第48話 闘技場都市レルルート

 時間を潰して、12時になった。

 そろそろ、情報屋の所に向かってもいいだろう。

 名刺の住所は商店の立ち並ぶ一角だった。

 「土妖精ノームの何でも屋」と書かれた店で、ガラクタがうず高く積まれている。

 中に入ると、迷路のようになっていて、奥まで入るのに結構疲れた。


「すみませーん、ジャックさん?」

 名刺に書かれていた名前だ。奥の方にいて、クリスタル製らしい灰皿を磨いている、老土妖精がそのジャックだろうと声をかける。

「………売りたいのか、買いたいのか?」

「買いたいんですけど」

「何が欲しい?」

「混沌神ジャミル教徒で、世界を滅ぼす事には興味の無いやつ。できれば悪魔召喚の心得がある奴を知りたい」

 老人は空中に「2000」と書いた、値段らしい。

 情報に金を惜しむほど馬鹿ではない、口止め料+で「3000」金貨を渡した。

 ほう、と言う顔をする老人。判断は正しかったようだ。


「強欲な奴が一人。自分の資産を増すのが最優先、だが他人への情はある」

「情があるならいいな。そいつの情報をくれ」

「レルルートに本拠のある大宝石商でゴムレスという。あと2か月ほどでエルモ山脈からの荷物が届く時期だが、そりゃあ道中で何もなければの話だ。最近そこら辺では盗賊団が幅を利かせてる。原石を運んでる商隊が見逃されるとは思えんな」

 ふむ、聞かなかった情報も教えてくれているようだな。

「あとゴムレスには気立てのいい若い細君「メイ」がいて、前の細君との間にできた女癖の悪いドラ息子「ダン」がいる。情報はこんな所だが、とにかく奴は強欲だ、気を付けるんだな」


