第45話 突撃!バルンの悪事

 10月01日。AM07:00。

 会議の終了と時を同じくして、冒険者ギルドの鐘が響き渡る。

 それと同時に、ギルドの指名を受けてグレンパに滞在していた冒険者たちが、ギルドの屋上に次々に集まってきた。俺たちもその中の一人だ。


 ギルドマスターが設営された演説台の上に立つ。

 俺と水玉は彼女から見えないように、人ごみの中に紛れた。

「でわぁ、今回の6大種族会議の結果を伝えるわぁ!」

 拍手と口笛。口笛の方はギルマスの恰好によると事が大きいだろう。

 何せ彼女、何を考えたのか白いマイクロビキニなのである。

 これで俺へのアピールなんだったとしたら、引く。

 その思いを無視するかのようにギルドマスターの説明が続く。


 なんでも、綿密な調査の結果、バルンの町では多数の犯罪組織が「混沌神」ジャミルの名のもとに集い、違法行為に手を染めているらしい。

 だが、一般人は無関係な事が多く、軍隊を投入するのはためらわれる。

 この先、土壌が出来上がっているせいで発生する犯罪組織や、今回見逃した犯罪組織はその都度潰していく。だが今できあがっている犯罪組織は放っておけない。

 しかし軍を動かすと、無関係な人を巻き込むだけでなく、動いている最中に察知した犯罪集団は逃げてしまうだろう。そこで冒険者の出番だ。


 そこで、俺たちの名前が呼ばれ、前へ、と言われた。

 嫌な予感を感じつつ前に出ると。

「あぁん、ダーリン、そんな所に隠れていたのねぇん!もう離さないわぁん!」

 壇上から俺にダイブしてくるギルマス。

 避けるのは少し可哀そうだし………でも水玉がいるし………ああもう『フォーリングコントロール』!

