第39話 「赤目の犬」を追って・2

 5月12日。AM21:00。

 尋問も終わり、エルシーの町に行く事になった。

 それで大事なのは食料事情だが―――リズさん達に任せるのはダメだ。

 元奴隷の女性たちも含め、固形の携帯食料と水になるところだった。

 なので、大量に買いこんでおいた俺の食料を提供することに。

 特に巨大果物は、この人数でも食べきれないほど在庫がある。

 メインに果物を据えて、こっそり作ったクリエイトした大鍋で野菜と肉と米の煮込みを作る。

 これもこっそり作ったクリエイトした、全員に行き渡る数の椀で、煮込みを配る。

 雑炊のような感じだが、元奴隷の女性たちからはとても感謝された。

 リズさん達も喜んでくれたので悪い気はしない。

 とりあえず、エルシーに着くまでは、こんな食事だ。


♦♦♦


 5月13日。AM06:00。

 俺は状態異常無効のお守りを作っていた。どうせまだ、みんな寝ているからだ。

 とは言っても、これを作るのは非常に簡単なのだ。

 俺が以前に作った、病気治癒の人形を覚えているだろうか?

 2つのうち一つを手元に残したあれだ。

 あれに編みこんでいた蔦を分解し、16人分のお守りに作り変える。

 本体は軽く編めばいいだけなので、手間はかからない。

 それを、特殊な薬液に漬け込み、呪文をかける。光ったら終了だ。

 これで、病の撃退ではなく、状態異常無効のお守りになった。

 20人分できてしまったので、余った4つは保管しておく事にする。


 7時。リズさんが起きだしてきた。剣の素振りをしている。

 水玉も気配で起きて来て、わたしもやります、とリズさんに並ぶ。

 俺?俺は朝食の準備ですよ。


 朝食の後、お椀を『ウォッシュ』していたら驚かれた。

 魔法使いだというミロとリーフィーさんに、教えてとねだられる。

 断る理由がないので教えることに。

 他の便利魔法の事も教えたら、旅の間に教えてくれと言われた。

 戦闘・防御の魔術はつかえるが、そんなのは普及してないという。

 何だか家庭教師時代を思い出すな。


 この一行の(俺たち省く)リーダーらしいタルガに、状態異常無効のお守りを渡す。

「14個だ。各地に送ってもらうのが10個、そっちのパーティ用が4個な」

「十分だ、ありがとうよ」

「身に着けてないと効果がないから気をつけてな」

「お前たちのはあるのか?」

「大丈夫。ある」


♦♦♦


 5月22日。AM06:00。

 また癖で6時に起きた………今日はエルシーへの玄関口、アニーへ着く予定だな。

 元奴隷の女性たちとはこれでお別れか。明るくなってきてただけに少し寂しい。

 お祝いで、少し豪華な食事を作ろう。

 サフランと魚介のリゾットと、巨大魚の丸塩焼きだ。

 塩は「ボリバリー塩店」お勧めの旨塩を使ってみた。

 味見したら実にいい感じに仕上がっていた。


 続々と匂いにつられて起きてきた面々。

「気になってたんだが、タルガって草食じゃないのな?」

 一泊おいて、周囲の爆笑。タルガは憮然としている。

「普通は兎人はベジタリアンですわ。でも他の物も食べられますの」

「今更タルガがベジタリアンに戻ったら不気味だよね!」

「こらこら2人共、あんまりからかうものじゃない」

 なるほど、普通はベジタリアンなのか………

「なら、今日の朝食も食べれるな」

 フルーツをカットしながら俺が言う。

「ふん、お前は腕がいい、食べさせてもらうさ」


 食事は、好評のうちに終わった。満足だ。

 亜空間収納から(とみせかけてクリエイト)新しい皿が必要になりはしたが。


 8時。出発する。ここからアニーは3時間ほどで着くらしい。


