第38話 「赤目の犬」を追って・1

 4月20日。PM10:00。

 朝ごはんを食べようと思っていたのだが、ブランチになったな。

 市に向かう事にする。どうせ食料の仕入れで立ち寄るからだ。

 食事ができる屋台に行くと、新しい屋台が増えていた。

 焼きおにぎりだ。サラマンダー族のおっちゃんが、醬油をつけた手で握るとあら不思議、焼きおにぎりの完成!種族を利用した新しい手法だ。2個1組なのでお得。

 気に入ったので2人分買って食べる。予想以上に美味しい。

 思わず2人でおかわりしてしまった。


 その後、焼肉の串を10本近く平らげている水玉。見てるだけでお腹いっぱいだ。

 俺はフルーツを普通サイズにカットしてもらい、食べるにとどめる。

 もちろん、ついでに仕入れもした。ラインナップは春の果物だ。

 巨大いちご、巨大オレンジ、巨大グレープフルーツ、巨大キウイ、巨大メロン等。

 多めに買っておく。今回は遠征になりそうだと『勘』が言っているのだ。

 もちろん、野菜、肉、魚も大量に買っておく。魚は川魚である。

 亜空間収納に入れておけば腐らないから無駄にはならないのだ。


 12時。冒険者ギルドの宿屋に、一度引き払う旨を告げる。

 そのまま、チェリーさんに手を振ってギルドを出、東南の預かり所に行く。

 そこで、俺は一応リズさんに連絡しておく事にした。

『もしもし、リズさん』

『リズだが………そのもしもしというのは何なんだ?』

『人に話しかける時、故郷ではそう言ったんです』

『そうなのか、不思議な習慣だな。で、どうした?』

『今回目立つのはやっぱりダメですか?』

『ダメだな。2人はそのままでも目立つ。その上何かあるのか?』

『幌馬車がショッキングピンクで、馬と御者がゴーレムです』

『………(絶句)馬はいいが………幌の色と御者はやめてくれ』

『ああ、やっぱり?普通にしていくよ』

『そうしてくれ』

『じゃあまた』

『またな』

 幌を染め直して、今回は俺が御者だ。

 俺たちは東南へ続く街道へ幌馬車を進めるのだった。


♦♦♦


 5月10日。AM09:00。

 ミーツポイントの町についた。

 ………村かと思うぐらい小さい町だな。賑わってはいるけど。

「街道の宿場町という感じですね。他の設備がほとんどありません」

「馬車も宿屋に預けるシステムになってるみたいだな。適当に宿をとってしまおう」

「雷鳴、広い部屋がいいです!」

「あー。じゃあ一番大きい宿にしてみるか。大きい部屋があるかは分からないけど」

 宿の人に聞いたところ、大きい部屋は大部屋ぐらいなんだそうだ。

 今回は2人部屋で水玉に我慢してもらおう。樽の風呂ぐらいはいけるだろう。

「仕方ないですね………」


 10時。宿が決まったので部屋に入る。到着を報告しないと。

『もしもしリズさん?着いたよー』

『早いな』

『ゴーレム馬だから』

『確かにゴーレム馬は疲れを知らないからな』

『そちらの到着はいつ?』

『夕方………17時ぐらいだな。街の入口で待っていてもらえるか?』

『了解。それじゃ』

『ああ、後で』


「とにかく、向こうを待つしかないな。どうする?早いけど食事に行く?」

「宿での食事は夜と朝だけですものね。行きましょうか」

 しばらく、食事処を探してさ迷った俺たちは、喫茶店のようなところを見つけた。

「入ってみるか」

「食事ありそうですよ、雷鳴」

 水玉は素早くメニューを開いている。先に選んでもらう事にした。

「私はこのナポリタンとかいうスパゲッティにします。はい雷鳴」

「んー。オムライスかな、好きなんだ」

「結婚したら、作れるように練習しますよ」

「はは、じゃあ早く帰れるように頑張らないとな」


「んー。ナポリタンというのは不思議な味のする食べ物ですね。スパゲッティというよりも炒め物のような?でもおいしいです」

「ナポリタンは喫茶店としては定番メニューなんだぞ。オムライスもだけど」

「そっちも美味しいですか?」

「卵がフワフワで美味い方だと思う、頼んで正解だ。機会があったらまた来ようか」

「そうですね、いつまでの滞在かわからないですけど」


 いったん宿に帰って、時間を潰すことにする。

 俺は魔術の本を読んでいたが、水玉は樽風呂につかりながら小説を読んでいた。

 のぼせないのかな?のぼせないんだろうな、水玉だし。本がふやけるぞ?

