第49話 ゴムレス接近・1
01月05日。AM11:00。
俺たちは、盗賊の本拠を見つけ、壊滅させていた。
反撃しかできないのだけが大変だったが、それ以外は問題ない。
亜竜を召喚する奴は、召喚の途中で取り押さえた。
今は猿ぐつわとルーンロープで文字通りのぐるぐる巻き。
町への輸送(テレポート)は2人で往復した。30人以上いて大変だったのである。
いつもの馬車はないのかとからかわれたが、経緯を話すと納得された。
大急ぎで輸送を終えて帰ってみると、隊商の人たちが待っていたので、けが人とかには『回復』すると言ったら喜んでくれた。
亜竜を召喚する奴を倒したかと聞かれたので、ふんじばって『テレポート』で官憲に突き出してやりました、と言ったら非常に驚かれた。そりゃそうだよな。
「俺たちの仕事も盗賊退治だし、まだ残党が残ってるかもしれないし、送ろうか?」「ブルックの町には行かないのか?」
「盗賊はそっち方面には出てないからね」
「ああ、なるほど」
と言うやり取りの後、俺たちは隊商の保護についた。
隊商のリーダーとの会話で
「報酬についてはゴムレスのダンナに貰って下さい」
「ついでなんだから、報酬なんていりませんよ。この後は闘技場で稼ぐつもりだし」
「太っ腹ですなぁ。あ、それとも闘技場の闘士になるなら、ゴムレスのダンナに雇い主になって貰えばどうです?旦那はお抱えの闘士を持っとらんかったはず」
「雇い主?レルルートの闘技場に出場するには雇い主が必要なんですか?」
「どうしても、というわけではないんですよ?でも後ろ盾のあるなしで対戦表が変わる、なんていうのは良くある話でして。強い奴と一緒の予選に入れられたりね」
「そうか………じゃあゴムレスさんとやらに頼んでみようかな」
ということになった。
♦♦♦
02月05日。AM08:00。
ガラゴロと、隊商に組み入れられた格好の「レディー・ピンク号」が行く。
北東の方から入って、南の方へ進んでいく。
工場に原石を研磨するために持って行くのだろう。
そこでゴムレスとの今回の商談を終わらせるのだと言っていた。
この30日ですっかり気心の知れた彼らと別れるのは寂しかった。
が、目標はゴムレスだ。
工場に着いて、隊商のリーダーが門番と何かやり取りすると、奥に通される。
隊商のリーダーは、俺たちを伴って中に入ってくれた。
すると、工場には似合わない豪華な内装の部屋に通された。
その応接室に俺たちは通される。
そこにいたのは土妖精とそう変わらないような小男で、目つきが悪く、茶色の髪と髭を短く刈り込んでいる男だった。彼がゴムレスらしい。
隊商のリーダーは有難い事に、俺たちが彼らを助けた経緯を詳細に語って、俺たちが闘技場の後ろ盾を探している事まで説明してくれた。親切な人だ。
「うちの仕入れグループを助けてくれたのか………それは礼をせんとな。こいつの口からは聞いたが、再度聞こう。お前たちの望みは何だ?」
それは凄腕の商人から発される気迫だ、なかなかのものである。
だが、俺たちはそれを真正面から受け止めて返した。
「闘技場に出るのに後ろ盾と宿泊場所を探しています」
ちょっと期待して返した言葉だったが、期待以上だった。
「ほう。なら、後ろ盾になってやろう。珍しい事だ、感謝しろよ?だが3か月以内に結果が出せなければ、後ろ盾を止める。結果が出せているうちはうちの屋敷に泊まるがいい。荷物をまとめて今日中に、居住区域のうちの屋敷に来い」
「「ありがとうございます、ゴムレスさん」」
俺たちはとりあえず退室する、そんな雰囲気だったからだ。
10時。
「センス・ライもなにもなかったですね」
「説明したのが隊商のリーダーだったからな。とりあえず馬車を取りに行こう」
「あ、そうですね。お屋敷なら止めていてもいいでしょうね」
俺たちはまだ隊商の一部になっていた「レディー・ピンク号」をサルベージした。
荷物と言えばこれと、乗せている冒険者セットのみで、後は亜空間収納である。
俺たちは幌の中で、仕立てのいい服を着こんで、ゴムレスの屋敷に向かった。