 ギルマスはダイブの姿勢のまま手足を動かし、ゆっくり俺が避けた所に下りた。

 下り立つが早いか俺に向かって、唇を突き出しつつ、突っ込んで来るギルマス。

「俺には水玉がいますから!!」

 周囲に聞こえるように言うと『ルーンロープ』でギルマスをぐるぐる巻きにする。

 ギルマスは『ディスペルマジック』するが『ルーンロープ』は消えない。

 単純に俺の魔力量の方が多いからである。

「いゃん、ダーリン。そういう趣味なのぉん?それでもいいけど今はダメよぉん」

「誰もそんな事は言ってません、先に仕事をしてくれるならほどきますよ」

「しかたないわねぇん。あとで………ねぇん」

 ほどいたが、いい加減水玉が怒り出した。

 絶対零度の視線がギルドマスターに着き去る。

「なによぉん………あたしは諦めないんだからねぇん」


 俺たちを下に置いて、腰をふりふりギルドマスターは壇上に帰っていく。

 げっ、ギルマスのビキニの下のほう、Tバックだった………

 観衆は拍手と口笛を送っているのだから、あのどれか一人とくっ付いて欲しい。

 俺に向けられる嫉妬の眼差しも鬱陶しいんだからさ。


 俺たちを呼んだのは、大規模魔法陣の説明をするためだった。

 大規模魔法陣があれば、バルンの町の連中を逃がさずに各パーティが捕縛できる。

 集まる嫉妬まじりの称賛の眼差し。

「ニャ!という事で指名依頼書を渡すから、パーティリーダーは並ぶのニャー!」

 トテトテと俺たちの前に出てきたチェリーさんがみんなに声をかける。

 大した混乱もなく依頼書は回っていった。

 そして、俺たちにも。


 内容は、混沌神ジャミルの神殿を潰す事。

 できればそこの大司祭を捕らえて欲しいが、戦闘で殺すしかない場合は仕方なし。

 神殿内の全てを見回って人が捕らえられていた場合は解放を。

 そんなシンプル極まりない依頼書だった。


「了解しました、チェリーさん」

「すんだみたいねぇん、さあ、あたしの部屋にいきましょぉん」

「行きません。今度は『ライトニングバインド』いきますよ?」

「照れ隠しも程々よぉん?さ、いきましょぉん?」

 ぷつ。軽く切れた。『中級:無属性魔法:スリープ』を唱える。

 崩れ落ちたギルマスを支えて、もの問いたげに見つめてくるチェリーさん。

「高レベルの『ディスペルマジック』でないと起きない魔法だ。条件として俺たちが南方大陸に行ったら、というのも条件に入れてる。こんな伝え方になって残念だ」

「そうなのニャ………分かったニャ、また会えるニャ?」

「ごめん………確約はできない」

「そうかニャ………」

「なんかごめんね。で、さ。集団転移はいつ?」

「あっ!」


 ギルマスを寝かせてしまったので告知ができていなかったらしい。

「みんなー!今日夜22時にここに集合ニャー!準備しておいてニャ!」

 それを聞くと、集団は解散していく。俺の方を睨みつけていくやつもいたが。

 完全に誤解なので、思わず生温かい視線を返す。余計睨まれた。


 10時。俺たちも解散して、段取りを話し合う。

 依頼書によると、神殿は町の奥だ。

 町の入口から『インビジビリティ(透明化)』をかけて接近がいいと思われた。

「できたらそのまま大司祭を押さえよう」

「それができたら一番いいですね」

「その依頼書をギルドに提出したら、エルグランドの町へ向かう」

「南方大陸の貨幣を手に入れるためですね」

「そうだ、その後魔法陣で『転移テレポート』だ」

「向こうでは何をするのですか?」

「わからない………が混沌神の情報を追おうとは思っている」

「目下それが故郷への手掛かりですもんね。分かりました」


 俺たちは最後となるだろう、ギルドの酒場に向かった。

 すでに景気づけのために、沢山の冒険者が訪れている。

「よう。雷鳴、水玉、こっちだこっち」

 「黒い瞳」メンバーに呼ばれたので、中に混ざらせてもらうことにする。

 普通に席についたのでは、ギルマスの件で絡まれそうだったからだ。

「ああ、もうギルドマスターには参ったよ。何であんなにしつこいんだ。しかも自分に自信満々な事が信じられない。俺の横には水玉が居るんだぞ」

「ご愁傷様ーああいうの肉食系っていうの?」

「アホか、ミロ。あれじゃイカレ系だろ」

「ああ………女性に失礼なことは言いたくないけどさすがに賛同するよ」

 

 俺はこの間応接室であった事を聞かせた。

 女性陣はというと。

「婚約者が側にいるのにですの?イカレ系と言われても仕方ありませんわね」

「私もそう思う。自分だったらたたっ切ってやっただろうな」

「それをすると、牢に入るのはこちらですから、我慢しました」

 女性たちがそんな会話をしている横で男性陣は、

「で、どうなんだよ。水玉ちゃんがいなかったら?」

「さすがにあそこまで過剰に「女」アピールされると引くわ………」

「美人なのに勿体ないね!妖精にはサイズ的に関係ないけどね!」

 こんな感じである。

 勧められて、愚痴を言いつつの酒は結構進んだ。

 なに、あとで『キュア―ポイズン』すればいいのだ。

 ちなみにツマミは「川エビのかき揚げ」「牛肉のしぐれ煮」だった。

 どっちも美味しかったし、ここで食る料理は最後だと思うと感慨深かった。


 15時。バザールに行っておく事にする。

 ここを離れるので、馴染みの店主への挨拶と、向こうの食糧事情がどうなっているのか分からないので食料の調達に来たのである。

 店を空にするほど買い込む俺たちを、店主の皆は盛大に惜しんでくれた。

 今回の買い物を、少しオマケしてくれる人もいた。感謝だ。


 17時。部屋に帰って最後のお風呂である。

 この先、こんな大きな部屋が取れるかどうかわからないから、一応最後だ。

 俺も湯船に浸かってのんびりする。この後のミッションの緊張はない。

 ただ、また知り合いが召喚されてないかな、と思うぐらいである。


 22時。屋上に多数の冒険者が集まった。

「よく集まってくれたニャ!ギルマスは体調が優れないからアタシが仕切るニャ!」

 おおーっというどよめき。チェリーさんの人気は高いようだ。

「全員が乗れる魔法陣を描かなきゃいけないから、みんな壁際によるニャ!」

 全員が指示に従った所で、水玉が魔法の杖を取り出し、床に魔法陣を描いていく。

 もう魔法陣のあるあたりも、これは一時的な物だから上書きで大丈夫だ。


「できたニャ?(こそり)」「できました(こそり)」

「では、全員魔法陣の上に乗るのニャ!ああそれと、帰りはその依頼書が『テレポート』のマジックアイテムになってるニャ!無くさないようにニャ!」

 幸い、完了印を貰わないといけない依頼票を失くしてる奴はいなかった。

 一応ここで使い方の説明がある。人数は10人まで。体の一部を触れあわせた状態で「テレポート」と唱えるとグレンパに転移するという事だ。

 生かしておく組織の構成員は、専用の依頼を受け取った冒険者にお任せだそうだ。

 彼らは町の入口を占拠して待機しているそうだ。

 結構な数の冒険者が生き残りの捕獲に動くみたいだな。

「いきますよ?皆さんいいですねー?」

 おう、という返事が返ってきたので―――それでは「『テレポート』!」


 俺たちは、バルンの町の東の丘に出た。

 少し離れている位置に出たが、それは大勢の姿が見とがめられないためである。

 一緒に転移して来たチェリーさんが指示を出す。

(みんなー、紙に書いてある順番で侵入してニャ。手段はそれぞれに任せるのニャ)

 俺は念話で水玉に話しかける。

((水玉、透明化するぞ。ムーブサイレント(移動式静寂の場)も俺たち2人に範囲を絞って使うから、普通に歩いて構わないからな))

((了解です!足音を気にしないでいいのは助かります))

 水玉は隠密が苦手だからな。


 俺たちはそのまま正門を普通に抜けて、町に入り込んだ。

 お互いも認識できないので、手をつなぎ、まっすぐ神殿へ向かう俺たち。

 神殿に入ると、そこは煌びやかな空間だった。

 外からだと石造りの大きな神殿なのだが………中は贅がこらされているのである。

((雷鳴、故郷の瘴気がしますね))

((ああ、金魔の瘴気だな、上級か………?))