「ありがとうございます。別料金でいいので、できれば現地の情報屋で信用できる人を教えていただけませんか?」

「情報屋なりの信用度で良けりゃ1000で教えてやる」

 俺は1500を支払う。分かってるなと言うように頷く土妖精。

「スラム地区のバー、クレイジーダンサーでマダムFを探してると店員に言え」

「わかりました、では………あ」

「まだ何かあるのか?」

「この大陸の詳細な地図とか売ってません?」

 土妖精はどこからともなくくしゃくしゃの地図を放って寄越した。

 俺は金貨500を払ってその地図を入手した。

「今度こそ、ありがとうございます」

 土妖精は答えず、手元の灰皿を磨く作業に戻った。


「偏屈そうなお爺さんでしたね、私、少し苦手かもしれません」

「そうか………?俺は分かりやすかったけどな」

「そうなんですか………?まあいいです。もう13時ですよ、お昼にしましょう」

「そうだな、相談は飯の後だ」


 俺たちは港町ならではの海鮮食堂に入った。

 俺は「サーモンネギトロ丼」水玉は「マグロ・イカ丼」をチョイス。

 出てきたメニューのネギトロとマグロの身は青かった。

 市場で教えて貰ったが、名前は故郷と同じ魚だが、外見は結構違ったもんな………

 「マグロ」は凶悪な面をして頭にコブのある青い巨大魚だった。

 それはそれとして、色を気にしてない様子の水玉と美味しくいただきました。


 15時、部屋に帰りつくまでの道のり。

 顔が売れたので色々話しかけられるのを、いちいち相手しながらなので疲れた。

 特に気色ばんで「まさか恋人同士じゃないですよね!」と言ってくる女の子だ。

 「恋人同士だよ」と堂々と答えると「騙された!」と騒ぐ。

 その場を落ち着けるのに、かなりの労力と時間を使ってしまった。


 16時、やっと帰りつく。

「さて、疲れましたね。この後どうしましょうか?」

「あのお爺さんの口ぶりだと、仕入れの隊商が盗賊団に襲われるって事だよな」

「恩を売りたければ、丁度いい現場に居合わせないといけませんね」

「それは、今から俺が『啓示』の眠りに入るから聞いてみてくれ」

「『啓示』って自由に出来るんですか?」

「ある程度はな。何も言わないって事も多い。でも今回は「来てる」から大丈夫だ」

「わかりました、では、どうぞ」


 俺は水玉の膝枕で、啓示の眠りに入った―――


 目を覚ます。水玉の綺麗な顔が目に入る………まだボーっとしている。

「雷鳴?大丈夫ですか?」

 俺は何度か瞬きをして、大丈夫だと答えた「どうだった?」

「30日後に辿り着く、ブルックからの街道、好機あり………だそうです」

「今から30日後?」

「そんな感じの言い方だったと思います」

「ならこの俺たちの足で最速だとこの辺だな」

 俺は土妖精のジャックさんから買った地図を取り出して、テレポートすることも織り込んで印をつける。というか織り込まないとブルックからの街道に着かない。

 つけた印は、ブルックとレルルートを結ぶ街道のちょうど真ん中ぐらいだ。

「よし、明日には出発しよう。その辺でゴムレスの隊商が襲われてるかもしれない」

「私たちの通りがかった動機は何にしたらいいでしょう。旅行ですか?」

「いや、その辺を聞かれた時だが………ゴムレスは多分ジャミル教徒では神官に当たるんだと思う。だから『神聖魔法:センス・ライ(嘘発見)』されたら困るだろう。レルルートに着いたら、その辺を通りかかるのに都合のいい依頼を探そう」

「確かにそうですね。「嘘ではない」言い分として、『センス・ライ』に引っかからないような、都合のいい依頼があるか分からないですけど」

「大丈夫だと思う、盗賊団が出てるって話だから………と『勘』が言ってる」

「便利ですね、あなたの『勘』って」

「俺も自分でそう思うけど………仕方ないだろう、そういうものなんだから」

「はいはい、買い出しに行きましょうね。レルルートには『テレポート』で行くにしても、街道は幌馬車ですもんね。雷鳴、あなた魚しか買ってないでしょ?」

「う………その通りでございます。買い出しに行こう」


 俺たちは買い出しに出て、野菜と果物と肉を沢山仕入れたのだった。

 前は作物が巨大だったから1つ1店舗で済んだけど、ここでは何件か回る。

 店を根こそぎにするのは迷惑だから分散させたしな。

 そんなに大量に買ってどうするのか?

 必要になる時がくるまで亜空間収納の中で眠ってる、というのが答えだ。

 巨大果物や野菜などもまだまだあるが、こっちの人に見られた時困る。

 なのでこっちの物を買うのである。

 それにやっぱり俺たち的には、こっちのものは珍しくて、新鮮な気分になるしな。

 仕入れた野菜や果物には、なぜか紫色の物が多かった。


♦♦♦


 12月5日。AM06:00。

 朝、6時に起き出した俺たちは、装備を整えて宿を7時にチェックアウトする。

 そののち馬車を預かり所から引き取って、郊外の丘まで走らせる。

 周囲の目が無くなったところで、レルルートに『テレポート』だ。


 丘の上から見下ろすレルルートは、中心に巨大な闘技場を置いた巨大な街だった。

 俺たちの出た道は南東の道らしい。街は闘技場を中心に東西南北に分かれている。

 南と西地域は商業区、東と北地域は富裕層からスラムまで居住区が占めている。

 とりあえず馬車預かり所に馬車を預け―――当然、色にギョッとされた―――る。

 次に、門兵にギルド兼酒場の場所を聞く。


 教えて貰った店の名前を頼りに、人に聞きつつ商業地区を歩く。まるで迷路だ。

 商業地区は活気にあふれ、あちこちに大きなバザールがあった。

 水玉の好きそうな食べ物の屋台もあったので、朝食をそこで済ます。

 肉串だったのだが何の肉か?と聞いたらデビルホーンだと言われた。

 どうやら羊に相当する家畜なようだ。味は良かったし、いいか。


 8時。そうこうするうちに、目的地を発見することができた。

 入るととりあえず掲示板へ。あった。目的の盗賊討伐だ。

 引っぺがして詳細を見る。

 ブルックまでの道のり30日の間、1つではなくところどころにアジトがあるので手を焼いているらしい。潰してはまた復活して、と言う感じで。

 掲示板には今まで潰したアジトの場所が書かれた紙も貼ってあった。

 赤字でドクロマークが描かれ、危険と張ってある地点にボスが居るのだろうな。

 ドラゴン(真竜)でもいなければ攻略できるだろう。


 俺たちの目的は盗賊団の討伐だが、ゴムレスの隊商と出会うためには街道を逸れる訳にはいかない。盗賊を吊りだして、のしたあとアジトを聞き出し速やかに潰す。

 そういう流れで行くしかないだろう。

 この依頼を受ける、と店員さんに告げると、受領印を押された。

 そして同じ依頼をまた掲示板に張っている。何人受けても構わないという事か。


 これで用は済んだな。店を出て、馬車預かり所の方に向かう。

 馬車を引き出して、いざ、ブルックへの街道へ。

 

