第55話 アザンの町 から パルテの町
8月26。AM12:00
昼から焼肉は俺の胃が持たない。
そう言ったら「なら代わりにレーダーになりなさい」と言われました。
レーダー扱いするなというのに………とかいいつつちゃんと探す俺。
今回俺が『勘』でたどり着いたのは、行列の出来ている店だった。
行列だが、客の進むスピードは速い。
これはうどん屋さんだ。こっちに来て初めて出会う。
早い、美味い、安いのタイプのお店らしく、カウンターで注文しながら進んでいく形式のうどん屋さんだった。いかにも水玉が気に入りそうな庶民的な感じだ。
水玉がワクワクした顔でトレイを持って列に並ぶ。
うどんがどんぶりに入った時の嬉しそうな顔は、魔界では見られないものだった。
そのあと、天ぷらやお握りをぜんぶ取ったのだが、それでも料金は安かった。
嬉しそうにうどんをほおば―――いやまて、違う。
「水玉、それ違う。それはパスタのマナーだ。うどんはすすっていいんだ」
こう、と実演してみせる。目を丸くする水玉。
「下品じゃありません?」
「大丈夫、この食べ物はそういう食べ物なんだよ」
「そうですか………?では」
戸惑いがちにずずっとすする水玉。それで大丈夫と頷いてやる。
それから「すする」をマスターした水玉は、取ったものもすべて平らげた。
この分なら、もう馬車1つ分コーティングしても平気かもしれない。
そう思うぐらい食べた。
13時。店を出た俺たちは、暇つぶしに迷う。
ここは、カードゲームやボードゲームといきたいが、俺たちは2人共ムキになるからなあ。やめておいた方がいい。ここは図書館で暇つぶしをしよう。
図書館に入ると、結構まともな文書が充実している。
じゅうぶんヒマつぶしになりそうだった。
18時。水玉がワクワクしているのが伝わって来る。
「竜肉料理の店でいいんだな?」
「もちろん(いい笑顔)」
というわけで、竜肉料理の店再び。昨日とはコースを変えて。
未知の竜肉の部位のおいしさが堪能できた。
21時。水玉が底なしなので、かなりいい時間になったな。
宿に帰り、たる風呂でのんびりする。
「無数の亜竜の中を突っ切っていく試練だって言ってたよな。感想は?」
「今の私たちなら負ける気はしない、ですかね」
「刃を一閃させるだけで倒す事ができる。馬車の幌の上に『フライト』で浮くスタイルで行こう。馬車のスピードに合わせて進む」
「『フライト』『特殊能力:結界』『オーラソード』は使う事前提ですね」
「そういうこと、後は臨機応変に」
「はい。今日は明日に備えて早く寝ましょう」
♦♦♦
8月27日。AM12:00
昼になってようやく使者は現れた。
危ない、もうちょっとで食事に出るところだった。
けど、ということはこの先食事をとる暇もなく、戦闘に突入とかありえるのか。
それは気分の問題だが嫌だな………と思っていたら本当になった。
幌馬車ごと連れていかれた先は、大きな鉄柵のゲートだった。
向こう側は、V字の形をした岩道で、辛うじて底を幌馬車が走れる。
岩棚にかなり多くの亜竜が群れているのが目に入った。
((水玉、これは幌馬車があぶない。地面に異変を生じさせたり、岩石を吐いてきたりする可能性のある地属性の亜竜は早めに狩ってしまおう))
((了解です雷鳴。万が一幌馬車がダメになったら?))
((優先は俺たちだ))
((そうですね。そうならないよう努力しましょう))
((ああ、それはもちろんだ))
当たり前だが、役人から説明が入る。
「群れているのは700m向こうまでです。そこを抜ければ合格となり、亜竜も追って来れないように結界があります。無理だと思ったら引き返してもらっても構いませんが、我々は一切の干渉をしませんので、そのおつもりで」
簡単なルールだ。
「じゃあ、早速行かせてもらうよ」
「分かりました………GO!」
鉄柵の門がガラガラと開く。
ピンクに「全速前進!」と指令を伝えると、幌馬車の上に『フライト』で飛ぶ。
もちろん同時に『結界』『オーラソード』を使う。
水玉には剣で、近寄って来る亜竜の始末を頼んだ。
俺は以前、たくさん買い過ぎていたジャベリン(投げ槍)にオーラを纏わせ、遠方の亜竜の頭を狙った。道を塞ぐような術を使うかもしれないアースドラゴンが主だ。
この戦法はアタリだった。俺たちは猛スピードで道を駆け抜けていく。
もちろん、仕留められなかった亜竜もそれなりにいる
その追撃には『結界』の範囲を背面全体に広げることで対応。相手はしない。
とにかく前へ進むことを心掛けた。
水玉が近寄ってきた―――背面の結界を壊そうとしている奴は除く―――亜竜全てを相手取って、その頭を落としていく。
俺は、オーラを纏わせたジャベリンで亜竜の頭を砕いていく。
心配していたほどの事もなかった、と思ったその時。
出口と思しき場所にデカブツが陣取っているのが見えた。
おっと、こいつの首はオーラソードで落とすにはデカすぎる。
「ピンク、緊急停止!水玉、側面任せた!こいつは俺がやる」
「カシコマリマシタ ゴシュジンサマ」
「了解です!」
まず、このデカブツに『ウィークポイント』だ。
弱点は………目か。
巨大さゆえに、スピードはあまりないようだ。
俺は浮き上がり、スピードで翻弄しながらデカブツの脳天まで来る。
後は槍を構え、オーラスピアにして、目をめがけて逆さ落としだ。
ずぶぅっと、柔らかいものを貫く嫌な感触。
俺の体まで埋まるほど深くオーラスピアを突きこんだのだ。
脳まで行っているだろう。
「GYAAAAAAA!!」
デカブツは暴れ出した。脳の変な所を突いたのか!?