迷わなかったのか?当然迷ったが、人に聞いて辿り着いたのである。
だが着くのが早すぎて、ゴムレスの指示が行き渡っていなかった。
門番とゴムレス待ちで世間話をしていると、ゴムレスに似ていない黒髪の青年が通りかかった。そこそこ美形だ。水玉を口説きにかかったが、水玉は相手にしない。
「振り向かせて見せますよ、お嬢さん」
との言葉を残して、青年―――多分「ダン」―――は去っていった。
それからしばらくして、ゴムレスが返ってきた。
「何だ?早いな、お前たち………ショッキングピンクの馬車の冒険者の噂は聞いている。お前たちだったのか………何故この色なのだ?」
「可愛いでしょう?」「認知度を高くするためですよ」
「どっちだ?まあいい、お前たちが闘技場で好成績を収めるたびに、名声と金がワシに入るのだ。気張れよ」
そう言って使用人に部屋の用意など指示を出すゴムレス。
水玉が喜んだのは、客用の大風呂の存在だ。
「嬉しいです、ゴムレスさん。いつ入ってもいいですか?」
「好きなようにするがいい。日頃の鍛錬は正門前の広場を使うように!」
そうこちらに言い置いて、後を侍女さんに任せていってしまう。
「わたしたち、同じ部屋がいいのでよろしくお願いしますね」
「ゴムレス様から希望は聞くように申し付かっております。かしこまりました」
2人部屋に案内された。客室のようで、綺麗な部屋だ。
「さて―――懐には入り込めましたね。今後どうしましょう?」
「闘技場に出て、優勝しまくるしかないだろうよ。自分に利益をもたらす存在だと分かればガードもゆるくなるだろうからな」
「やはり、それしかないでしょうか―――面倒ですね」
「面倒だけど、信用を勝ち得るにはそれしかないだろう」
かくして俺たちの闘技場生活は始まった。
月初めに、闘技場の登録を済ませると、自分たちの予選が来るまで、ゴムレスの屋敷で、鍛錬と言う名のお遊びを行う。本気でやると前庭が陥没するからだ。
予選を制覇し、トーナメントが始まると、俺たちは全力で優勝を目指す。
結構手ごわい者もいたので、全力全開だ。
俺たちは1年間の優勝をかっさらっていき、一躍時の人となった。
♦♦♦
統一歴311年。02月01日。PM05:00。
この一年優勝し続け、ゴムレスの信頼を勝ち取る事に腐心した。
レルルートどころか大陸一の呼び名も高い2人組になったのである。
今日はまだ受け付けだけだったので、ゴムレスに頼まれて商談のつきそい―――護衛を頼まれてついて行くことになった。
「今日の相手はジャミル教徒だ。何かあるかもしれん。しっかり護衛をしてくれよ」
おおっと、ここは本人に聞くチャンスだ。
「ジャミル教徒?ゴムレスさんは彼らと付き合いが?」
「ワシがジャミル教徒だからじゃな。おっと、世界を滅ぼすとか言うお題目は本気にするなよ。ワシは時々利益をもたらしてくれる悪魔を召喚するだけじゃ」
「悪魔と召喚方法には興味があります」
「なら、いずれ立ち会わせてやるわい」
「申し出に感謝します、いつになりますか?」
「せっかちな奴じゃの、1週間後を予定しておるが」
やった!一年無駄にならずに済んだ。気分が高揚する。
商談と言うのは、普通の商談ではなかった。
商談相手のターバンを巻いて紫色の肌の男性が、机の上に置いたのは石でできた小さな彫像が5体。なんとなくケルベロスの時のアレと似ている。
それをゴムレスが手に取ろうとした時だ。
「コレをアナタに渡すより、あなたの商会を乗っ取った方が益があるのですよ」
そう言った瞬間、向こうの護衛が動いた。
普通の護衛ではない、瘴気がした。下級悪魔だ―――
ゴムレスに攻撃しようとする悪魔の腕を掴んで止め、水玉と2人で顔を覗き込む。
そして念話で話しかけた。
((おいおい、俺たちの顔はそんなに売れてないのか?))
((ん………?まさか?ひいっ!お許しください))
((こいつの召喚には強制力があるのか?))
((まさか!何故か召喚されてしまい、あとは生贄を寄越すとの口約束で))
((なら、ゴムレスへの攻撃は止めるな?))
((もちろんです!))
