第32話 西方大陸到達

 西方大陸について整理をしておこう。

 調べものをしまくったせいで、ジンやリズさんに聞いた以上の事が分かっている。

 まず最近統合されたが、以前は南北があって「奴隷戦争」が起こっていた事。

 その辺の事情は地球テラのアメリカに似ている。

 統一された大陸は、6大種族の議会、有翼人・ドワーフ・エルフ・獣人・レプラコーン・妖精の会合の話し合いと多数決で大陸の意思が決まる。

 中央都市グレンパがその会議所を囲んで発展している。

 軍事力も(各都市保有のもの以外は)議会(グレンパ)がすべて保有する。

 町の作りはこちらと似ているようだ。助かる。

 冒険者ギルドがあるが、こちらの冒険者ギルドとはつながってない。

 アフ教徒は奴隷解放を掲げる信仰。

 他にも未知の宗教はあるが、大地母神や知識神の信仰もあると分かっている。

 魔力持ちはこちらの大陸より多いようだが、扱いは一緒だ。

 あと、俺たちは有翼人のお姉さんのリズさん、ウサギ獣人の青年のタルガ、エルフのお姉さんのリーフィー、妖精の男の子のミロと親交がある。主にリズさんだな。

 奴隷だったところを解放してやったジンもいるか。

 あと、皇帝陛下オズワルドから貰った金貨がある。

 まとめはこれくらいでいいだろう。やる事をやろうか。


 12時。

 俺たちはフルーレの町から荷馬車で出て、野営するための開けた空間に着いた。

 まず、今の貨幣を亜空間収納にしまい、オズワルドに貰った金貨をコピーして、 30枚づつ持っておく。この金貨は資料にも載っていたから大丈夫だろう。

 次に、魔力を込めた炭で出来た杖で、地面にガリガリと五芒星を書く。

 そこに、見本―――リズさんが見せてくれた奴や、奴隷の帰還時に見た魔法陣―――とはかなり違う仕様になった呪文を書き込んでいく。

 呪文はは色んな鉱石や薬草を粉にしたもので書く。


 これがどういう魔法陣かと言うと、西方大陸の地図に載っている都市を目標にしている魔法陣だ。で、どういう都市に転移するか?

 それは「リズさんのいる都市」だ。媒介は別れ際貰ったフェルトのプレ-ト。

 そして「その都市からある程度離れた人気のない場所」目標点にしている。

 

 なお、この魔法陣は使用後綺麗さっぱり消える仕組みにしておいた。

 もちろん詮索されたくないからだ。

 ちなみに、このサイズ(幌馬車を持って行くので大きい)の魔法陣をあと10回書いても余るほど、魔法陣の材料は亜空間収納してある。

 材料を見かけたら買っていたらこうなったのである。


「水玉、翼を出しておけよ」

「はい、そうしましょう」

 俺は漆黒の竜の翼、水玉はコバルトブルーの鳥の翼を出す。

 2人共着替えていたので、背中のスリットから翼が飛び出た。

「じゃあ、幌馬車を真ん中に置いて………」

 俺は呪文を唱え始める。

 

高く………低く、唱える呪文は複雑で、一度もミスはできない。

呪文は不思議と、美しい旋律のようだった。水玉はうっとりと目を細めている。

やがて魔力が魔法陣の限界点に達して―――テレポート!


♦♦♦


 2月6日。20:00。

 俺たちは、ミザンぐらいの規模の町を見下ろす丘の上に転移した。

 夜だ。飛んでくるのに時間がかかるみたいだな。確認すると20時だった。

 だが成功だ!胸を撫でおろす。

 雪が積もる中、都市は宝石のように輝いて見えた。

 『教え:観測:縮小国家』を使い、町の立体図を出す。

「リズさんの居場所は?」

『縮小国家』は一つの建物を光らせた。リズさんが動く様子はない。

「雷鳴、早く行きましょう?」

「ああ、そうだな」


 町の入場料を、金貨しかないからと立派な金貨で払うとお釣りをくれた。

 それも立派な銀貨だったので、貨幣の鋳造はこちらの方が進んでいると分かる。

「ミンツにようこそ!」

 言われて地図を確認。西方大陸の北側地域(東側でかなり南寄り)の町だと分かる。

 海には面していない、内陸の町だ。

 馬車の預かり所で、色に目を丸く―――ショッキングピンク―――されながら馬車を預ける。この色は、誰でもびっくりするってものだ。俺もいまだに慣れない。

 ちなみに、御者人形は幌馬車の中で、布をかぶせてある。


 大通りが南北に走り、東西で町を分割しているようだ。

 とりあえず、さっき見たリズさんの居所に向かう。

 そこは、冒険者ギルドのようだった。入口の看板は違うが、多分そうだ。

 受付と依頼票をチラ見する―――文字は英語ではない。これはイタリア語だ。

 俺たちは2人共読み書きできるので問題ないな。

 「アルゼンテの酒場」とある扉を押し開くと、馴染みになった喧騒が俺たちを包み込む。違いは種々様々な種族が混在している事くらいであろう。

 

