第4話 怪しい一団

 ドラゴン娘が、林の中に潜んでいる盗賊らしき怪しい一団へとトコトコ近づいて行きますが、怪しい一団に全く動きがありません。彼女は、やきもきしながらトコトコと街道を進み、林へと差し掛かりましたが怪しい一団は息を潜めたままでした。


「う~ん、すぐそこの茂みや岩陰に気配がするのだけれど、襲ってこないわね。ひょっとして、この人達は盗賊じゃないのかしら?」


 ドラゴン娘は誰にも聞かれないよう小さく呟きながら、トコトコトコトコ歩みを進めます。そうこうしているうちに、後ろから竜車が迫ってきました。


 竜車とは、地竜と呼ばれる種類の魔獣を手懐けて、荷車や客車を引かせて走る車のことです。ようするに馬車を引く馬の代わりに地竜を使っているのです。


「もうすぐ怪しい集団の囲いを抜けてしまいそうだわ。盗賊じゃない人達を襲う訳にもいかないし、残念だけど仕方がないわね」


 林の木々に隠れて街道の左右に分かれて潜んでいる人達の間を通り抜けつつ、ドラゴン娘は、小さく小声で呟くと、おもむろに立ち止まって後ろを振り返りました。


 竜車はもうすぐそこまで近づいています。2頭引きの竜車の地竜には、戦士風の男が1人ずつ乗っていて、周囲を警戒しています。


 と、そのとき、林に潜んでいた人達が動き出しました。林の中から見るからにガラの悪い男達が弓を引き、竜車に向かって一斉に矢を飛ばします。


「くそっ! 盗賊だ!! 守りを固めろ!!」


 突然、矢を浴びせられた竜車の方は、地竜に乗っていた戦士風の男が大声を張り上げながら手綱を引いて竜車を止めます。


「あぁっ!! やっぱり盗賊だったんだわ!」


 ドラゴン娘が、目を見開いて叫んでいると、左右の林の中からガラの悪い男達が弓を捨て、剣を手にして街道の竜車へ向けて走り込んで行きました。


「ヒャッハー!!」

「殺せ! 殺せ!!」

「皆殺しだー!!!」


 盗賊共は、気勢を上げながら左右の林から勢いよく飛び出します。竜車の左側から6人、右側から5人です。


「わたしのお金えぇぇぇ!!!!」


 ドラゴン娘は、そう叫びながら、ものすごい勢いで駆け出すと、竜車の左側から襲おうとする盗賊6人の下へ一気に飛び込み殴りかかります。


「ぐはっ!?」「ぐひっ!?」「ぐふっ!?」「ぐへっ!?」「ぐほっ!?」「ひでぶっ!?」


 電光石火のごとく、盗賊6人を素手で殴りつけたドラゴン娘に対して、盗賊達はなすすべもなく呻き声を上げて倒れてゆくだけでした。竜車を守ろうと出て来た護衛達も目を見開いてギョっとしたまま立ち尽くしています。


「とうっ!!」


 竜車の左側で盗賊を殲滅したドラゴン娘は、すぐに大きくジャンプして、竜車の上を飛び越えて行きました。


 竜車の右側では、護衛3人と盗賊5人との戦いが始まっていました。人数的に盗賊側が有利です。


「上から奇襲など、させるかよ!!」


 竜車を飛び越えてくるドラゴン娘に目ざとく気付いた大柄の盗賊が、叫びながら手にした大刀で、落ちて来るドラゴン娘に対してタイミングよく切りつけて来ました。


 ドラゴン娘は、瞳を銀貨のように輝かせながら空中で体を捻ると、迫りくる盗賊の大刀を横から蹴り飛ばして、続けざまに素早く盗賊の顔面へと蹴りを入れました。

 どうやら、ドラゴン娘には、盗賊共が銀貨に見えているようです。


「ごはっ!」


 大柄の盗賊は、呻き声と共に倒れ伏しました。


 ドラゴン娘は、ふわりと着地すると、すぐさま残りの銀貨、いえ、盗賊へ向かって素早く近寄り、次々と殴り倒してゆきます。


「ごひっ!?」「ごふっ!?」「ごへっ!?」「ごほっ!?」


 盗賊共は、呻き声と共にバタバタと倒れてゆきます。それまで盗賊と戦っていた護衛達は、信じられないといった様子で武器を構えたまま立ち尽くしていました。


「盗賊11人討伐完了!!」


 ドラゴン娘は、腰に手を当て、ふんすと胸を張って勝利宣言をしました。


「えっと……」

「こいつらは盗賊で、倒したのはわたし。そうだよね」


 突然の出来事に固まっていた護衛の男が、再起動して何かを言いかけたところで、ドラゴン娘が、その男に向かって確認するように言いました。


「そ、そうだな……」

「よし、それじゃぁ、遠慮なく」


 護衛の男が戸惑いながらも肯定すると、ドラゴン娘はにっこり笑顔をみせて、盗賊達から戦利品の回収を始めました。


 ドラゴン娘が次々と盗賊達の懐からお金を回収していると、護衛達は顔を見合わせてから声を掛けてきました。


「えっと……、お嬢ちゃんは、何をしているのかな?」

「見ての通り、戦利品の回収よ。盗賊が持っているお金は倒した私のものよね」


「ま、まぁ、そう……かな?」

「そうよ。当然の権利だわ」


 護衛の男の質問に、ドラゴン娘が戦利品の回収を続けながらも堂々と権利を主張すると、逞しい女の子の言動と行動に、護衛たちの方が戸惑いを見せるのでした。

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