♦♦♦


 12月10日。AM07:00。

 途中で幾つかの隊商と道連れになった。

 盗賊の評判は聞いていたらしく、皆厳重に警備の冒険者に守られていた。

 が、今日は水玉と2人だけである。

 そこを狙っていたと言わんばかりに、盗賊が湧いて出る。

 まるで蠅だ。餌のある所どこにでも湧いてくる。

 盗賊は種族は様々だった。が、総じてレベルは高かった。

 他の隊商は無事だろうか?少し心配になった。


 攻撃してきたやつを反撃のみで倒して―――魔界の法律と俺の戒律のせい―――逃げる奴を追いかける。途中で攻撃に切り替える奴は反撃でボンだ。

 戦国時代の山城のようなアジトから弓が飛んでくるが、当たるはずもなし。

 弓は攻撃のきっかけを作っただけで終わる。

 アジトを制圧するのに1時間もかからなかった。


 倒した盗賊をどうするか、これで俺たちは少し悩んだ。

 水玉が投降した盗賊に、嫌そうに回復魔法を施しながら(かけないと死ぬので)

「どうします?連れて行く訳には行きませんよ」

「『テレポート』で町に戻って司法に預けるか?」

「何回もそれやるんですか………?変に有名になりません?」

「うーん………でも他に方法はないし。暗黒魔法の『ギアス(使命の呪い)』で、自分で出頭させることもできるけど?」

「それは気味悪がられますよ………仕方ないです、いちいち届けに行きましょうか」

「そうだな………いちいちテレポートで盗賊を届けに来るショッキングピンクの馬車と美形カップル。確実に有名になるけどな」

「他に方法がない以上仕方ないです。全員殺すという方法もないではないですが」

「それは後でバレた時、周囲の心証がな………」

「ですよね」「仕方ないか」

 かくして盗賊は司法の手に委ねられ、俺たちは名声をまた一つ得たのだった。

 

 しかもその後も3回引き渡しに行った。

 そのおかげで、門番たちからはすっかり覚えられてしまった。


♦♦♦


 統一歴310年 01月05日。AM10:00。

 俺たちは幌馬車でガラゴロと旅を続けていた。この辺は人気がない。

 だが、そろそろブルック寄りの街道に入る頃である。

 なので、ピンクを御者席から外し、俺たちが交代で御者をやっている。

 

 俺が御者をやっていた時だ。

 見晴らしのいい一本道で隊商が襲われているのを発見した。

「水玉!あれがゴムレスの隊商で間違いないと『勘』が言ってる!」

「はい!『フライト 対象×2』!」

 俺たちは隊商の方に『フライト』で飛んでいく。


 近づいていくと、普通ではありえない光景に気付く。

 なんと、亜竜が―――それも2体―――盗賊に混じって隊商を襲っているのだ。

 護衛がひとり、また一人と倒れていき、俺たちが到着する頃には商人にも犠牲者が出ている状態だった。急いで何とかしないといけない。

「水玉、青い方の亜竜は任せた!俺は赤い方を!」

「了解しました!」


 俺は赤い竜―――正式名称が不明なので赤竜―――の方に突撃した。

 飛翔の勢いで、翼1つを刈り取ってから着地する。

 赤竜は、凄まじい悲鳴を上げた。

「助けに来ました!下がっていてください!」

 そうアピールしておいてから赤竜に向き直る。

 余裕だなって?自分でもそう思う。

 でも、亜竜と1対1ぐらいなら実際に余裕なのだから仕方がない。


 ファイアブレスが後方も巻き込む勢いで吹かれたので『魔法範囲結界』で守る。

 自分には「魔法個人結界」を張り直して『魔法範囲結界』から出て『フライト』で宙を飛び亜竜の首を狙う。得物は槍だ。さすがに剣で攻撃しても切り落とせない。

 槍は赤竜の首を貫通し、反対側の地面に突き刺さった。

 俺はそれを追いかけ、拾い上げる。

 赤竜は血を吐いて、地響きを立てて暴れまわって俺を探していた。

 次の一撃で終わりだ。


 俺は赤竜の胸に突撃する。心臓はここのはず。深く一撃を入れてから引き抜く。

 ずぼっ!槍には巨大な心臓がついてきた。

 俺はそれを引き抜き、放り捨てる………のはもったいないので亜空間収納の中へ。

 いつか食べてみよう。

 水玉の方も決着がついたようだ。

 水竜だったらしく水玉の炎魔法で丸コゲである。


 残りの盗賊は逃げていったので、水玉と一緒に隊商の人たちを治療する。

 すると隊商の人たちから、

「亜竜を召喚した男がいた、あいつを何とかしないとまた襲われる」

 と陳情が。俺たちは急遽、盗賊の本拠の位置を探す事になった。

 隊商は俺たちを待つ、との事だったので、街道に残してきた。

 

 急いで、厄介なのを倒して隊商の元に戻らないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る