第33話 再びAランクから

2月7日。AM09:00。

「用意できたニャ!」

 チェリーさんの後ろについて階段を上がり屋上に出る。デジャヴュである。

 ここは広いので、空間拡張はしていないようだが、試験用の魔法陣と外界は切り離されているようだ。まあそうでないと困る。

「C級ではオーガ、B級ではロックゴーレム、A級ではワイバーンが出るニャ」

 いいかニャ?と聞いてくるチェリーさんに2人で頷いて応じる。

 ミザンの時と違ってランダム召喚ではないんだな。

「ニャ!魔法陣の操作はギルドマスターがやるのニャ!」

 魔法陣の近くに、露出度の高い魔女の衣装を着た女性が立ち、こっちに投げキッスを送って来る。この人がギルドマスターか。マッチョなオッサンでなくて良かった。


 だが水玉が俺の前に立ち、投げキッスを遮る。

 でも水玉の頭の上から見えてるんですけど、俺………

 『定命回帰』している俺の身長は185㎝あるのだ、水玉は165㎝。

 水玉を宥めるため、後ろから抱きしめた。ギャラリーからやじが飛ぶ。

「ウルサイですよ!いい感じなのに!」

 ヤジに返す水玉に呆れた俺は、水玉の頭をスパンと叩く。

「今は試験に集中しろ。投げキッスなんて俺は気にしてない」

 と囁いた。水玉は「うー」と言って大人しくなった。

 じゃあ俺から行かせてもらおう、ミザンでは水玉からだったしな。


「でわぁ、C級試験、はじめぇ」

 気が抜ける………。

 やる気をやや削がれながら3体いるオーガに向かう。

 先制攻撃で、1体の首を一撃で刎ねる。これぐらい軽い軽い。

 振りかざしてきた拳を避けながら2撃目、今度は心臓を貫く。

 逃げようと結界の端に寄った最後の1体に槍を投げ、頭を潰してフィニッシュ。

「おおお!すげぇ!」「オーガが何の抵抗も出来てないぞ!」「すごい力だ………」


「C級試験、合格ぅ!B級試験、やるかしらぁ?」「お願いします」

「でわぁ、B級試験、はじめぇ」

 ロックゴーレム。こいつ相手の戦術は決まり切っている。

 まずは『ウィークポイント』で相手の核の位置を確認。

 大ぶりな攻撃を避けながら、懐に潜り込んで、核に向かって槍の一撃

 強化されまくっている槍の一撃は、核を貫通してゴーレムの背中から出た。

 しまった。やり過ぎたか。

「すげぇ、核を貫いたんだ」「どうやって見つけたんだ?」「あの手袋、魔力持ちじゃない?」「じゃあ魔法か」「力強すぎ………」


「B級試験、合格ぅ!A級試験、やるかしらぁ?」「お願いします」

「でわぁ、A級試験、はじめぇ」

 ワイバーンか。今まで通りなら地に落とすが………今は俺にも翼がある。

 周囲を飛び回って、スピードで翻弄してみた。

 ワイバーンが混乱した所で、懐に潜り込んで心臓に槍を埋める。

 心臓からの血と、吐血で真っ赤になってしまった。『キュア』

 距離を取って様子を見るとワイバーンはもう動けないようだ。

 とどめをくれてやる。脳天を槍で貫く。動かなくなったな。

「スゲェスピードだ!」「いや、槍が易々と心臓まで到達したぞ」「脳天は割ろうと思って割れるもんじゃないよな………」


「A級試験、合格ぅ! 雷鳴、以上ぅ!」「ありがとうございました」

 次は水玉だ、軽くハイタッチして送り出す。


「でわぁ、C級試験、はじめぇ」

 水玉はオーガに武器を使わなかった。素手で、オーガの太い首を折ったのである。

 2体目は貫手で、心臓を貫き、3体目は持ち上げて、脳天を地と激突させた。

 終わるのに1分もかかってない。さすが水玉だ。

「何だ!?あの力」「オーガの胸板ってすげえ分厚いんだけど………」「マジかよ」


「C級試験、合格ぅ!B級試験、やるかしらぁ?」「お願いします」

「でわぁ、B級試験、はじめぇ」

 ロックゴーレム相手の戦術は俺と同じ。『ウィークポイント』からの核破壊だ。

 水玉は剣で、核を貫いて見せた。

「まただ、絶対魔法だ」「魔力があったら教わるのに」「やっぱ凄い力だよな」


「B級試験、合格ぅ!A級試験、やるかしらぁ?」「お願いします」

「でわぁ、A級試験、はじめぇ」

 水玉は、スピードで勝り、ワイバーンの背中に乗る。

 そこで背面から首を切り落として見せた。3回ぐらい剣を振り下ろしてお終いだ。

 暴れるワイバーンの背中から、翼でバランスを取った水玉は落ちなかった。

 ワイバーンが沈んだので、ひらりと水玉は地面に下り立つ。

「さすが有翼人だな!」「それでも普通ワイバーンに乗れないよ」

「すげえ力だよな」「ワイバーンの首が戦闘中に落ちるなんて………」


「A級試験、合格ぅ! 水玉、以上ぅ!」「ありがとうございました」


 人垣からチェリーさんがするりと出て来た。

「いやー。お見事なのニャ。こんな実力者が埋もれてたなんてニャ。奴隷戦争の頃に成人してれば、歴史に名前が残ってたかもしれないニャア。あ、A級の認識票を発行するからついて来るのニャ!」

