター登録は2階じゃよ。ついておいで」


「ばばさま、ありがとう」

「なぁに、わしも2階に用があるからのう」


 水龍ちゃんが、混雑している受付を見て、どうしようかと考えていると、おばばさまが案内してくれました。階段を上がると、すぐに受付がありました。


「そこの受付でハンター登録をするといい」

「ばばさま、ありがとう」


 水龍ちゃんは、おばばさまにお礼を言って、受付へと向かいました。受付カウンターには誰もいませんでしたが、水龍ちゃんが近付くと、カウンターの奥から職員のお姉さんがやって来ました。


「お嬢ちゃん、こんなところへ来ちゃってどうしたの?」


 お姉さんが、まるで迷子の子供を相手にするように水龍ちゃんに話しかけてきました。水龍ちゃんは、どう見ても子供なので、相応の対応をしたのでしょう。


「ハンター登録をお願いします」

「えっ?」


 水龍ちゃんが、真顔でハンター登録を求めると、案の定、お姉さんは驚きの声を上げるのでした。

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