「ゴムレスさん、彼は快く攻撃をやめるそうです」
「なっ!?成功した暁には生贄をやると―――」
「誓いましたか?」
「悪魔と誓いを交わすのはご法度だ」
「ああ、残念です。悪魔とは上手に誓いをしないといけないの間違いですよ」
「お前たちは何者だ!?」
「それはゴムレスさんに話す事にします」
ゴムレスは石の彫像を手に取って
「ふむ、これは貰っていくぞ。代金は払うが、今度から別の石工に頼むことにする。あと、同胞に攻撃を仕掛けた事、本部にバレないとは思うなよ」
「行きましょう、ゴムレスさん。彼はもう無力です」
商談相手は凄い形相で、短剣を持ちゴムレスの方に突進してきた。
だが、さっと出した水玉の足につまづき転ぶ。
「これは没収です」
短剣を亜空間収納にしまう水玉。
「ではな」
取引は終わった。
19時。ゴムレスの屋敷に戻って、そのまま応接間へ。
「さて、さっきの現象は何か教えて貰おうか。悪魔がビビりよった。しかも従順に言う事を聞くなど。召喚主にも従わん連中だぞ」
俺たちはこれまでの事をかいつまんで話した。
特に俺たちの所属が魔界であり、悪魔である事だ。
ジャミル教徒の悪魔召喚が間違っていることも話しておく。
ゴムレスはあまり動じなかった。
「ふむ、納得したが、お前たちは召喚されているわけではないのだな?」
「ええ、違います。召喚されていれば国を亡ぼすような大悪魔ですから」
「なら、儂の召喚を手伝ってもらおうか。できるな?」
「できますが、アドバイザーのついた召喚は1段低い出来とみなされますよ」
「なら、その分強力な悪魔を呼ぶまでだ。大きな彫像を発注―――」
「あ、そのやり方でやるなら彫像は私たちで作れます。商人をかたどった彫像でいいのですか?自由に注文を付けて下さい―――『クリエイトマテリアル・ラージ』」
その場にケルベロスの時と同じぐらい大きな彫像が出る。
「これは、おまえが………?」
「はい、そうですよ?」
「俺たちの頼みを聞いてくれたら、これからも何かにつけ助力します」
「お前たちの頼み………なんなのか言ってみろ」
「「魔王」を召喚できる人を探しています。魔王が私たちが帰るためのキーワードなのです。多分、魔王の帰還に乗じて私たちも帰れるようなのです」
「「魔王」?はて、どこかで聞いたような………まあ調べてみよう」
「「お願いします」」
「で、召喚は力ある石を用いた召喚でいいんだな?」
「んー、それは本来補助なんですよね」
「正しい祭壇の組み方と、悪魔との交渉の仕方を先に教えますから」
「………お前たちが間違っていたら?」
「それはない、と思っていただくしかありません」
「………うむむ。分かった、今教えろ」
「了解です、まず必要なものは、呼ぶ悪魔のランクによって変わります」
「できるだけ位の高いカネを司る悪魔だ」
「マモン殿は無謀として………宝石の悪魔ユーフェイウあたりなら適当かな」
「宝石の悪魔か………」
「力としては、宝石を上質にしたり、宝石の絡む取引を有利にしたりできます」
「いいではないか、そいつでいこう。ワシは宝石商だからな」
「ゴムレスさんは、奴隷を犠牲にするのに抵抗はありますか?」
「ないな」
「なら、役にたたない奴隷でいいので1名捧げて下さい」
「他には、儀式用のナイフですね。私たちが作ります」
「それと、力ある石には、自分の血を塗りつけて下さい。補助になります」
「うむ、ところでさっき出した力ある石モドキだが」
「はい?」
「埋めるところでやらんか!部屋の扉も窓も通らんわ!」
「「あ」」
21時。その日はもう遅いからと話は終わった。
続きは、明日俺たちが予選を突破した後、と言う事になったのである。
部屋に帰る道すがら、奇妙な声が聞こえて来た。
げえっ………げこっ………と言う音だ。
嫌な予感がして慌てて角を曲がると、ゴムレスの奥さん「メイ」さんが、夜叉のような顔つきと白い服の女に腹部を刺されて吐血していた。
俺たちが駆けつけたので女は逃げた。
追おうとしたのだが、あまりに素早かったので断念したのだ。
とりあえず、激しく血を吐くメイさんを『回復×10』で治療。
水玉はゴムレスを呼びに行った。
俺たちの回復で大事にはならなかったものの、メイさんは意識を失ったままだ。
ゴムレスは一晩中メイさんについているつもりのようだ。
水玉も何かあった時のために残ると言った。
それ以上詰めていてもしかたがないので、俺は部屋に帰る事にした。
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