第2話 言葉を覚えよう
小さな漁村へ辿り着いたドラゴントラ猫は、警戒する様子もなくトコトコ歩いて漁村へと入って行きました。
『まずは、この辺りの人間の言葉を覚えないとな』
ドラゴントラ猫は、浜辺で遊ぶ子供達の下へと近づいて行きました。
子供達は、ドラゴントラ猫を見つけると、わいわい騒ぎながら駆け寄ってきます。
『うん、念話を繋いで、受信だけしながら言葉を学ぶとしよう』
永い悠久の時を生きる大きな大きな水のドラゴンともなれば、複数の人間と念話を繋ぐくらい朝飯前です。ドラゴントラ猫は、子供達に可愛がられながら、彼ら全員と念話を繋ぎました。そして、子供達の意思を感知しながら、彼らの話す言葉を学んでゆきます。
元々知力の高いドラゴンです。念話で意思を聞き取りながらの学習で、どんどん言葉を覚えてゆきます。子供達がドラゴントラ猫との遊びに飽きて、別の遊びを始めると、ドラゴントラ猫はすすっと子供達から離れて行きました。
『順調順調、さて、子供達からだけではなく、いろいろな人間から学ぶとしよう』
ドラゴントラ猫は、みつけた人間へと片っ端から念話を繋ぎ、どんどん言葉を学んでゆきます。堂々と奥様方の井戸端会議に近付いてみたり、こっそりと茂みの中から窺うようにしながら学んでみたりと、昼夜を問わず漁村のいたるところで学び続けました。ついでに、人間達の文化や習慣についても学び取ってゆきました。
そして、数日経つ頃には、ドラゴントラ猫は、漁村の人間が話す言葉をほぼほぼマスターしてしまいました。
『さてと、そろそろ旅立つとしよう。もっと大きな街をめざすのだ』
ドラゴントラ猫は、意気揚々と小さな漁村を旅立ちました。
『ふふふん、ふふふん、ふふふのふん♪』
漁村を旅立ち数日経ちますが、ドラゴントラ猫は、相も変わらず鼻歌交じりに道なき道を歩いて行きます。興味が湧くものを見つけては、寄り道しながら進みます。
丈の低い草がまばらに生えた荒れ地を歩いていたドラゴントラ猫は、ポツンと生えた大きな木が目に留まりました。
『おや、あの木に何か惹かれるものを感じるな……』
ドラゴントラ猫は、タタッと走ってポツンと生えた大きな木の下へと辿り着くと、木の上を仰ぎ見ました。
『ほう、珍しい物があるな』
ドラゴントラ猫は、すすっと木の上へと登り、枝の先に乗っかるように上向きに生る木の実の前へとやって来ました。
木の実は鶏の卵ほどの大きさで、まだ熟れてないのか黄緑色をしていて、面白いことに木から上向きに生っていました。不思議なことに、大きな木には、その1つだけが実っていました。
『ふむふむ、間違いない、これは精霊の卵だな』
なんと、ドラゴントラ猫が見つけたのは、精霊の卵だったようです。
ドラゴントラ猫が、前足でちょんちょんと精霊の卵をつつくと、それは淡い光を放ってふわりと浮き上がり、ひょいっとドラゴントラ猫の胸へと移動するとくっ付いてしまいました。
『ふふっ、私を宿主として選んだというのだな。なかなか見どころのある卵だな』
ドラゴントラ猫は、精霊の卵について知っているようで、卵の不思議な挙動に驚くこともなく、ご機嫌です。
精霊の卵は、気に入った相手にくっ付いて、その魔力を吸って成長し、やがて十分な魔力を得ると卵が孵って中から精霊や妖精が生まれるのです。生まれてくる精霊や妖精は、卵が吸収する魔力に影響されて、姿かたちや性質などが変わると言われています。
『ほうほう、魔力を吸い始めたようだな。可愛いやつめ、どうれ、少しサービスしてやろう。我が魔力、存分に味わうが良い』
ご機嫌なドラゴントラ猫は、抑えていた魔力を徐々に解放し、どんどん精霊の卵へと流してゆきます。
精霊の卵の方は、ドラゴントラ猫の胸元でゆらゆらと揺れながら、どんどん魔力を吸収しているようです。
『ふふふっ、これ以上は吸収できないようだな。まだまだ小食だな。よし、もう少し魔力を高くしておいて、もっと吸収できるようなら徐々に増やしていくとしよう。どんな精霊が誕生するのか楽しみだな』
どうやら、ドラゴントラ猫は、限界まで卵に魔力を与え続けるようです。真偽は明らかではありませんが、精霊の卵は、卵の時に吸収した魔力量が多ければ多いほど強力な精霊が誕生する傾向があるようなのです。
適度に魔力を解放したため、周囲の魔物や魔獣、動物たちは、すっかりなりを潜めてしまいました。今までさえずっていた鳥たちもどこかへ飛び去ってしまいました。
しかし、そんなことはどうでもいいとばかりに、ドラゴントラ猫は、大きな街を探して鼻歌交じりに道なき道を進むのでした。
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