第58話 ウストの町にて
11月1日。12時。
ウストの町で昼ご飯の食べれる店を探している。
「あなたの『勘』任せで!」
と言われてしまったので、足の向くままに進む………と、漁師さん達の集団と、とれたての海の幸で作るごった煮を作っている所に遭遇したので、聞いてみる。
「あのー。この町で昼食を食べれる店を探しているんですけど」
「おう、この町にゃそんなのねえよ兄ちゃんたち。何ならここで食っていきな」
「本当ですか、助かります!」
((『勘』に任せたらこうなったぞ水玉。構わないな))
((もちろん、構いませんとも))
見た目は魔女の大鍋の中みたい(魚は青か紫)な汁物だが、味はとても美味しい。
というか貝は緑色とオレンジ色なのな………エグイわ。
だが故郷のレヴィアタン領(海)よりはよっぽどマシである。あっちは毒もあるし。
13時。お腹いっぱいになった俺たちは、好意だけ頂くのも何ですから、とそこの頭領らしい人にお金を押し付けておく。
労働で払いたいけど夜中の事があるから、と言ったら察して受け取ってくれた。
14時から19時までは、街を歩いて回った。目当ては書店だ。
ここでは『縮小国家』を使った。バラバラの場所に3件ある。
散策ついでに歩くのにちょうどいい。
バルトルまでは20日あるというので、本も大量に買い込んだ。
19時。昨日見た飲み屋を活用する時である。
水玉は酒も質量なのでまだいいだろうが、おつまみは大して美味しくなかった。
0時の試練とやらを突破したら、自分で酒の肴を作ろう。
そう心に決めた瞬間だった。
酒自体もあまりおいしくなかったので、クリエイトフードで出す方がマシだ。
水玉もあまり長居していたくなかったのか、早めに帰ろうと言ってきた。
「あのお酒はいただけません、雑味も多いし、変な味がしますし」
「クリエイトフードのがマシだな。俺はツマミが。試練が終わったら飲みなおそう」
うんうんと頷く水玉と俺。心は一つだ。
結局21時には宿に帰ってきてしまった。
晩御飯が足りないので、おれが打っておいた蕎麦で晩御飯にする。
うどんもあるので、どっちがいいかと水玉に聞くと蕎麦と返ってきたのだ。
うどんを食べることもあるので、単純な気まぐれだけだと思う。
ようやくまともな食事をして22時。0時が近づいてきたな。
綺麗な星空だ、だけど異世界の星空。
魔界の月が沢山の「夜空の天蓋」が恋しい―――
俺たちは2共ベッドに横になり、感覚を研ぎ澄ませていた。
0時だ
はじめは「うーうー」「うぐがぁ」などという、ガムテープで口をふさがれた人の声みたいな音、いやもとい声が聞こえてきただけだった。
船室の窓から岸辺を覗くと、とても長い白い布が、人をつま先から頭までがんじがらめにしているのが目に入った。何だあれ。
3体(?)いるようで、布の端にはぎょろりとした目玉が赤青黄とついている。
とりあえず、オーラソードを携えて外に出ようとしたところ
「気を付けて下さい。彼らは酸素不要の種族でも「窒息」状態に出来ます」
その声は、シーラさん!
「シーラさん、来て下さったんですね」
「助言しか出来そうにないのですが………」
「いや助かるよ。結界を張らずに飛び出すところだった………水玉!」
「ええ。『フライト』『身体強化系魔術×10』『結界』『オーラソード』」
「俺も。『身体強化系教え×10 飛行 理外の外殻』『結界』『オーラソード』」
「行きますよ!」「ああ!」
知能のない悪魔なのか、俺たちを見ても動揺する事はなかった。
だが、自分の体が巻き付かないと知ると動揺し始め、オーラソードが切り裂くと、布の体のくせに鮮血が噴き出る。あっという間にバラバラだ。
目に隠れて見えなかった線のような口が叫び声を上げた。
俺たちが瘴気全開なので同族だとわかったのだろう、先にぐるぐる巻きにしていた奴らを、俺たちの前にそっと置いて様子を窺って来る。
「うん?貢物か?なら布を解け」
シュルシュルと2人の窒息した人間の体(瀕死)があらわになる。
「これは人間から捧げられたものか?」
うんうんと頷く布悪魔。
「そうか、なら貨幣として価値が高い。このを悪魔見逃そうと思うんだが、水玉?」
「ええ、肉体の方はあとで肉屋、魂は封印球を作って入れておきましょう。二つとも亜空間収納ですね。魂の徳は低いですけど、仕方ありません」
((お、王子殿下………いえ王女殿下とは露知らず、ご無礼を………))
「そこにいるのは雷鳴=ラ=シュトルム公爵ですよ?」
((なんと!?ご無礼いたしました))
「いいよ、それよりお前ってどこの種族?」
((権魔でございます。フルメトイン家の執事をやっておりますラーグと申します))
そう言って人型を取るラーグ、かなりの美青年だ。