 まったりと時が過ぎ―――16時になった。

「そろそろ町の入口に行ってようか」

「そうですね、すれ違いはごめんですし」


 しばらく待っていると、兎人のタルガが運転する幌馬車がやってきた。

 俺たちの姿を認めると、リズさんが馬車から下りて、こちらにやって来る。

 タルガ操縦の馬車の方は、別方向に進んでいった。

「2人共、久しぶりだな!」

「「会えて嬉しいよ(です)!」」

「早速だが、タルガたちと合流する。2手に分かれて入ろうという事になってな」

「どこに行くんです?」

「領主の館だ。大勢で出入りすると人目につく」

「なるほど」

「詳しい事は、領主の館に入ってからだ」


 門番はリズさんの顔を見ると、フリーパスで通してくれた。

 領主の館とはいってもこんな規模の町の領主だ。

 ちょっと大きい屋敷、ぐらいの規模で、門番が居るのが不思議なほどだ。


 さて、他の面々との再会は広い応接室だった。

「よう、変わらないな」

 兎人のタルガの挨拶だ。

「そっちもな。他の2人も変わらない」

「エルフがこんな短期間に年を取るわけありませんわ。タルガはやたらと若見えなだけでしてよ。ミロはまあ、妖精族も長命ですし?」

 エルフのリーフィーさんも相変わらずである。タルガが若見えって………

「ボクのセリフ取らないでよー。そう、妖精族も長命なのさ」

「有翼人は?俺たち自分たちの事よく知らないんだけど」

「そこそこ長生きする方かな。500歳ぐらいまで?獣人は80歳ぐらいだね」

「へぇー。そうだったのか。リズさんも外見変わってないもんな」

「そういうこと。でもみんな、こんな話のために集まったんじゃないでしょ」


 タルガがそうだな、と言う。

 今回は「赤目の犬」の奴隷取引の末端をつぶし、情報を得る事が目的だそうだ。

 モンスター売買の方の情報も、構成員を捕まえられたら吐くかもという事らしい。


「ここの領主が奴隷を買うという名目で、奴らと偽取引してくれたんだ」

「ここの領主は、密かにアフを信仰しているのですわ」

「それでね、キミたちなら変装用の魔法を知らないかなって」

「コゲツキ潰しの名は私たちにも届いているぞ。「スイートハート」よ」

「水玉が決めたんだよそれ………ちょっと恥ずかしい」

「これでいいと言ったのは雷鳴でしょう?」

「恥ずかしいとも言ったよ?」


「まあまあお二人さん、で、変装魔法は使えるのかい?」

「メタモルフォーゼという魔法がそうですね」

 だったら領主に化けて欲しい、と本人をここに呼び出した。

 ちょっと頭の薄い中肉中背の男性で、メタモルフォーゼするのは難しくない。

 俺は彼の姿を写真記憶で記憶した。どうせ変身するのは俺だろうから。

「持続時間をのばせば、1日中その人の恰好でいれるけど」

「取引は明日の夜、北の丘の予定だから、その時だけで大丈夫だろう」

 そうか、と言いかけて俺は大事な事に気付く。

「その人の名前は?」

「ウィリアム=ハーレイだ。危ない………教え忘れるところだった」

 どれだけウィリアムさんの影が薄いかはよく分かった。


「みんなは、取引までこの屋敷に?」

「ああ、泊まらせてもらう」

「俺たちは明日、どう合流すればいい?」

「迎えに行く。雷鳴はウィリアムさんに、水玉は適当な従者に変装してくれ」

「そっちはどうするんだ?」

「アイテムで透明化してついていく。取引が終わり次第、捕まえるために姿を現す」

「了解だ、じゃあ明日の夜に」

「「「「明日の夜に」」」」