 11時。アニーの街の入口は独特だった。

 水堀(多分匂いからして海水)が町をぐるっと囲み、大門は跳ね橋が兼ねている。

 今は跳ね橋は下りており、その向こうの光景が見える。

 中抜き三角の巨大オブジェを通り抜けて町に入るシステムになっている。

 オブジェのてっぺんには黒字に金の瞳が描かれた、アフ神のシンボルが存在する。

 まさにアフ神信仰の町なのであろう。


「雷鳴!俺たちは東門で、リズたちが被害者引き渡しを終えるまで待機だ!」

「了解!」

 俺たちは東門へ向かった。アニーの町も結構活気はあるんだな。

 タルガにそう聞いてみると

「アニーもエルシーも解放奴隷が作った町だからな。奴隷の中には元の主人の所で雇われる事を選ぶ者も多いが………ここの市民は、自分のことは自分で決めるんだ」

 なるほど、ここの住民は独立心に富んでいるということか。

「政治は誰がやってるんだ?」

「6種族会議での決定で、アフ神の大神官がエルシーを、副神官がアニーを治める」

「なるほどね………」


 13時。リズさんとリーフィーさんが合流して、向こうの幌馬車に入る。

「んじゃー出発だ。エルシー到着は2日後ってところだな」

「はいはい、早く落ち着きたいね」

「エルシーでは大神殿に泊まる事になると思うぞ」

 ひょっこりと水玉が顔を出して質問する。

「そこは広いですか?」

「だだっ広いよ」

「泊まる部屋の話ですよ」

「変なこと気にするな………俺は広いと思うけど?」

「ならいいです!」

 何なんだコイツ、という目で俺が見られたが、苦笑で返しておいた。


♦♦♦


 5月24日。AM06:00。

 今日はエルシーにつく日。旅で最後の朝食だ。さて、何を作ろうか………決めた。

 魚介のパエリアと、フライパンで焼ける焼きたてのパンだ。

 最近はいつもの事になりつつあるが、匂いでメンバーが起きてくる。

 配膳を済ませて………いただきます。

 うん、パエリアは香ばしいし、パンはもっちり仕上がっていていい感じだ。

 水玉からも、メンバーからも好評で良かった。


 11時。エルシーに着いた。

 造りはアニーの町と全く一緒だが、黒い三角の門(?)が立派だ。

 町はほぼ、薄い灰色のブロック石で出来ている。

 真正面にある神殿にはコンクリートも使われていそうだ。というか神殿デカいな!

 神殿の脇にある馬車預かり所に、馬車を預け、タルガやリズさんについて行く。

 シェール王国の王城と比べても広い。その中心を歩いて行くと聖堂になっていた。

 聖堂の奥にいる人物が大神官だろうか、リズさんたちはそちらに近付いていく。

 目の前にくると、4人はひざまずいた。俺たちは礼するだけで止める。


「タルガ、リズ、リーフィー、ミロ。よく帰った。首尾はどうであった?」

 タルガが、ミーツポイントでの事から話し出す。

 俺たちについては強力な味方だと紹介していた。

「ふむ、君たちは信用できるのかね?」

「利害は一致していますし、彼らは友人だと思っていますよ、ええと―――」

「私の事は大神官と呼べばよい」

「大神官殿。俺たちは、味方です」

「彼らは魔道具も作ってくれました、大神官様」

「そうか。良き隣人にアフの祝福あらんことを」


(念話:雷鳴、今センス・ライ(嘘発見)とセンス・イービル(邪悪感知)が?)

(念話:ああ、かけられた。引っかからなかったのがウソみたいだ。元の世界ならセンス・イービルでアウト確実なはずだが………。俺もセンス・ライはかけてたから、大神官の祝福は嘘じゃないと分かる)

(念話:センス・イービルに引っかからなかったのが納得いきません)

(念話:この世界では邪悪じゃないんだろう。そういう行いも慎んでるしな)

(念話:むう………)


