言い訳は聞かない

磯風

言い訳は聞かない

 悪霊は祟る理由や、取り憑く理由を語るか?

 否。


 言い訳をしたり、呪いの言葉を吐いたりするか?

 否。


 言い訳ってのは、人間がするもの。

 理由を知って欲しいのは、人間の欲求。


 そもそも悪霊になるような魂は、そういうものを他人が解るように語ることなんてできないから悪霊という形になる。

 悪霊は、人間ではない。

 だから説得なんてできないし、言い含めたり宥めたりして成仏させるなんてのは全部まやかし。


 悪霊になってしまうと輪廻からも外れる。

 神様の管轄から外れるから悪霊になるので、どこにも行く場所がなくなるから人や場所に居

 そんな悪霊は、私達のような『祓える者』が散らすしかない。


 人が観測できるあらゆる最小のものより更に極々小さくまで、全てのものに溶け込んでなんの影響も与えなくなるものにして散らす。

 それが『祓える者』の役割。


 見つけ次第問答できないと解っているから、ソッコー祓う。

 気とか、オーラとか、霊波とかいろいろ言われているが、私がビンタをかますようなイメージをぶつけると散る。

 ご大層な念仏なんて要らない。

 法具も呪具も、私には必要ない。

 

 強い悪霊とか『位が高い悪霊』なんてものはいない。

 悪霊には、生きていた時の怨みの深さとか痛みの大きさは関係ない。

 それらの質量は強さにはならず、ちょっと量が増えるだけだ。

 なので……ワンパンで済むか、二発必要か、くらいの差だ。


 態々退治に出掛けたりはしないが、日常の中で割とあちこちにいるので見つければ散らすという感じの毎日である。


 ある日、話しかけてくる霊っぽい奴がいた。

 悪霊ではない。

 こういう風に話ができる、言い訳と呪いの言葉を嬉々として語るのは……生き霊に多い。

 ずーっと、目の前を歩いている女の子にべったりとくっついていたのだが、私に気付いてこちらに向かってきた。

 邪魔だと思ったのだろう。

 いろいろいい訳を言っていたようだが、残念ながら聞いてやる義理はない。


 生き霊は少し面倒だ。

 散らせないからだ。

 まだこの世に依り代ほんたいがいる。

 そいつを始末しちゃえば早いのだが、それは犯罪になってしまう。

 なので、こういう奴は物理で処理。


 両手でガッ、と肩の辺りを掴んで、ぽーーーーん、と放り投げる。


 すると、大概は本人の所に帰っていく。

 生き霊を返されると、そいつはかなり苦しむらしいので今頃七転八倒かもしれない。


 更に面倒なのは……人間である。

 ここのところずっと私の後を付いてきたり、変な手紙を寄越したり、仕事場に迷惑電話を頻繁に掛けてくる奴がいる。

 こういう奴には、ある道具を使い彼等を召喚するのが一番いい。


「……後ろにいます。よろしく」


 そう、警察か弁護士だ。

 人間は私の専門外だからな。

 専門家に任す方がいい。


 なにせ、人間というのは言い訳を聞いてやらねばならない。

 私は、言い訳は聞かない。



 今日も言い訳を聞かなくていい奴等を散らしながら、事務所に遅刻しそうな言い訳をどう言おうか……と思案を巡らせる。

 本当のことを言っても『おかしな言い訳をするな』と怒られるので、本当に人間というのは面倒くさい。


 言い訳を聞かない私が、言い訳を言わねばならないとは。

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言い訳は聞かない 磯風 @nekonana51

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