 19時。俺たちは領主の館から出た。

「水玉、宿で夕食ができてる頃合いだ」

「期待はしていませんけどね」

 実際には捨てたものではなかった。

 具だくさんなホワイトシチューと、焼きたての白パン。サラダ。

 この世界では最低中流家庭でないと食べられないメニューだ。

 水玉も黙って食べていたところを見ると、捨てたものではなかったのだろう。


 20時。水玉は本を片手にベッドに寝転んでいる。

 睡眠に入るかは気分次第。最近はよく寝ているが、元々は寝る必要はないからな。

 俺は「水晶の麦」作りである。水玉に採血させてもらって作る。

 マメに作っているので、もう1年分は軽くあるが、多いにこした事はない。

 「水晶の麦」を作り終えたら俺もヒマだ。

 水玉と同じようにゴロゴロして時間を潰すか………


♦♦♦


 5月11日。PM20:00。

 ぶっちゃけ、今日は今まで何もしなかった。

 ここには市も立たない。行き交う馬車が忙しい町だ。

 宿の朝食はそれなりに美味かった。お豆ゴロゴロ塩スープと言った感じ。

 例の喫茶店には行き、チキンドリアとチーズハンバーグを頂いた。

 だがそれ以外はゴロゴロして過ごした。というかこの町、することがないのだ。

 完全に宿場町なのである。何日もとどまる場所じゃない。

 夜の予定がなければ、俺たちもさっさと出発していた事だろう。


 そして20時。部屋の扉がノックされた。出てみるとタルガだった。

「お二人さん、時間だぜ。変身して着いて来てくれ」

「「了解『中級:無属性魔法:メタモルフォーゼ』!」」

 俺は領主の姿になる。

 水玉は地味な感じだが、力のありそうなの男の従僕になった。

「じゃあ、行こうか」

「こっちだ。俺たちはお前が代金の話をし出したら飛び出すから、そのつもりでな」

「OK」


 そこは郊外の、門からはやや離れた林だった。全員集合している。

 それからの展開は早かった。

 隠して置いておかれた大型馬車に俺が乗り込み、水玉が御者をする。

 目的地は丘の上だ。そこには檻のついた荷馬車が2台止まっていた。

 檻の中身は、ぼろ切れを着た女性たち。


 丘の上に辿り着くと、そこには数人の女性たちが縄で手をつながれたまま立っており、こちらの到着におびえた様子を見せていた。

 その脇には見張りと思しきいかつい体格の男が二人、商人の服を着た小男が一人。

「ウィリアム=ハーレイ様ですかな?」

「いかにも、私がウィリアム=ハーレイだ。赤目の犬とはお前たちか?」

「さようでございます。こちらが納品の商品になります」

 おれはしばし、検分するように女性たちを見つめてから。

「よし、いいだろう。では料金を払おう」


 次の瞬間、リズさん達が姿を現した。「赤目の犬」たちの至近距離に出現する。

 これで失敗しろという方が無茶である「赤目の犬」はなすすべもなく捕まった。

 縛り上げて猿ぐつわを―――「ちょい待ち」

「どうした、雷鳴?」

「使い魔はどこだ?逃したら仲間に連絡を取ってしまうんじゃないのか?」

「あっ………」

「おいお前、使い魔はどこだ?」

 小男に聞く。

「あ、あれは俺が操ってるんじゃない。ザキル様が操っている。取引は遠くから見ているだけだから、もうとっくに逃げているはずだ」

「クソッ………」

「仕方がありませんわ、タルガ。今は檻の中の彼女たちを解放しなくては」

「そうだな、とりあえず檻に覆いをかけて、領主の館に搬入してしまおう」


「彼女たちの服はどうするんだ?」