((この内部も金魔が協力しないと無理ですよね、うわぁ………趣味悪っ))


 そして、最奥の間に到達した俺たち。

 扉をくぐると同時に魔法が切れる、何か仕掛けがしてあったようだな。

 王の謁見の間に似たその空間には、両脇に商人らしき者が10人ほど立っている。

 俺は玉座で、一人の男を侍らして座っている禿頭の男に向かって言う。

「あんたが親玉か?ネタは割れたよ。降伏した方が身のためだと思うけど?」

「何を言うかと思えば。内装が少し勿体ないが、これでもくらえ!」


 壁や天井が震えだし、大穴を開けて出てきたモノは、サンドドラゴン―――亜竜だった。こんな物屋内で飼うなよ!

 サンドドラゴンは、蛇のような体をし、翼は退化しているようだ。

 なので攻撃手段は、巨大な頭にバックリと開いた大口である。

「水玉、頭を刎ねるぞ!」

「分かりました、雷鳴!」

 俺たちは『特殊能力:オーラソード』を纏わせた刃で、一刀のもとにサンドドラゴンの頭を落とした………がサンドドラゴンは一匹ではなかったようで、仲間の死に呼応するかのように次々に壁を破って出てくる。


 壁際に控えていた商人たちは逃げ出そうとしているようだが、逃さない。

「『ルーンロープ 範囲×10』」

 ちょうど10人なので、拡大が間に合ってよかった。

 ちなみに、玉座の禿頭はいまだに余裕ぶっているが、侍っていた男はこちらに気付いたのだろう。土下座して震えている。


 ちなみにサンドウォームは顔を出す端から頭を刎ねている。もはや作業だ。

 暴走した下半身があちこちを壊しているようだが………知った話ではない。

 さすがに立ち上がり、冷や汗をかいている禿頭に俺が宣告する。

「『ライトニングバインド 持続時間×10』動くなよ?動いたらダメージの入る術だから。殺す気はないんだ。グレンパに連れて行くだけでね」

 そう、グレンパに連れて行く=6大種族会議はまだ終わらない。

 それを待つのはちょっと、と護衛の仕事にはもう断りを入れている。

 なので、俺たちは今回の事が終わったら発つつもり

「うぬぬっ、フーイ!お前も悪魔だろうっ!なんとかせんか!?」


 それをフーイとやらにいうのは気の毒だろう。

「フーイ、でいいのかな?お前上級金魔だよな?」

「はい、金魔―――マモン領民です!公爵様!王女殿下も!お助け下さい敵意など欠片も持っておりませぬ!」

「分かった。上位の悪魔が下位の悪魔に与えることのできる「召喚ブレイク」をしてやろう。もう十分対価は受け取ったか?」

「はい!お気遣いいただきありがとうございます!」

「では―――ブレイク」


「おお―――」

 フーイの背後に帰還陣が現れ、フーイはそこに消えていった。

 少し羨ましい。

 禿頭は青くなっている。味方が一人もいなくなったのだから当然だ。

 俺たちは広間の中心に全員を集めると、ギルドの屋上に『テレポート』した。

「水玉、俺はこいつらを見張るから、職員を呼んできてくれ」

「わかりました」


 禿頭たちは、魔法を解かれて、改めてお縄となった。


 部屋に戻って、エルグランドの町に行く準備をしていた俺は、南方大陸の魔法陣に不思議な点を見つけた。どうも、南方大陸に渡るには能力の制限があるのだ。

 つまり、今までの能力に戻ってしまうということらしい。

 よく確認したら、他の大陸もそういう仕組みになっている。

 今までの能力で限界、それ以上は中で上がる分には自由という事らしい。

「不便ですけど、仕方ありませんね」

「まあ、また上がる機会もあるだろうし、仕方ないな」


 俺たちは馬車を取りに行き、一緒にエルグランドの町に『テレポート』した。

 まっすぐ両替屋の元に向かい「南方大陸の金貨」を求めた。

「なんだね、あんたたち。南方大陸行きの船にでも乗るのかね」

「違うけど、似たようなもんだよ。魔法陣を使う。こういう………(説明する)」

「へぇ、初めて聞く方法だ。情報の対価をやるよ。南方大陸では、傭兵制度が基本だ。酒場がギルドを兼ねている。名声を上げたい奴や金の要る奴は依頼を受けるほかに、闘技場で勝ち残る事で名誉と金を手に入れられるそうだ」


「へえ、初めて聞いたよ、ありがとう」

「いいってことよ」


 俺たちは、黒金貨と呼ばれる特殊な金貨と、情報を手に入れた。

 エルグランドの郊外に出て、人気のない場所を選び、複雑な魔法陣を刻んでいく。

 前回同様、一度使ったら消える仕様だ。

 馬車を中心に据えて、俺たちはその脇につく。

「さらば西方大陸!『テレポート』!」


 ぐにゃりと視界が歪んで―――

 俺たちは南方大陸の地図にあった都市ミケルの近郊の丘に出現した(はずだ)

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