まずい、早くもう一つの目を!
「よいしょっと!」
埋まった槍を引き抜く。デカブツが余計暴れ出す。チッこの野郎。
俺はどうにでもなるが、水玉の方に行かれると困る。
彼女は追いすがってきた亜竜と、ここにいた亜竜を一人で相手取っているのだ。
俺は先程と同じ方法で、デカブツの目に突貫した。
デカブツの動きが止まる。立ったまま死んだようだ。
俺は『念動 威力×10』をかけて、デカブツの体を出口の前からどかす。
「ピンク、水玉、前進!脱出するぞ!」
「カシコマリマシタ ゴシュジンサマ」
「やっとですか!結界が無かったら10回は死んでますよ!」
「悪かった、意外とタフでな」
「では、脱出しましょう」
俺たちはアザンの試練を退けたのだ。
♦♦♦
9月5日。AM06:00
アザンを出て8日経った。
「ゴシュジンサマ ゼンポウニ ブッタイアリ」
寝起きの所をピンクにそう言われて、本格的に頭が始動し始める。
「よしピンク、一辺とまれー」
「カシコマリマシタ ゴシュジンサマ」
馬車が止まる。それで水玉が起きた。
「何かあったんですかー?」
「前方に何かあるらしいから見てくる」
「私も行きます」
「ああ」
前方にあったのは巨大な看板だった。
《試練を受ける者は、この先10日前後のパルテの町へ!》
「と書いてあるが………10日かよ、結構時間を食うんだな」
「10日と言ったら海の方ですね。試練はそれに関わるのでしょうか」
「さあ………水と言えばシーサーペントとクラーケン、ヒュドラなんかもそうか」
「今言っても仕方ありませんね。では進路を変更しましょうか」
「ピンク、進路変更です。右手の方に行って下さいね」
「カシコマリマシタ ゴシュジンサマ」
がくん、と進路変更をし、右手に進み始める。
俺たちは、朝食に定番の巨大フルーツを食べるのだった。
見かける度に買っていたので、実はまだまだ在庫がある。
多いのはパイナップルだ、俺が好きだからである。
「ゴシュジンサマガタ ミチノマンナカニ ダレカイマス」
「こんな時間にそんな位置に?珍しいな」
「わたし、出て行ってどうしたのか聞いてみます」
しばらくして水玉は、鬼族らしい細身の青年を連れて来た。
「ここまできたものの、暑気あたりで苦しんでいるそうです。乗せてあげます?」
「ああ、いいよ。上がって。フルーツとか食べる?名前は?」
「ああ、ありがとうよ、助かるぜ。フルーツ?貰おうかな。名前はシンだよ」
俺は冷やしておいた普通サイズのフルーツを取り出し、カットして差し出す。
「パルテの町の人なのか?」
男は美味しそうにフルーツを食べながら
「馬鹿言っちゃいけねえ、俺は風来坊よ。どんな所にも自由に行くのさ」
「そういう特殊能力でもあるのかい?」
「まあ、そんなところだ。フルーツお代わり!」
食べるのが早い奴である、まあたくさん食う奴は嫌いではない。在庫もあるしな。
「はいよ、次はスイカだ」
シンは早速とばかりスイカを受け取って齧りついた。
最後には丸ごと平らげたのである。
12時、そろそろ昼食の時間だ。焚火を起こし、鍋をかける。
「あなたも食べます?それともフルーツでお腹いっぱいですか?」
「馬鹿言っちゃいけねえ、俺様の腹はそれぐらいじゃ埋まらないね」
「本当によく食べる人ですね」
「量を作るために今日は魚カレーな!」
「「黒い瞳」のメンバーと旅していた時を思い出しますね」
「確かになあ………」
シンは完食した。鍋を洗うかどうか迷ったぐらい綺麗に食べた。
あ、鍋は洗ったからな。
作り手としては、シンは気持ちのいい奴である。
その後シンは幌馬車の中で、大の字になってぐうぐう寝だした。
何度姿勢を修正しても大の字になるので、俺たちは腕や足を下敷きにして、気にせず寛がせてもらった。大の字になる方が悪いのである。
水玉と外の景色などについて雑談しつつ、時間はゆっくりと過ぎていった。
見えた景色によっては、採取・狩りのイベントが入ったので退屈ではない。
ただ、幌馬車のカーテンを開けっ放しだったので、ややクールダウンの効きが悪かったけど、それだけである。
夜ご飯は単純な物になった。途中でハンティングした鹿がメインで丸焼きだ。
俺が作るのは5種類ぐらいのタレがメイン。工夫して作る。
シンがソワソワしている、待ちきれないんだろうか?