 素直についていく俺たち。チェリーさんは、応接室みたいなところに入った。

 するとギルドマスターが待ち構えていた。デジャヴュである。


 12時。

「座るのニャ!」

 俺たちが座るが早いか、質問がとんでくる。

「あなたたちぃ、経歴を隠してない?あんな力の持ち主が無名だと思えないのよぉ」

「チェリーもそう思うニャア!」

 顔を見合わせる俺たち。

(どうする?)(貴方にお任せします)(じゃあ『勘』に従うか)

 東方大陸で使っていた説明を使い、東大陸でやってきたことを説明した。

 長くなってしまったが仕方がない。


「そぅ。東方大陸の英雄という訳ねぇ。悪いけどここでは一からよぉ?」

「分かっています。でないと査定付き登録とかしてません」

「ならいいわぁ。でも、力を見込んで、頼み事はするかもしれないわぁ」

「S級への推薦状に色はつきます?」

「それはもちろんよぉ」

「なら、異論ありません」


 14時。俺たちは、金の認識票を作ってもらって、部屋を出た。

「水玉、宿をとろうか?」

「いつものように、ですね。ふふ」

「ちょっと変えようと思うんだ」

「?何を?」

「広いお風呂を作りたいから一番大きな部屋をとろうかと」

「それ、いいですね!そうしましょう!」


 俺たちは、冒険者ギルドの宿の、一番大きい部屋を3カ月取った。

 冒険者ギルドだから、設備はたかが知れてるけど、広さだけはある部屋だ。

 俺と水玉はお風呂の設置用に、家具とベッドを入口に寄せ奥にスペースを作る。

 そして『クリエイトマテリアル・ラージ』で2人余裕で入れる石の浴槽を作る。

 『コールウォーター』を改造した『コールウォーター・ラージ』で水を張る。

 最後に『召喚術:サラマンダー』でサラマンダー(火の精霊の一種)を召喚。

 水を湯にしてもらい、その後は保温のために、風呂の中に待機していてもらう。

 サラマンダーは非実体なので、邪魔にはならない。


 水玉は喜んで風呂に入り―――ちゃんと水着だ―――ほうと息を吐いた。

「これでも小さいですけど、樽の風呂よりよほどいいです。久しぶりのお風呂………これからは自分で設置して入る事も出来るのですね!雷鳴『コールウォーター・ラージ』の術式を教えてくださいね?さあ、一緒に入りましょう!」

 すごく喜んで貰えたようだ、俺も水着で湯につかる。あー。温まる。

「呪文は今教えるよ。はい『記憶球』」

「ん………覚えました」

 俺はふと思いついて『クリエイトフード』で柚子を幾つか創り出し、半分に割って湯船に浮かべる。水玉の反応はどうかな?

