第7話 盗賊共の運搬

 ドラゴン娘が、トーマスさんからの提案を受けて、盗賊共の運搬と警察への引き渡しをエメラルド商会に依頼すると、トーマスさんは、さっそく護衛達へと指示を出して、テキパキと盗賊達を拘束してしまいました。護衛達も盗賊を逃がすことなく警察へ引き渡せると知ってほっとしたようです。


 荷馬車1台でどうやって11人もの盗賊を運ぶのかしら?と呟いて、ドラゴン娘は興味深くトーマスさんの指示で働く護衛達を眺めていました。地竜はかなり力が強いとはいえ、既に荷物が積まれている荷馬車に、更に11人もの盗賊を乗せるのは不可能に見えます。


 トーマスさんの指示で、護衛達が荷車の後ろの板を外すと、そこには車軸を通せるような部品ががっちりと取り付けられていました。そして、荷車の下側に付けられていた予備の車輪を2つ取り外し、荷車の中から車軸を取り出して来て組み立てると、車輪が出来上がりました。


 さらに、側面に付けられていた角材と板を取り外して車輪に取り付けてゆくと、あれよあれよという間にリアカーのようなものが出来上がりました。そして、そのリアカーを荷車の後ろに連結させてしまいました。


「なるほど、あれに盗賊達を乗せて運ぶのね」

「そういうことです。あれは、組み立て式の連結車両でして、大きな魔獣を仕留めた時などには重宝しております」


 ドラゴン娘が、なるほどと感心していると、トーマスさんが少し自慢げに連結車両のことを教えてくれました。


 組み上がった連結車両の方へと、護衛達が拘束した盗賊達を荒っぽく積み上げてゆきました。


「では、出発致しますので、お乗りください」

「あっ、私の分の運賃はちゃんと払わないとね。おいくらですか?」


「はっはっは、荷主の方は、運賃をサービスさせて頂きますよ」

「いいんですか?」


「もちろんです。十分儲けさせていただきますので遠慮なさらずにどうぞ」

「では、よろしくお願いします」


 トーマスさんからの嬉しい申し出を受けて、ドラゴン娘は笑顔でお礼を言って荷車へと乗り込みました。


 荷車の前方、御者台の後ろに客席用の長椅子があり、ドラゴン娘は、おばあさんの隣に座りました。トーマスさんは御者台に座っていて、他に客はおらず、6人の護衛は2人が地竜にまたがり、4人が荷車の後部に乗っていつでも外敵へ対応できるように待機しています。


「そう言えば、お嬢さんの名前を聞いていなかったですね」


 竜車がゆっくりと走り出すと、トーマスさんが後ろを振り返ってドラゴン娘に名前を聞いてきました。


「名前は、水龍よ」

「ほほう、水龍っていうと、あの水のドラゴンのことですか?」


「そうよ、いい名前でしょ?」

「そうですね。素晴らしい名前だと思いますよ」


 ドラゴン娘が水龍と名乗ると、トーマスさんは、にっこり笑顔で良い名前だと言ってくれました。


「ふむ、水龍と言う名か。お前さん、名前に負けず、強いし賢いのう」

「ふふ、ありがとう」


 おばあさんも、水龍と言う名を褒めてくれて、水龍ちゃんは、ご機嫌です。


 それからしばらく、水龍ちゃんは、おばあさんとトーマスさんと楽しくおしゃべりをしました。


 おばあさんは、薬師をしていて、ひょうたんおばばと呼ばれているそうです。水龍ちゃんにも、気軽におばばと呼ぶといいと言ってくれました。


 水龍ちゃんが、遠くの田舎から出て来たので、この辺りのことは良く知らないと言うと、トーマスさんとおばばさまがいろいろと教えてくれました。


 これから向かう街はロニオンという街で、近くにダンジョンがあるそうです。なので、ダンジョンへ挑むハンターが多く賑わいのある街だそうです。


「よし、私、ハンターになるわ」

「えっ!?」


 水龍ちゃんがハンターになると小さな拳をきゅっと握りしめて宣言すると、トーマスさんは驚いた顔を見せました。おばばさまは、隣でニヤニヤと面白そうな顔をしています。


「水龍ちゃんがお強いのは承知しておりますけれど、ハンターには年齢制限がございますので、ハンターになるのは無理だと思いますよ」

「ん? 年齢制限って何歳なの?」


「ハンターになれるのは、14歳以上ですね」

「なら問題ないわ。私、16歳だから」


「「ええっ!?」」


 水龍ちゃんの年齢を聞いて、トーマスさんとおばばさまは、揃って驚いた顔を見せました。


 水龍ちゃんは、ドラゴンなので16歳どころではないのですが、変身している都合上、水龍ちゃん的には16歳なのでしょう。ですが、その外見は、どう見ても10歳未満の子供に見えるので、2人が驚くのも無理はありません。


「いやいや、どう見ても16歳には見えませんよ?」

「むぅ、背はちっちゃいけど、16歳なのよ」


 トーマスさんが、見た目を正直に伝えましたが、水龍ちゃんは、ぷうっと可愛らしく頬を膨らませて、16歳だと言い張ります。


「ふはははは、こいつはいいのう。嬢ちゃんの言う通り、見た目で年齢を決めつけてはいかんのじゃ」

「そうでしょ。私は16歳なのよ。ハンターになるのに何の問題もないわ」


 おばばさまが大きな笑い声を上げて、水龍ちゃんの言い分がもっともだと言うと、水龍ちゃんは、ふんすと胸を張ってハンターになるだと意気込むのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る