水龍ちゃんのポーション革命

すずしろ ホワイト ラーディッシュ

第一章 水龍ちゃんのポーションづくり

1.水龍ちゃん、街を目指す

第1話 お目覚め

 とある世界の物語。

 そこは魔法があり、精霊がいて、魔物や魔獣、そしてドラゴンが存在する世界。


 遠い遠い海の底、真っ暗な深海にある大きな裂け目のさらに奥、深い深い裂け目の一番奥底で、永い永い眠りについていた大きな大きな水のドラゴンが、ようやく目を覚ましました。


『ふぁぁぁ、良く寝たなぁ……』


 ドラゴンは大きな大きな口をがばぁっと開いて、豪快にあくびをしました。


 ここは太陽の光も届かず真っ暗闇ですが、水のドラゴンは僅かな水の流れや振動を捕らえて周囲の状況が手に取るように分かるので全く問題はありません。


 目覚めたドラゴンは、首を持ち上げて立ち上がると、大きく伸びをしました。


『う~ん、ちょっと寝すぎたかも……。少し体がなまってるかな?』


 ドラゴンは首と尻尾を捻るように左右に動かし、体の調子を確認するようにゆっくりと手足を動かしてみせると、ふわりと浮き上がるように水底から離れました。


『取りあえず、散歩でもするかな』


 大きな大きな水のドラゴンは、深海を悠々と泳ぎだしました。


 水のドラゴンだけあって、泳ぐのはお手の物です。手足をだらりと伸ばした状態で水流操作で水の流れを巧みに操り、海底の大きな裂け目の中を優雅に泳いでゆるゆると上昇してゆきます。


 やがて、深い深い裂け目を抜け出し、深海の中を自由気ままに泳ぎ回ります。


『久しぶりに体を動かすと気持ちがいいなぁ』


 深海に潜む獰猛な魔物や魔獣たちも、この大きな大きなドラゴンには近づいて来ることはありません。深海の魔物や魔獣たちは、この大きな大きなドラゴンの気配を感じると一目散に逃げてゆくのです。


 広大な海の中を優雅に泳ぎ回るドラゴンは、いつの間にやらずいぶん浮上してきていました。深海魚ならば急な水圧の変化に耐えられず目玉が飛び出してしまうところですが、そこはドラゴン、その体は強靭で水圧の影響など微塵も感じる様子もなく鼻歌交じりに遊泳しています。


『おっ? なんか明るくなってきた?』


 首を上げたドラゴンは、海上の方がうっすらと明るくなっているのに気がづきました。どうやら日の光が届くところまで浮上してきたようです。


 大きな大きな水のドラゴンは、日の光に導かれるようにどんどんどんどん浮上してゆきます。そして、とうとう水面に辿り着くと、大きな水しぶきを上げて空中へと勢いよく飛び出しました。


『うはぁ! 久しぶりの大空だぁ!』


 澄み渡る青空の下、燦燦と降り注ぐお日様の光を浴びて、大きな大きな水のドラゴンは、海の上を緩やかな放物線を描いて再び大きな水しぶきを上げ、海の中へと飛び込みました。


 ドラゴンは、再び海上へと顔を出すと、体を半分海上へ出して泳ぎだしました。鼻歌交じりに泳ぐ姿は、とても楽しそうです。


 永い眠りから目覚めたにもかかわらず、このドラゴンは、食事を求める様子がありません。お腹が空かないのでしょうか?


 答えは簡単。ここまで大きく成長したドラゴンは、もはや食事を取る必要が無いのです。


 驚くべきことに、この水のドラゴンは、天然の水が少量あれば数年もの間動き回れるほどのエネルギーを得ることができるのです。まるで体内に核融合装置でも持っているかのようです。


 こうして、大きな大きな水のドラゴンは、何も食べることも無く、鼻歌交じりに世界中の海を何日も何日もかけて泳ぎ回るのでした。






『う~ん、散歩するのも飽きて来たなぁ……。そうだ! 久しぶりに人間の様子でも見に行くとしようかな。奴らはなにげに面白いことをするから、退屈しのぎには丁度いい』


 散歩と言って何日も何日も泳ぎ回ったドラゴンは、どうやら人間社会を見に行くことにしたようです。


『ふむ、今回は、こちらの大陸の様子を見にいくとしよう』


 世界中の海を泳いで回ったこの水のドラゴンの頭の中には、すでに世界の海図が描かれているようです。適当に目星をつけた大陸へ向かって悠々と泳いで行きました。


 そして、誰もいない海岸から上陸すると、ドラゴンの体が眩い光に包まれてあっという間に小さな虎縞のネコの姿になってしまいました。


『ふぅ、この姿なら目立たないだろう。おっと、魔力を抑え込むのを忘れないようにしないとな。ドラゴンだとばれるといかん』


 トラ猫に化けたドラゴンは、海岸沿いにのんびり歩き始めました。


 ドラゴントラ猫は急ぐことなく、気になるものがあると近づいて行って、気が済むまで観察しながら海岸線を歩いて行きます。


 ときどき、魔獣が現れましたが、ドラゴントラ猫がちょっと遊んでやると、尻尾を撒いて逃げ出して行きました。


 そして、何日も何日も過ぎた頃、ドラゴントラ猫は小さな漁村に辿り着きました。

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