第46話 初めての南方大陸
俺たちは南方大陸の地図にあった都市ミケルの近郊の丘に出現した(はずだ)
10月2日。AM02:00。
丘から見下ろしたミケルの町は綺麗だった。
どうもガス灯が使われているらしく、町は明るく照らし出されている。
門も一昼夜開いているようだし、今入っても問題ないのだろう。
買った南方大陸の金貨を『コピー』して、水玉と分けておく。
「準備OK?」「はい、大丈夫ですよ」
さて、それでは「レディ・ピンク号」に乗って出発だ。
入口では門番がギョッとした顔でこちらを―――正確にはショッキングピンクの馬車を―――見ている。その門番に話しかける。門番はニワトリの鳥人だった。
「この町で、傭兵ギルドを兼ねてる宿屋ってどこかな?」
「左の道を真っ直ぐに行けばある「種族のるつぼ亭」がそうだ。けど、今は休みだ。8時になってから行くといい………ところでこの奇天烈な色の馬車は何なんだ?」
「同乗してる婚約者の趣味でね」
「同情するよ、幸運を」
「ありがとう、幸運を」
まあ、マジもんの悪魔に幸運を祈られて、効果があるかは分からないけども。
とりあえず、馬車預かり所は24時間やってたので、馬車を預ける。
店員さんはカバの獣人らしく、長い牙と恰幅の良さが特徴だ。
「お姉さん(服装で判断)この時間でも開いてて、食事の美味しい店ない?」
「やだよ、お姉さんなんて。それなら南に行った所の「酔いどれクジラ亭」かねえ」
お姉さんでなくおばちゃんだったのだろうか?まあ細かい事はいい。
「お姉さん、この町にはバザールとかないのでしょうか?」
「あるよう、朝6時に鮮魚が競りにかけられるんだけど、そのまま店に並ぶのもあるからねえ。バルトルの町とラガンの町から交易品も届くしねえ」
「バザールに食事できるところはないのでしょうか?」
「食事はないねえ。難しいから。このミケルの町には食事処も多いから大丈夫だよ」
「そうですか………少し残念です」
3時。「酔いどれクジラ亭」に向かう。
「酔いどれクジラ亭」に来て、バザールに料理を出す店がない理由が分かった。
食物を提供するには「多種族対応調理免許」というのが必要らしい。
店の壁に「多種族対応調理免許」と額入り説明付きで飾られていたので分かったのである。それと、種族ごとにメニュー表も変わる。
俺たちは鳥人用のが出てきたが………ミミズのっけご飯は勘弁してほしい。
なので、一般悪魔用のにしてもらうと、普通のに変わった。ほっ。
俺は適当にツマミと葡萄酒を注文―――しようとして表記が「ワイン」に変わっていることを知る。ガス灯の明かりといい、南方大陸は少し文明が進んでいるようだ。
一般家庭に電気が通うほどは普及してないようだが。
ともあれ、ツマミとワインを頼む。ツマミは小魚のフリッターだ。
水玉は、この店の目玉らしい、クジラの特大ステーキを注文。
これには競争要素はないが、周囲の視線は突き刺さる。
水玉はペロリと完食した。
4時。腹ごしらえを済ませたので、馬車預かり所に戻る。
別料金だが、荷台で少しでも寝ておきたかったのだ。
水玉は睡眠不要なので、ピンクの教育をしている。
おやすみ………
♦♦♦
10月2日。AM08:00。
疲れていたせいか寝坊した。
寝ぼけまなこで見ると、水玉はまだ根気よくピンクを教育していた。
「オハヨウゴザイマス、ライナサマ」
そういってニッコリ笑顔………をう。何てことだ。可愛いじゃないか
「ふふふ………驚いたでしょう、雷鳴。仕込んでみました」
「ちょっとかわいいと思ったよ………してやられたな」
ピンクにまたなと言って、預り所から出る。さすがに返事はなかった。
ギルドでもある酒場「種族のるつぼ」に向かう。
かなり大きい、ログハウス風の建物だ。どうも宿も兼ねているようだな。
宿を使うかどうかは、広い部屋があるかどうかで決まるかな………
からーんころーん。
「いらっしゃいませぇーっ!」
ここの看板娘だろう、長い紫の髪と瞳をした、白い翼の鳥人の女の子だ。
上半身は普通の女の子だが、足の付け根から先は鳥の物だ。
昨日勘違いされた鳥人である。こんな子がミミズのっけご飯とか食うのか………
まあ魔界にもそういう娘がいないわけじゃないけど。
「あのーっ、傭兵登録したいんですけどー?」
「注文の時に処理するわ!」
アバウトだ。だが仕方ないので自分の種族のメニューをラックから取る。
俺が選んだのはパイで蓋をしてあるクリームシチュー。
水玉が選んだのは、各種から揚げ大盛りだった。うえっぷ。
「承りぃー!登録証を持って来るわねー」
ほどなくして登録証とやらが届く。