「良い匂いです。お肌にもいいんでしたよね」

 喜んでくれたようだ。

 俺たちは夜になるまで、そうして風呂で談笑していた。


 20時。さすがに食事をしに行かなくては。

 1階に下りると、ギルドの受付はもう閉じていた。

 「OPEN7:00」「CLOSE19:00」と書いてある。

 依頼掲示板だけは、ライトアップされて人気のないロビーに置かれている。

 こんな時間でも、依頼を物色しに来る冒険者はいるらしい。


 ギルドの酒場は、盛況だった。

 空いている席を見つけて滑り込むと女給さんがメニューを渡してくれた。

 お勧めを見てみると、恐ろしいものが書いてあった。

 ここの売りのひとつは、「ルブウ」というゾウぐらいある家畜魔獣のステーキ。

 ひと切れが山のようにあるステーキで、完食するとタダだ。

「私、これにチャレンジしてみます」

「マジかよ………」

 俺は5種類のソーセージの山盛り、ポテトサラダ、ピリ辛豆腐とささみのサラダ、卵のスープを頼む。こればっかりは、俺が普通だと思うのだが。


 水玉は運ばれてきた超巨大ステーキをペロリと平らげた。

 野次馬から、盛大な拍手が上がる。

「スゲェ!」「昼間の査定挑戦者だよな!?」「何年もクリアされなかったのに!」

「もう一切れお願いします。今度は料金を払いますから」

 そう言われて、料理長がホッとした顔で頷いた。確かに赤字だろう。

「気に入ったのか?どんな味だった?」

「一口食べてごらんなさい?」

 運ばれてきたルブウのステーキを一切れ分けて貰い、特製のタレで頂く。

 うん、豚のヘレ肉に似ていて美味しい。普通のサイズもあるので今度注文しよう。

 水玉は、結局合計3つの巨大肉を平らげた。

 曰く、もっと食べれるが人の目があるから、だそうだ。


 23時。部屋に帰る。

 水玉はまた風呂に入るようだ。本当に風呂好きである。

 俺は寝ることにする。また明日な、水玉。


 2月8日。AM06:00。

「おはよう、水玉」

「おや、おはようございます。雷鳴」

 何とまだ水玉は風呂にいた。小説片手に豆を食べながら。

「本がふやけないか?」

「時々『ドライ』していますよ」

 とにかく風呂から上がらせて、水と柚子に『デリート』をかけ、湯船を亜空間収納に放り込む。ついでに部屋全体に『ドライ』をかけた。

 朝はどうせ市に行くだろう?そう言うと「はい」と返って来た。


 市に着いたのは7時だ。

 この間の巨大作物・家畜の屋台に到着。俺は大盛りのじゃがバタにした。

 水玉は当然のように制覇だ。

 他にも、あらゆる肉を串焼きにして売っているコーナーも見つけたので味見する。

「水玉………よく肉に飽きないな」

「え?だってどれも味が違いますよね?」

「そういうもんかな?」

「そーいうものです」

 一応納得しておく。

 俺たちには栄養管理は必要ないからいいが………

 それにしたって水玉の食事に栄養バランスの一言はないな。


 9時。教会のある東区域に来た。

 目的地は書店だ。東方大陸と同じなら、知識神の神殿の周りにあるはずだ。

 果たして、書店は見つかった。いくつかはしごして、好みの書籍を入手していく。

 その後、どんなところか確かめるために、知識神の神殿に行った。

 神殿は、思った以上に大きかった。アフザルより大きいかもな。

 図書館では、新しい文書が多いようだった。

 これは、他の古い町に行く必要も、いずれ出てくるかもしれない。


 12時。冒険者ギルドに帰って来た。

 どの依頼を受けるのが、推薦状への近道かとチェリーさんに聞く。

 そうすると、社会貢献度の高い案件かつ緊急度の高い案件を選ぶ事、と言われた。

 そういうのは「コゲツキ案件」と呼ばれて、専用の掲示板にあるそうだ。

 なぜそんな名前なのか聞いたら、誰も出来ない、やりたがらない依頼がコゲのように掲示板に残り、いつしか「コゲツキ掲示板」に移されるのだそうだ。


 水玉と一緒に、コゲツキ掲示板を覗きに行ってみる。

 せいぜい10枚ぐらいしか依頼がない。俺は水玉に選ばせることにした。

「なら、これがいいです。なんだか変わってて」

 どれどれ………?

 1匹のスライムが特殊個体として生まれてきた。

 そのスライムは、何でも食べることができた。

 森の木々を食い尽くし、大きな岩も食べた。

 食べるものがなくなると近隣の村を襲った。

 人間も、建物も食いつくし、巨大化したスライム。

 それでもさらに食べ物を求めて、イラムト大森林に向かっている。


 何じゃこりゃ。普通軍隊の動く案件じゃないのか!?

 と、チェリーさんに聞いてみたところ。

「返り討ちにあっちゃったんだニャ。2人は知らないかもしれないけどグレンパ周囲にある大森林がイラムト大森林にというニャ。迷わなければだけど、徒歩で入ったら出るのに8日はかかる大森林ニャ。そのイラムト大森林にスライムは向かっているから、イラムト大森林に入ったら総攻撃の予定だけど、できたらその前に倒して欲しいって依頼ニャー。正直無理だと諦めてたけど行ってくれるニャ?」

「………評価は高いんでしょう?」

「それは、もちろんだニャ!」


「なら行くか、水玉」

「行きましょう、雷鳴。そのスライムは今どの辺に?」

「東の平原を進んでいるらしいニャ。幸いなことにイラムト大森林に気を取られて、途中の村とかはスルーしてるって話だニャ。でも奴が通った後はペンペン草も見当たらないって話だニャ!空から見ればすぐ分かると思うニャ。今からなら大森林に入られる前に捕捉できると思うのニャア!」


「………森を出るのにどれぐらいかかります?」

「徒歩ニャ?」

「いえ、幌馬車です」

「なら6日ぐらいだニャア」

「大体でいいので、地図をください」

「おっけーニャ」

 チェリーさんは肉球のついた手で、器用にペンを操る。

「はい、ここが馬車の通れる道。レシュウの町へ向かう街道だニャ。スライムは街道から2~3日離れた北方向の平原だというのが最後の報告だニャ!」

 たいへん大雑把な地図だが、冒険者ギルドでもらう地図は大体これが相場である。


「あ、大事な事を聞くのを忘れてた。そのスライム、どれぐらいの大きさなんだ?」

「あー、それは………」

「怒らないから言ってくれ、チェリーさん」

「冒険者ギルドの倍ぐらい………」

「………4階建ての建物が4つ?」

「………うん」

「分かった、何とかしてみる」

「おおっ!?期待してるのニャ!」


14時。

スライム討伐のため、グレンパの北西まで、南東の預かり所に預けてあった幌馬車で町を行く。色のせいで視線が刺さる刺さる。

あ、ちなみに、パーティ名はまた「スイートハート」になった。

水玉に任せておくと、万事この調子なので困るが、可愛いので責められない。

そんなバカなことを考えつつ、俺たちは北西の門に進んだのだった。


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