「ラーグか、良かったらうちに就職しないか?今ならどんなポストでも開いてるぞ」
「なんと!?それはときめきます!」
「そうか?じゃあフルメトイン家には俺が連絡を入れて使いの者を出すから」
「はい!」
「ま、ここを生きて出られたらなんだけど」
「あ………先に言って意味のあるものなのかは分かりませんが、2の試練はドッペルゲンガーです。姿自体は白く変色してしまう事以外は対象と同じ。記憶と力はそのままですな。別々に行動するのが特徴と言えば特徴です」
「あの………」
シーラさん、が突然話に混じってきたので驚いた。
「どうしたんだ、シーナさん」
「その者は、雷鳴君と違って心臓があるし、水玉さんにはある体のストックがないわ………お役に立つかしら?」
「ええ、すごく!」「ああ、シーラさんはもちろん、ラーグもかなり役に立ったぞ」
「よかったわ」「ありがとうございます!」
「あああ!何で戦ってないんだよ!?供物もやったろ!?」
ケラトが船から身を乗り出して叫んでいる。
「うるさいのです。供物分は戦いました!こんな所で死ぬ気はありません!」
「うん、前の町のイレーズの方が戦闘は強かったな」
「それに供物はこのお二人に差し上げましたから、もう私の手にはありませんし」
俺と水玉は瀕死の男たち(多分囚人)を亜空間収納に放り込んだ。
供物を受け取ったことになったのだろう、俺と水玉の能力が微増する。
「お前ら、まさか悪魔………」
「召喚ではなく空間事故で来ただけですが、仰る通り悪魔です」
ケラトは放心したように座り込んでしまった。
「立ち話も何ですから、船室でお茶とお菓子でも」
「職人の菓子とは比べないでくれよな」
そう水玉と俺が、船室に2人を招待する。ぶつぶつ言ってるケラトは無視だ。
「どうぞ」
サイドテーブルを集めた即席テーブルに、俺は紅茶とケーキを置いていく。
評判は上々。
「公爵様は、多芸な方ですな」
「あはは、まあね」
突っ込んだ話をするとまずいと『勘』がいうので、俺は適当に誤魔化した。
「小生、改めてシュトルム公爵様にお仕えしたい。使用人を酷使するような主人ではこのような物を作って、自分より下級のものに振る舞うなどありえませぬ!」
「私から見ても雷鳴君はいい子だと思うわ」
シーラさんまで。
くすぐったい話だ。だが確かに俺は本人が望まない限り、使用人は酷使しない。
目の前の水玉は、本人が何も言わなくても周囲に世話させる天才だが、本人曰く、俺と婚約してからは、あれこれされるのがちょっとうっとおしい、だそうだ。
その水玉は機嫌良さそうに、ケーキをぱくついている
夜中の人外お茶会は、夜明け頃まで続いたのだった。
11月1日。11時。
1の並んだ時間。俺は寝不足を取り返していた。
水玉は読書をしながら、これまたベッドに転がっている。
12時になった頃だ、ガンガンガン!と言う音と同時に船室の扉が開けられた。
「おい、帰れなくなった間抜けな悪魔ども!試練を恵んでやるから起きろ!」
むか。この兵士………悪魔の怒りのツボをよく心得てるな。
「それともこれで死んじゃったら意味ないから逃げるかぁ~坊ちゃんたちよ」
「あの、お前悪魔ってどういう存在か分かってる?」
「召喚されたら働くしか能がない奴らだろぅ~?分かってるさ!」
むかむかむか。俺はそいつに「下級:無属性魔法:フィア(恐怖)×10」をかける。
「なんだ?なんなんだ?やめてくれ!うぎゃあああああああああああああああああ」
効き目は上々。ついでに持続時間も×10しておいた。
と、いうことで、術が終わる頃には廃人だろう。
「で?他に案内してくれる人は?」
部屋の外から、ちょっと偉そうな兵士が前に出て来た。
「そ、そいつにかけた術を解くのが先だ」
「悪魔に何の代償もなく言う事を聞かせられるとは、ここまでバルトルに近い町では教えられてないんじゃないか?前の町でも悪魔の方が教えてたみたいだし」
「ざ、罪人を1人やる。だから」
「連れて来て引き渡して。そこまでやらないと捧げた事にはならないよ?」
おい、急げと部下らしい連中に指示を出すお偉いさんらしき兵士。
連中が罪人(女性)とやらを引きずってきたのは30分経ってからだった。
正直あの兵士はもう、気が狂ってると思うけど、言ってやる必要もない。
「捧げる、持って行け!そして部下を解放しろ!」
俺は罪人の女性の魂を奪ってから、器を亜空間収納に放り込み、封印球に魂を保存して亜空間収納にこれまた放り込むと、兵士の術を解いた。
他の部下が解放しているようだが、訳の分からないことを叫ぶかと思えば赤ん坊帰りしたりする。恐怖で完全に精神崩壊したらしい。
治してやらないのか?どこにそんな義理がある?