アバウトだなー。名前、生年月日、出身だけでいいのか。
まあそれでも、名前はともかく生年月日と出身は嘘なのだが。
カリカリと書き込んで、給仕の女の子に渡す。
「試験があるけど、受けるかしら?」
「試験って?受けないとどうなるの?」
「受けないと、受けれる依頼に制限が出るのよ。試練はスタンダードにゴブリン退治ね。ちょうど今湧いて出てるのよー。廃屋を根城にしているらしいわ」
「ゴブリンか………湧いてって、いやまあいいけど。ゴブリンだしな」
それから俺たちは詳細と、彼女の名前がテレーゼで、タメ口でも構わないという事を聞いた。ゴブリンの方も油断は禁物だが、彼女の事の方が重要だった。
これからしばらく世話になるかもしれないのだから。
16時。ゴブリンは街道から離れた支道沿いの、沼地の廃屋に住み着いている。
街道で護衛のついてない馬車を集中的に狙っているとの事。
ゴブリンにしては知恵が回る。
レディー・ピンク号を預かり所から出してきて、北の街道へ。
途中で支道にそれて、引き返す。
「どうだ水玉、それっぽいのあるか?」
「朽ちかけに見える廃屋があります」
「そうか………そうだな、火をかけて、出て来た所で攻撃してきたら仕留めるか。丸焼きにしたら、討伐証明の耳が取れないからな」
「攻撃せずに逃げ出したらどうするんです?」
「『下級:無属性魔法:挑発』で攻撃して来てもらう」
「相手は子供程度の知恵があります。それ(挑発)は戒律的にセーフなんですか?」
「前に試したけど、ギリセーフって感じだった。ゴブリン相手なら大丈夫だろう」
「わかりました。じゃあ火をかけましょう。裏口から逃げ出されては面倒ですから、『クリエイトマテリアル・ラージ』で山ほど干し草を積んでおきます」
「じゃあ、俺は表と側面を。入口だけは塞ぐなよ」
「わかりました」
17時。作戦(とも呼べないが)実行だ。
『『ファイアアロー』』干し草に着火、待つこと20分ぐらい………
ゴブゴブと叫ぶ声が聞こえて来て、10匹ほどの集団が入口から転がり出てくる。
元凶を見つけて、怒り狂って襲い掛かって来る。『挑発』はいらないな。
攻撃された瞬間、軽くあしらって喉笛を切り裂いていく、軽い作業だ。
残りがやはり10匹ほど煙に巻かれて逃げてくる。
仲間の死体を見て、慌てたようだったが、すぐ牙を剝きだして襲い掛かってきた。
何てチョロいんだ、ゴブリン。
全滅させて、全部の耳を切り落とし、革袋に入れる。
さて、これで全部かな?
「『教え:観測:縮小国家』生き残りの位置は?」
反応なし。焼死したか、本当にこれで全部なのかだ。とにかく全滅はさせた。
………うん?何だか足元がブニブニするぞ?嫌な『予感』がする。
俺は咄嗟に『勘』の命ずるままに叫んだ。
「水玉!飛べ!」
俺たちは羽ばたいて廃墟………だったものを見る。
見た目は、俺たちが以前コゲツキ依頼で倒した巨大スライムに似ている。
だが色からしてこれはブロブ、簡単に言うと金属を好むスライムである。
魔法の実験をしていたらたまに湧く魔法生物だが―――。
「倒し方は、以前巨大スライムを倒した時と同じでいいな」
「では、耐性がつかなければ、炎魔法連打、行きまーす!」
「同じく!」
ブロブは根性無く、シミになるまで燃え尽きた。
「雷鳴、これも報告するんですか?」
「ホラだと思われそうだしなぁ。黙ってよう。「俺たちはゴブリン退治をした」」
「「それだけだ」ですね」
その通り。
幌馬車に乗って俺たちはミケルの町へ戻る。
19時。馬車を預かり所に入れる。
ピンクが「イッテラッシャイマセ、ゴシュジンサマガタ」と言う。
しかも胸の前で手を組むポーズ付きで。
何を教え込んでるんだ………可愛いけどさ。
「人種のるつぼ亭」に戻った。
俺たちはテレーゼさんを捕まえ、ゴブリンの耳を提出。
どういう方法でやったのかも聞かれたので伝えた。
生き残りは無しと確認したとも伝え、現場はケシズミだとも伝えておく。
「火力が少し強かったのと、老朽化してたせいでケシズミみたいになったんだ」
「派手ねー。まあ、これで正式登録よ。頑張ってね」
「と言われても、何をしたらいい?」
「依頼票なら店の掲示板よ。早い者勝ちね」
「情報収集をしたいんです。あと武闘大会についても教えてください」
「………ならお店が終わってから教えてあげる。お店は21時までだから」
なら泊まる所を探そうと、まずは「人種のるつぼ亭」の宿を当たってみる。
カウンターの奥にいたのはカマキリ人のお姉さんだった。
本来なら頭のある所に体が生えている。
手がカマなので、事務仕事は大変そうだな。
