第5話 盗賊達をどうする?
盗賊達をあっという間に倒してしまい、さらには、嬉々として盗賊達から追いはぎのごとく持ち金を奪っていくドラゴン娘に対して、竜車の護衛達は戸惑いを隠せないでいました。
「お、お嬢ちゃん、盗賊達はまだ生きているようだが……」
「そうね、手加減したから生きてるはずよ」
盗賊達の懐から戦利品という名のお金を回収し終えた頃合いで、護衛の男がドラゴン娘に声を掛けると、彼女はにっこり笑顔であっけらかんと答えました。
「よかったら、盗賊達を拘束するのを手伝おうか?」
「ん? そんなことしなくてもいいわよ?」
「えっ?」
「ん?」
護衛の男の申し出をドラゴン娘が軽~く断ると、話がかみ合わないので微妙な空気が流れました。
「えーと、早く盗賊達を拘束しないと目覚めてしまうぞ?」
「もう戦利品の回収は終わったし、勝手に起きるなら手間が省けるわ」
「えっ?」
「ん?」
やはり、話がかみ合わないようです。護衛の男が驚いた顔をすると、ドラゴン娘が男の様子を見て首を傾げてしまいました。
護衛の男は額に手を当て天を仰ぐと、大きく溜め息をついてから、再びドラゴン娘の方へ向き直りました。
「あー、お嬢ちゃんは、この盗賊達をどうするつもりなんだい?」
「ん? そうねぇ、もらうものはもらったし、魔獣から逃げられるように適当に起こしてあげようかなぁ」
「ええっ!? 盗賊を逃がすつもりなのか!?」
「そうよ。だって、魔獣に食べられちゃったら可哀想じゃない」
「「「「えええっ!?」」」」
「ん?」
ドラゴン娘の言葉に、直接話していた護衛の男はもちろん、様子を見ていたほかの護衛達も、ものすごく驚いていました。
ドラゴン娘はドラゴン娘で、護衛達の反応に小首を傾げています。
「いやいやいやいや、盗賊を逃がしちゃだめだろ。また誰かが襲われてしまう。こいつらは縛り上げて警察に引き渡すべきだぞ」
「えー、でも、私、ロープも何も持ってないし、こんな人数運べないわ」
護衛の男が正論を述べますが、ドラゴン娘の言うことももっともです。まぁ、ドラゴンなので力づくで何とかできそうですが、彼女にそんな気はなさそうです。
「そ、それでだ、ロープは竜車の方にあるのを使ってもらって、連行するのは俺達が手伝おう。それでどうだ?」
「う~ん……。 はっ!? 手伝ったんだからと言って、後で高額の請求をしてくるつもりね? その手には乗らないわよ!」
「いやいやいやいや、そんなことしないから。それに、盗賊を引き渡すと褒賞金が出るぞ。こいつらが持ってたはした金なんかよりも、まとまった金が手に入るはずだ」
「褒賞金……」
詐欺まがいの手口を想像して警戒するドラゴン娘でしたが、褒賞金と聞いて心が揺れているようです。
「そうそう、褒賞金だ。だから、盗賊達を縛り上げて警察へ渡そうな。俺達も手伝うからよ。おっと、もちろん無償でだぞ。あとでお金の請求なんか一切しないと約束しよう」
「「「「うんうん」」」」
護衛の男は、このまま盗賊を逃がしてしまわないように、なんとかドラゴン娘を説得しようと必死で言葉を投げかけ、いつの間にか近付いて来たほかの護衛達もうんうんと頷いています。
「う~ん、でも、あなた達にただ働きさせるというのも気が引けるわ」
「そ、そんなこと気にしないでくれ。ほら、街道に出る盗賊が減るだけで、俺達は仕事が楽になるんだ。お嬢ちゃんは褒賞金をもらう。俺達は仕事が楽になる。実に素晴らしいことじゃないか。なぁ」
「「「「うんうん」」」」
可愛らしく腕を組み、小首を傾げて悩むドラゴン娘に、護衛の男はお互いに利のある話だと必死に説得し、周りの護衛達もうんうん頷きます。
「あー、もう、めんどくさいわ。もう用済みだから、盗賊達はあなたにあげる。警察に渡すなりなんなり好きにするといいわ」
「えっ? あっ、いや、それは困る。盗賊を倒したのはお嬢ちゃんだ。お嬢ちゃんの手柄を取るわけにはいかないからな」
「じゃぁ、この人達は逃がしてやりましょ」
「いやいやいやいや、それだけは勘弁してくれ」
「えーっ」
「いや、そんな顔をしないでくれ……」
話がまとまらず、ドラゴン娘が護衛の男に嫌な顔をして見せると、護衛の男は実に困った顔をするのでした。
「お前たち、いったい何をやっておるのじゃ? 早よう盗賊共をふん縛ってしまわぬか」
ドラゴン娘と護衛たちが、一か所に固まっているのを見て何事かと思ったのでしょうか、黒のローブを纏ったおばあさんが話に割って入ってきました。
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