「マジックバッグの中に、大量の衣服を詰め込んである。多分サイズもあると思う。 アニーの町に行けば支援体制も整っているし………」

「彼女たちをとりあえずアニーの町まで移送しながら、こいつらを尋問して捜査することになる。お前らも一緒に行動するんだよな?」

「一緒に行かせてもらおうかな?」「ええ、そうですね」

 なお、俺と水玉はまだ変身を解いていない。どこに目があるか分からないからだ。

 町に入る寸前に変身を解き、怪しまれないように宿に帰る。


♦♦♦


 5月12日。AM06:00。

 いつもの癖で6時に起きた。

 朝風呂(たる風呂)にしようか?水玉に言ったら当然OKだった。

 あー。あったまる。旅の間はたる風呂も無理だからなぁ。

 待ち合わせは8時なので、7時までのんびりした。


 その後は宿の食事を食べて、宿に預けてある幌馬車を取りに行く。

 御者人形は目立つので、水玉と交代で御者をすることになった。

 北門―――北門しかないが―――の隅で待ち合わせなので、隅っこに停車する。

 すると8時頃、タルガが御者をしている馬車が寄って来た。

 後ろには檻を外された荷車に女性たちが乗っているのが目に入る。

 2台あり、そっちの方の御者はリズさんとリーフィーさんだ。

 乗っている女性たちはやつれてはいるが、みんな普通の格好をしている。


 ともあれ、幌馬車と荷馬車で出発する。


♦♦♦


 19時になった。そろそろ野営の準備をする頃合いだろう。

 昨日の捕虜の尋問もこれからだ。昨日はそれどころじゃなかったからな。

「提案があるのですが」

「どうした、水玉?」

「尋問は、尋問した内容を思い浮かべてしまうものでしょう?だから『上級:無属性魔法:心読み』で心を読み取るのはどうですか?」

「なるほどな。じゃあ水玉、頼めるか?」

「ええ、誰から行きましょう?」


 尋問+心読みの結果。

 こいつらの本部は、移動する大規模なキャラバンだという事が分かった。

 いくつも違法なものを運んでいるのに見とがめられないのは「認識阻害のオーブ」という魔道具を使って、合法なものだと思い込ませるからだと。

 オーブは基本、首領が持っている。強力な効果なのにペンダントサイズなのだ。

 首領の顔は知らない。赤い目の黒犬の仮面をつけているからだ。

 名前は昨日も聞いたが、ザキルだ。使い魔は赤目の黒犬の首を持つカラス。

 次に扱っている商品だが、魔物や幻獣ならなんでも扱うらしい。

 違法な物もそうでない物もある。

 そして奴隷。一昔前までは合法だったが今は違法だ。

 全てを巨大キャラバンで扱いつつ、自分たちのような支部もあるのだとか。


 こいつらから読み取れたのは、これで全部だ。

「その巨大キャラバンを見つけないとな」

「アフの同胞たちに調べて貰うが、認識阻害されるってのが気になる」

 タルガが難しい顔をしている。

「状態異常無効化のマジックアイテムを作ってやろうか?」

「そんな事ができるのか!?なら頼む!」

「10個+全員分ぐらいでいいか?」

「十分だと思うぞ。アニーの少し奥、エルシーの町で各地の同胞に転送しよう」

「行き先変更ですか?」

「ああ、俺たちアフ教徒の総本山だ。ジョリー半島にある港町さ」

「港町は活気があって好きですよ」

「そうか?ともあれ、アフの同胞たちに調べて貰って、結果を待って動こう」

「「了解!」」

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