「頼む!治してくれ!」
「どこにそんな義理がある?」
「も………もう一人囚人を連れてくるのは私の権限では不可能だ」
おれははぁーっと息を吐き
「その程度の知識しかないんじゃ話する価値もないな。こっちは侮辱されてるんだ」
好意で治してやるなんてあるわけがない。
「………どういうことだ、頼む、教えてくれ」
はぁー。大概お人よしだな、俺も
「供物は動物でもいいんだよ、ヤギとか、羊とか。簡単な願いならな」
「………すぐ連れてくる」
気まずい時間は、それなりに続いたが山羊と羊を捧げられたので、主要な血管を切って簡単に血抜きし、魂は放流。肉を亜空間収納に放り込む。
「じゃ、仕方ないから治すぞ『教え:癒し:精神治癒』」
無礼な男は静かになった。こちらを恐怖の目で見る以外何もできてない。
「………治ったのか?」
「俺たちがいる間はあんなだろうけど、治ってるよ」
「それで?時間がかかったけど連れてってくれるんじゃなかったのかな」
「あ………ああ。連れて行くとも」
連れていかれたのは、大きな白亜の神殿。雪が降ってるのかと錯覚を起こす。
「この神殿の中に入り、無事に出てきたら合格だ。ふふふ………」
「言っとくけど戻ってきたのに通行書を出さなければ、あんたの首を貰うよ」
硬直した衛視を残して、俺たちは白亜の神殿に踏み入った。
「今回は雷鳴の方が怒るのが早かったですねー?」
「お前が起こる前に動いただけだよ。お前だとあの兵士だけで済まないだろう?」
「連帯責任で、呪いをかけてやろうと思っていました。そうですねえ、顔のパーツから始まって、最終的には手足も胴体から落ちる呪い。妹のフィーから教わりました」
「生贄を捧げられて術を解く気は?」
「私の怒りが生贄1体ですむほど小さいわけないでしょう?」
「やっぱりね」
「さて、水玉、ここからは作戦会議だ。念話で行こう。それも秘匿回線で」
((ん………これで通じますか?雷鳴))
((大丈夫。まず俺の方から行こうか))
((はい。やっぱり心臓があるっていうのは弱点ですか?))
((弱点だね。この後木の杭を作って、心臓に直撃させれば行動不能だ。殺さなきゃいけないなら、その後火でもつければいい。ただ怖いのがな………『教え:変化:ブービートラップ』って言って打ち込んだ杭ごと、自分の心臓に貯めてあった釘とか鉄片とか礫とかを打ち出して来る技なんだ))
((なんですかそれ!?痛くないんですか!?))
((痛いし、ダメージも食うよ。でもこれイザリヤ姉ちゃんが開発した術でさ。あの人とことん自分に厳しいから。タダで倒されてくれないんだよね))
((今そんな方が七大魔王の一人なんですね………そしてここの魔王でもあると))
((うん、それで姉ちゃんの幼馴染みでもある………ってこの話題から離れよう))
((とにかく杭を打ち込むのは遠距離でないとまずいのは分かりました))
((うん、杭に『フライト 速度×10』『オーラソード』重ねればさすがに刺さると思う。全力で行かないと『理外なる外殻』があるからね))
((了解しました。雷鳴が発射しますか?))
((うん、痛いと思うけど、抑えを水玉が頼む。俺ならさらに杭に『瞬足×10』を乗せられるから、確実にダメージが通ると思うから))
((………了解しました))
((さて、次は水玉だけど………ぶっちゃけどうやったら死ぬ?))
((単純です。タンクがない状態なら頭を壊せば死にます))
((有効な戦法はあるか?))
((大きなハンマーで、思いっきり顔面を殴る事ですね))
((罪悪感がすごいんだけど………?))
((私がやりましょうか?))
((いや、いい。大槌を作っておかないとな))
俺は『クリエイトマテリアル・ラージ』でスレッジハンマーを作り出す。
それを水玉がコーティングし、後は使用時に俺がオーラで補強する。
魔化までかける時間はないが………念のため3つ作っておこう。
((後は私がひたすら反対側から後頭部と胴体を削る………ですか?))
((そうだな、水玉にもスレッジハンマーを作っておこう))
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