「皆さま、こちらでございます」

 俺と水玉が念話している間に、案内の人が来たようだ。

 白い廊下を歩いて階段を上り、部屋らしき所に案内される。

 部屋はやはり白いが広かった。物を動かせばスペースができそうだ。

 水玉を見ると複雑な顔をしていた。スペースはあるけど白、嫌いだもんな。

「俺は各地のアフの同胞に連絡と転送の魔法陣で協力の要請に行く」

「私もついていこう」

「わたくし達は休みますわ、ねぇ、ミロ?」

「うん、そーするよ」

「じゃあ、報告がある場合夕食の席でな」

「タルガ、ちょっと聞きたいんだが」

「ん?何だ?」

「ここって図書館ある?自由閲覧?」

「あるし、自由閲覧だぜ。行ってみれば?右翼の建物から地下に下りたところだ」

「ありがとう」

「じゃあ、一旦解散だ」


 さて、12時である。

「水玉、昼食食べたい?」

「食べたいです!」

「適当に人捕まえて聞くかぁ」

 聖堂の入口の門番に聞いたら、海鮮丼の美味しい店があると教えて貰えた。

「そこでいいか、水玉?」「はい、海に面してますし美味しそうですね」

 そこは、海鮮丼の他にもいろいろメニューがあったが、海鮮丼は美味しかった。

 魔界ではまともな魚介など望めないので、人界の海鮮に対する評価は高いのだ。


「さあ、水玉。図書館に行くぞ」

「はいはい、言うと思いましたよ」


 図書館では新たな知識を手に入れることができた。

 特に南大陸の力場の情報は、これで全て手に入った。

 南大陸の情報もあった。

 元々住んでいる人種はなんでもあり、という情報だったが詳細が分かった。

 スライムから巨人から精霊族にアンデッド、どんな種族もアリらしい。

 俺たちが偽装なしで歩いてても平気なようだ。ナイス!

 統治者も20年に1回の選挙で決まるが、都市の統治者は市民の要望が高まればそれを待たずに選挙がおこることもあるという。

 ちなみに青い肌の者が多いのは「悪魔族」と言われる種が青肌だから。

 人口の3分の1を占めるのが悪魔族なんだとか。

 統治者が魔王と言われるのも、悪魔族が従うからというだけの理由だったりする。


 詳細な地図も手に入れ(写真記憶した)た。大収穫だ。

 もう、南方大陸へ飛ぶことができるが「赤目の犬」のことは片付けたい。

 何故か、片付けてからの方がいいと『勘』がいうのだ。

 なら、片付けてからにするべきだろう。

 水玉にも伝えておく。


「つまり、しがらみが全部なくなったら南方大陸に飛ぶと?」

「そういうこと」

「それなら当分無理でしょうね」

「どういうこと?」

「例えば残りのコゲツキ依頼ですが………

 どうせ挨拶してからと思ってるんでしょう?

 でも泣きつかれると思いますよー?片付けてってくれって。

 東方大陸から来たのを隠してもらった恩がありますしー?」

「うっ!?」

「指名依頼も拝まれたら断れないでしょう?

