第6話 商人の出番
ドラゴン娘と護衛達が一か所に固まって、盗賊共をどうするのかを話し合っていると、何事かと思ったのでしょうか、黒のローブを纏ったおばあさんが話に割って入ってきました。
「お前たち、いったい何をやっておるのじゃ? 早よう盗賊共をふん縛ってしまわぬか」
「そ、それがですね――」
護衛の男が、ことの成り行きをおばあさんに詳しく話して聞かせました。すると、おばあさんは、呆れた顔でドラゴン娘と護衛達を見回した後、口を開きました。
「つまり、嬢ちゃんは、盗賊の持ち金目当てで奴らを倒したが、警察へ引き渡すのは面倒だから、あとは護衛達の好きにしろと言うのじゃな」
「そうよ」
「で、お前さん達は、盗賊を逃がしたくはないが、嬢ちゃんの手柄を横取りするようなまねは出来ないというのじゃな」
「そういうことだな」
「ならば、商人の出番じゃな。ちょっと待っておれ」
おばあさんは、お互いの主張をそれぞれに確認した後、竜車の荷車に突き刺さっている矢を抜いている男を捕まえて、何やら話を始めました。おばあさんの言葉から、男は商人と思われます。男は少し小太りのおじさんという感じで、商人っぽい服装をしています。
おばあさんの話をうんうんと頷きながら聞いていた男は、嬉しそうな笑顔でもみ手をしながら、おばあさんと共にドラゴン娘のところへとやってきました。
「やぁ、お嬢さん、私はエメラルド商会のトーマスと申します。まずは、盗賊を倒して頂きありがとうございます。聞けば、倒した盗賊を警察に引き渡すにあたりお困りのようですね」
「はぁ……」
ニコニコとした商人スマイルを浮かべ、もみ手で親し気に距離を詰めて来る商人のトーマスさんに、ドラゴン娘は何とも言えない顔で生返事を返します。
「そこで、私共の方からご提案なのですが、捕縛した盗賊共の運搬を、乗合馬車の運賃相当で引き受けさせていただきますが、いかがでしょうか?」
「あら? ただ働きという訳じゃないのね?」
「私共は商人ですから、きっちり仕事として引き受けさせていただきます」
トーマスさんの提案に、ドラゴン娘がちょっと好感を持ったようです。盗賊共を街まで連行するのを護衛達に無償で手伝ってもらうのは、ただ働きをさせることになるので躊躇していたのですから、仕事として引き受けるというトーマスさんの言葉に良い印象を抱いたのでしょう。
「う~ん、でも、私、相場が分からないから赤字になると困っちゃうの。盗賊を引き渡せば褒賞金が出ると聞いたけど、どれだけの金額が出るか分からないし、それに手続きとかもめんどくさそうじゃない?」
ドラゴン娘は少し考えてから、懸念していることをストレートに伝えました。
「なるほどなるほど、それでは、こうしましょう。まずは、盗賊を引き渡す際のもろもろの手続きを我が商会が引き受けましょう。そうですね、手数料として褒賞金の1割を頂きたいです」
「ふむふむ」
トーマスさんは、ドラゴン娘の懸念に対して解決策を話し始めました。ドラゴン娘は頷きながら話を聞いています。
「次に、盗賊達の運送料ですが、褒賞金の中から拠出する形で頂きます。褒賞金が少なくて運送料金を差し引いて赤字となった場合は我が商会が赤字をかぶります。その代わり、運送料金を2割増しとさせていただきます」
続いてトーマスさんは、赤字になったら困るという点についても、商会がリスクと取ると言う形で解決策を提示しました。
「なるほど、つまり、面倒な手続きはあなたの商会がやってくれて、褒賞金から手数料と割増し運賃を差し引いて、残りがあれば私が貰えるということね」
「!? その通りです。ご理解が早くて助かります」
ドラゴン娘が確認を取るように取引の内容を要約すると、トーマスさんは一瞬驚いた顔を見せましたが、すぐに商人スマイルを顔に張り付けて肯定しました。
「あとで誤解が無いように確認するけど、たとえ褒賞金が貰えなくても、私は一切お金を払わなくてもいいのね?」
「その通りです。その分、運賃を割り増し料金とさせていただきますので、そこはご理解願います」
ドラゴン娘が、念には念をという感じで、自分がお金を払うことはないことを確認すると、トーマスさんは肯定し、その分割増し料金を提示しているのだということを念押ししました。
そんな2人のやり取りを、おばあさんが間近で感心しながら、面白そうに眺めていました。
「分かったわ。でも、私、盗賊を拘束するロープも何も持っていないんだけど、大丈夫?」
「ロープは荷車の方にありますので十分足りるでしょう。おっと、盗賊の拘束も手数料に含めておきますので、ご心配はいりませんよ」
「ありがとう、それでお願いするわ。トーマスさん、よろしくお願いしますね」
「ご商談成立ですね。こちらこそよろしくお願い致します」
ドラゴン娘が、もろもろ納得したところで、改めてトーマスさんへと盗賊の連行をお願いすると、トーマスさんは、にっこり笑って手を差し出してきて、2人は握手を交わすのでした。
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