第3話 路銀を稼ごう

 ドラゴントラ猫は、今日も今日とて気の向くままに、鼻歌を歌いながら道なき道を進みます。目指すは人の住む街なのですが、地図も土地勘もないので闇雲に歩いて行くだけです。


 どうみても、迷子のトラ猫なのですが、そもそもが退屈しのぎの旅なので、何の問題もありません。丘を超え、川を渡って森を抜け、雨の中でも風の中でもお構いなしに我が道を突き進みます。


 そんなある日、ドラゴントラ猫は大きな街道へと出ました。その街道は下草が刈られ土が踏み固められており、荷車を引いたような跡がついています。


『そこそこ整備されている街道のようだな。うん、この道沿いに進めば、そこそこ大きな街があるにちがいない』


 ドラゴントラ猫は、街道に沿って歩き始めました。


『人間の街には、いろいろな食べ物があるはずだ。ふふふ、楽しみだな』


 どうやら、ドラゴントラ猫の興味は、人間の作る食べ物にあるようです。


『はっ!? そういえば、街で食事をするには、金がいるのではないか? 私としたことが、すっかり忘れてた』


 ドラゴントラ猫は、大きく目を見開き、はっとしたかと思うと、その場に蹲って頭を抱えてしまいました。その姿はなんだか可愛らしく見えます。


『むぅ、仕方がない。街へ入る前に路銀を稼ぐしかないな。よし、手っ取り早く盗賊を倒して奴らの金を頂くとしよう』


 ドラゴントラ猫は、すちゃっと立ち上がり拳を握りしめました。


『しかし、盗賊と一般人を間違えるといけないな。さて、どうしたものやら……』


 ドラゴントラ猫は、可愛らしく腕を組み、目を瞑ってしばし何やら考えると、何かを思いついたのか、パチッと目を開きました。


『よし、おとり作戦といこう。盗賊に襲われてから反撃して討伐すれば間違いない。それじゃぁ、へんし~ん!!』


 ドラゴントラ猫の体が眩く光り、瑠璃色の長い髪の女の子に変身しました。彼女は水色のワンピースを着て、その胸元にはアクセントのように精霊の卵がキラリと輝いています。


「ふふふ、盗賊共は弱い人間を襲うからな。娘っ子の姿ならば、間違いなく襲って来るだろう。おっと、言葉遣いも小娘っぽく気を付けないとだわ」


 トラ猫の姿から女の子の姿へと変身した水のドラゴンは、漁村で子供達が歌っていた歌を歌いながらトコトコと街道を歩き出しました。


「そういえば、精霊の卵に魔力を供給するため、随分と魔力を放出していたわね。これだと、盗賊がビビって逃げてしまうかもしれないわ」


 ドラゴン娘は、思い出したようにそう呟くと、足を止めて胸元にくっついている精霊の卵を見下ろしました。


「少し服の形状を変えて包み込んでしまえばいいかな?」


 ドラゴン娘が、そう呟くと、ワンピースの胸元が淡く光を発してしゅるしゅると形を変えてゆき、精霊の卵を包み込んで大きなリボンとなりました。彼女が身に着けている服や靴などは、もともとドラゴンの体の一部なので、イメージ1つでどんな形にも変えられるのです。


「よし、これで服の中だけ魔力を上げて、服の外には魔力が漏れないようにすればいいわね」


 言ったそばから、ドラゴン娘が放出していた魔力がぐんぐん弱まって、ついには全くと言っていいほど魔力が感じられなくなりました。


「さぁ、盗賊達、早く出てらっしゃい」


 ドラゴン娘は意気揚々と街道をトコトコと歩き出すのでした。





 しばらく行くと、歌を歌いながら歩いていたドラゴン娘が、おもむろに歌うのを止めました。


「ふふふ、この先の林の中に誰かいるわ。盗賊だといいんだけど」


 どうやらドラゴン娘は街道のかなり先の林に人の気配を感じたようです。彼女は嬉しそうに微笑むと、鼻歌を歌いながら林へ向かってトコトコと歩いて行きました。



「ふむふむ、10人、いや、11人かしら? 街道の両脇に息を潜めて隠れているわね。ふふっ、これはもう、盗賊で間違いないわ」


 ドラゴン娘が人の気配のする林にどんどん近づいて行きますが、林に潜む人達はいっこうに襲ってくるようすがありません。


「なかなか襲ってこないわね……。じれったいわ」


 ドラゴン娘は小さく溜め息を吐きながらも、林に潜む一団に気付かないふりをしてトコトコ歩みを進めて行きます。


「あら? 後ろからも誰か近付いてくるようね……」


 もう、林に潜む一団が目と鼻の先となった頃、竜車に乗った一団が後ろから近づいてくるのでした。

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