「シン、どうした?焼き上がりはまだだぞ?たくさんあるから心配するな」
「いや、それもだが………こう、あるだろう?晩メシには欠かせないものが」
俺は、水玉と顔を見合わせた。もしかしてあれか?
「酒なら、俺たちは旅の間はあまり飲まない。欲しいなら出すけど、メインディッシュができあがってから乾杯で」
シンは嬉しそうに何度も頷いた。当たりらしい。
その後は、シンが飲むこと飲むこと。備蓄が底をつきかけた。
飲み食いするだけして、また幌馬車に大の字になって寝る。
俺たちはシンの腕を枕に、足はその上に足を置いて寝ることにした。
起きた時腕が痺れていても、それは自業自得である。
あ、酒はシンが寝てる間に「クリエイトフード」で補充しておいた。
9月5日。AM06:00
ぱちり、目を覚ます。枕の感触に?となるが、すぐに昨夜のことを思い出した。
「おーい、水玉、シン、朝だぞー。ピンク、東南に川があるから向かってくれ」
『縮小国家』を使っての俺の台詞に、ピンクが
「カシコマリマシタ ゴシュジンサマ」
と返事をする。他の2人は………?
「何やら枕が変な感触………ああ、この人の腕を敷いて寝たんでした」
水玉が起き上がると、シンはぱちりと目を開けた。
「ああ、起きたか。2日酔いとか大丈夫か?」
「俺は二日酔いになどならん………寝るのに邪魔じゃなかったのか?」
「邪魔だったから手足は下敷きにして寝たが?」
「そうか………お前らは親切だな」
「単に貴方一人ぐらいどうとでもなる、というだけです。親切ではありません」
水玉、それはツンデレ発言だぞ。
「ま、そういうことかな。今ピンクに川に向かわせてる。水浴びするだろ?」
「やった!近くに小川があったんですね」
俺たちは、街道を逸れた小川へやってきた。
水玉だけこちらからは見えない位置に行ってから水浴びする。
シンは着やせするのか、その体はかなりがっちりとした筋肉に覆われていた。
見つめていると
「雷鳴は前衛職なのに細いんだな。水玉もだが」
と言われる。確かに、元の世界ならではの筋力のつき方だからな
「俺たちは筋肉がつくんじゃなくて、筋繊維が強化される種族なんだ。普通に筋肉がつく奴もいるけど、俺たちは力を込めると盛り上がるんじゃなくて固くなる」
「ほう、どれどれ」
シンが腕をつかんできたので、力を込める。驚愕するシン。
「オリハルコンの如き強度だな!」
「そうか?ありがとう」
俺はマッチョは苦手なのだが、シンは不思議と苦手意識を感じさせなかった。
友達になれるかもしれないな。
その後は普通に水浴びをしようとして、結局水のかけあいに発展した。
戻ってきた水玉が俺たちを見て
「頭まで洗ったようですね。岸に上がりなさい、はい『ドライ』」
びしょぬれになった犬が飼い主に乾かされているような光景である。
俺は何となく照れくさく感じたのだった。
9月14日。AM06:00
一人増えた道中で、パルテの町の手前まで来た。
今日は小川が無いので『ウォッシュ』で済ませる。
ここまで来た時点でシンが
「ここまで厄介になったな。俺は行く」
「どこへ?」
「それは言えんが………試練の宿屋に入ったら呼ぶがいい。必ずだぞ」
「あ?ああ、でもそれならついて来た方がいいんじゃ?」
「いや、宿に入ってから呼ぶのだ!いいな?」
「はいはい、了解しましたよ」
シンが去って、俺と水玉は顔を見合わせて首をかしげたのだった。
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