「うーん、大型種用の何にもないガランとした大きい部屋ならあるけど―――?」
「あ、それでいいです。寝具は自前で調達するので」
「ああ、魔法の袋とかで運び込むのね。ちゃんと片付けてくれるならいいわよ?」
「はい、大丈夫です。水玉、買い物に行こう」
20時。閉まる直前だった寝具店に駆け込む。
店員の渋い顔は、高級ベッド一式2つと告げたらニコニコ顔になった。
実際に寝てみたりして、俺と水玉はそれぞれ気に入りのベッドを買った。
もちろん、亜空間収納に収納する。
「人種のるつぼ亭」に戻ると、さっき取った部屋に上がって―――3階にある唯一の部屋―――風呂が置けるようにベッドを配置する。
「血の麦」作りをするスペースもついでに確保できそうだ。
「お二人さーん!1階の業務終了したわよー!」
大声で呼ばれたので、酒場に下りていく。テレーゼさんが待っていた。
「来たわね。傭兵稼業のイロハを教えてあげる」
「「よろしくお願いしまーす」」
「まず、お金を稼ぐには、あの(と店の奥を指さす)掲示板にある依頼をこなす事ね」
「「はーい」」
「よろしい、で、情報収集だけど、これも掲示板を使うのが一般的ね」
「情報に対価を払うと掲示板に張るんですか?」
「そうよー。情報屋も教えてあげられるけど?情報屋としては誠実よ」
「情報屋としては………か。俺たちの情報も売るって事だな。それなら最初は掲示板で情報を集めてみるのもいいかもしれないな。目立つけど来るならこい、と」
「あんた達の好きにするといいわ。お店に迷惑はかけないでね」
「欠けるつもりはないけど、向こうがかけたらゴメン」
「いいのよ。料金はあんた達から搾り取るから………で、闘技場の事だけど」
「うん、それも聞きたいな」
「名前と顔を売るならこれね。賞金も出るし。開催は闘技場のある街なら半年に一度はやってるわよ。ここミケルもそのうちの一つ。次の開催は12月1日よ」
その他に闘技場のある都市と、1ヶ月に一度闘技場をやっている闘技場都市レルルートの情報を聞き出して、彼女の初心者講義は終わった。
「あ、貼るものは勝手に貼らないで私に言ってよね」
「「了解です(しました)」」
22時。俺たちは部屋に引っ込んだ。
「とりあえず、ここで情報収集と、闘技場への参加だな。怪しまれないように依頼も受けよう。情報屋を教えて貰うかどうかは、経過を見て決めるって事で」
「ゆくゆくはレルルートで闘技場を制覇したいですね」
「今の能力で、それができるかな?」
「そんな事で弱気になってどうするのです、できますよ!」
「………そうだな。南方大陸で知られた存在になるには必要だな」
「そう、あなたは傲慢の悪魔、傲魔なのですから、弱気は似合いません!」
「ありがとう水玉、まずはここに慣れる事から始めるか!」
「じゃあ、今日はもう寝ましょう?私も疲れました」
♦♦♦
10月3日。AM06:00。
朝起きて、まず風呂である。床が木なので床に湯がこぼれないよう注意だ。
8時には風呂から上がり、掲示板に張ってもらう掲示物を作る。
内容は―――
混沌神(ジャミル教とも)の情報求む。
シンボルは赤いロウソクなのでそれに関係する情報でも可。
どんな些細な情報にも銀貨一枚。
重要な情報提供者には金貨10枚。
これでいいかな?とテレーゼさんに見せに行ったらアホかと言われた。
「有名な宗教じゃない!ちょっと怪しいけど、悪魔っていうのを呼べる技術を身に着けて、富をさずかったり、労働の代わりをしてもらおうっていう宗教よ!」
「あー、そう………そいつが一般認識なら張り紙は無駄かな?うん、無駄なんだね。情報屋の方を教えて貰える?もっとディープな情報が欲しいから」
「情報屋のほうね(ごそごそ)………はいこれ名紙」
「ありがとう、助かる」
((水玉、情報屋の所に行くのは名声を得てからの方が良さそうだ))
((私たちに高値をつけさせないと、安値でポンと売られるからですね?))
((そう、とりあえず12月1日に向けて、今は依頼を受けて過ごそう))
((わかりました))
「とりあえず、できるだけ難易度が高そうな依頼を選びましょう、う~ん」
「水玉、こっちの「賞金首」の所も覚えておこう(と、写真記憶)」
「そうですね。こっちでは峠で暴れている亜竜の退治が一番難易度高そうです」
「それが一番か………仕方ないな、準備していこう」
「なら剥がしていきますねー」
「依頼証明は亜竜の角かー」
俺たちの南方大陸での暮らしはこうやって始まった………
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