 赤目の犬追跡の依頼票の発行も恩ですし。

 その間に新しいしがらみもできるでしょうしー」

「ううう………」

「ねえ?恩は返すのが悪魔の流儀。恨みは3倍返しも悪魔の流儀ですけどね」

「そうだな、お前が正しい。しばらく後の事になるな………」

「じゃあ、今日はもう6時。食事もそろそろでしょうし部屋に帰りましょう?」

「了解………」


 19時。

 水玉に凹まされて部屋に帰るとすぐ「食事の準備ができました」と呼ばれた。

 リズさん達パーティと合同である。

 まず、酒が出た。エールか葡萄酒と言われたので、葡萄酒を選択しておいた。

 そのあと、食事が出た。刺身の盛り合わせと、海鮮天ぷらである。


「リズさん、やっぱりここは漁業の町なのか?」

「そうだぞ?北にある海鮮市場には行かなかったのか?」

「それ、屋台も出てます?」

「数は少ないが出てる。食事というよりツマミだが。酒を売る屋台もあるぞ」

「ふぅーん、待機期間の間に行ってみましょうね、雷鳴」

「そうだな、この食事もおいしいし」

「雷鳴、今はいいけど、この手の物が毎日だから飽きるぞ」

「タルガ、飽きるほどここに滞在するのか?」

 タルガによると、協力者たちには捜索・移動の時間が必要だ。

 なのでひと月は見た方がいいとの事。ひと月この調子の食事なら確かに………


 酒も入り、話も主にそれぞれがしていた活動についてで盛り上がったが、さすがに23時になり、解散となった。

 明日からはタルガが協力者と連絡を取り合うので、報告がある場合は朝か夕食の席でということになった。特に異存はないと告げる。


 俺と水玉は、部屋に帰って眠りにつくのであった―――

 ちなみに部屋のベッドは質が良く、フカフカだった。


♦♦♦


 6月24日。AM06:00。

 だいぶ暑くなってきたな。出している風呂の温度もややぬるめだ。

 朝食が8時なので、最近水玉は4時には起きて、もう風呂に浸かっている。

 俺は気付かずに6時まで寝ているわけだが………まあいいだろう。

 目覚めのひと風呂もいいものだ。


 8時きっかりに、朝食の知らせが来た。おなじみになった部屋に向かう。

 ?タルガが来るのが遅いな?

 バタバタバタ………

「おいっ、ニュースだぞ!赤目の犬が次に向かう場所が分かった!」

「本当か!」

「ああ、奴らの組織の構成も分かった!」


 情報―――その1

 赤目の犬はエルグランドの町―――「元・南の首都」に向かう。

 やつらは、魔法で移動速度を上げているようで、ひと月で「ミンツ」「マルグリッド」「レシュウ」「マルコム」を回っており、次は「エルグランド」だと判明しているが、このままでは追いつかないので、何らかの手段を講じる必要がある。


「ああ、移動手段なら俺たちがテレポートで連れて行けるよ?」

「え?2~3人が限度じゃないの?」

「それは魔力量の違いだな」

「ボク、ショック………」

「それはいいから!エルグランドに飛べるんだな!?」

「ここの図書館で見つけた地図なら大丈夫だ。人員と幌馬車まとめていける!」

「よし、じゃあ移動はそれでいいな」


「あと疑問なんだけどさ、さっき言った都市って、エルグランドと線で結んで五芒星が描ける気がするのは気のせいかな?」

「………ん?(地図を確認)できるな。何でそんな事を?」

「大規模魔術のために何かしてるかなーと思って」

「何かか………ん?そういえば、レシュウで奴らが浜に何か埋めていったらしい。

 体を羽で包んだ犬頭の人間の彫刻で、撤去しようとしたらいきなり浮かんだって。

 そのままそこから動かせなくなったとか。

 害がないからひとまず放置しているが、気味が悪いという報告が来てる」

「それ、他の所でも同じような事がないか確認して。外見も詳しく!」

「お、おう。わかった」


 情報―――その2

 対象の大部分は「認識阻害」で自分のやってる事の分かってない一般人だ。

 よって粛清の対象は幹部数名と、実働部隊と、首領に絞られると思われる。

 実働部隊は本体に合流しないので、それはまた調べる必要がある。


「これは、顔さえ分かってるなら簡単なんだが?」

「似顔絵が送られてきてるぞ。俺たちも隠密は得意だ。闇討ちして拘束しよう」

「私はお留守番ですか?透明になってついて行ってもいいですか?」

「隠密技術がないなら、待機しておいてくれ」

「リズがそう言うなら………」

「で、幹部の数は?」

「3人」

「リズ、リーフィー、ミロ行ってくれ。俺は雷鳴と一緒に首領に当たる」

「「「了解(とそれぞれのターゲットの似顔絵を手に取る)」」」


「テレポートで向かえるなら20日程時間に余裕ができるから、同胞たちにさっきの気味が悪い物の事を調べて貰うな」

「頼むよ」


 胸騒ぎのような逆に胸躍るような。そんな感覚が止まらないのだ。

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