 そんな中、ガタリと席を立った有翼人の女性がいた。

「まさか、あなたたち………!」

「やあ、リズさん。魔法陣を苦労して解析して、テレポートして来たよ」

 俺はフェルトでできた、瞳の形のプレートを見せる。縫い取りのしてある奴だ。

 リズさんが満面の笑顔になった。

「本当に、あの2人なのだな!大変だったろう!」

「本当に大変だった。でもこっちで冒険してみたくて。ルーツもこっちだし」

「歓迎するぞ!ちょうど今、パーティで行動していたからあの時のメンバーが揃っているんだ。おい、みんな、雷鳴と水玉が来たぞ!」


 兎人の青年はタルガ、エルフのお姉さんはリーフィー、妖精の男の子はミロ。

 それで合っていたはずだ。兎人のタルガが目を丸くして、

「嘘だろ?あの時の魔法陣を解析して、変更まで加えて飛んで来たのか!?」

 エルフのリーフィーさんも、

「相当な変更を加えなければミンツの町なんかに飛んで来れませんわ」

「勉強したんだよ。5年も経ってるんだから」

 妖精の男の子―――五年も経ってるのに男の子のままだ―――ミロが、

「まあ、来ちゃったものは仕方ないよね!早く座りなよ!」

 そう言ってメニューを差し出して来る。マイペースな妖精だ。

 俺と水玉は顔を見合わせた。


 ここの売りは、ありとあらゆる肉料理のようだ。

 牛、羊、山羊、猪、熊、豚、鶏etc………

 肉好きの水玉は、そのステーキ全部と酒を樽で頼んでいた。ありえない。

 おれはチキンのグリルと、葡萄酒、それと野菜のサラダだ。

「水玉って、ワイバーンの時も思ったけど、凄く食べるな。どこに行くんだ?」

「特異体質なんですよ、リズ。消化が異様に早く、全てを魔力として蓄えておけるのです。体外に見えないタンクがあるようなもので、排泄などもしません」

「なるほど………2人は色々と規格外だな。ところで雷鳴たちはこれから?」

「冒険者になるよ!お勧めの町はない?リズさん達も、冒険者なんだよね?」

「そうだよ!Aクラスなんだからね!」

「奴隷解放の依頼が、冒険者ギルドに来ることもあるんだ」

「私たちはそういう依頼を拾って、受けて回る係なのですわ」

「………と、いうことだ」


「俺たちももう一度冒険者になろうと思う。この際だから今度は南方大陸に行ってみたいと思うから、またS級冒険者になって。時間はかかるだろうけど」

S級!?お前たちはS級になったのか!?」

 驚かれたので、しまってあった認識票を取り出して渡す。

「本当だ………」

「ええーっ!凄いねえ!ならお勧めはグレンパだよ!あそこでS級を目指しなよ!」

「グレンパ。新都か?」

「そう。S級許可を出すのはあそこか、北の首都マルグリットか、南の首都エルグランドの3つだ。でも今一番繫栄してて、依頼も充実してるのはグレンパだからな」

「S級の条件は、東方大陸と一緒なのか?」

「そうだよ。もともと東方大陸から西方大陸に移住したのが私たちだから、制度で共通するところは多いんだ。6大種族会議以外はね」

「なるほど。色々教えてもらえて助かるよ」

「私たちだけでは右も左も分かりませんからね」


「そうだ、リズさん、これを受け取って欲しい」

 渡したのは布で出来た花型のお守り。通話の魔道具だ。

 ?と言う顔のリズさんに、使い方を説明する。

「何かあったら相談したいし、そっちからも気軽に相談して欲しい」

「分かった、受け取っておくよ」


「ところで、私たちの今までの経歴は何と言ったらいいと思いますか?」

「傭兵稼業をやっていたと言うといいと思う。登録制だが、本当に登録だけしているだけでも傭兵ギルドは構わないから。無条件で登録できるよ」

 それと、とタルガさんが付け加える。

「グレンパに行くなら、受付嬢はキジトラの猫獣人、チェリーをお勧めするよ。真面目で明るいし、よく気が付く。最初は肝心だからな」

「確かにそうですね、ありがとうございます」


「いつ行くんですの?」

「テレポートで行きますが、今日はもう遅いので、どこかで宿をとろうと思います」

「それでしたら………」

 リーフィーさんは素泊まりできて、ガラの悪くない宿までの地図と、傭兵の登録所の地図を書いてくれた。助かる。

「ありがとうございます」

「ねえ、グレンパにもバザールはありますか?」

「南のさらに南の区域がそうだ。6時に開いて23時に閉まる」

「朝ごはんはそこですね!」

「もう朝ごはんの心配してるの!?」

「私は底なしですから!」

「水玉。誇る所じゃないぞ」


 俺たちは食事を終えると、リズさんたちのパーティ「黒い瞳」と別れた。

「リズさんを目標地点にして正解だったな」

「色々教えて貰えましたね。あの時のメンバー全員がいるとは思いませんでしたが」

「ああ、人界はせわしないから、随分久しぶりな気がした」

「オズワルドにだいぶ引きとめられましたからね」

「でも弟みたいで可愛かったろ」

「本当の弟みたいでしたね」

「俺も、弟ができたみたいだったな。こっちでもそんな人ができればいいな」

「きっとできます。帰るのが惜しくなるような人が」


♦♦♦


 2月7日。AM06:00。

 俺たちは、紹介された宿屋で素泊まりして、目を覚ました。

「水玉………は寝てないのか」

 水玉は豆をポリポリと食べながら、小説を読んでいた。

「おはようございます、雷鳴。グレンパについたら、小説も仕入れましょうね」

「ん、そうだな。とりあえずはまず、傭兵の登録所に行こう」

 俺たちは宿を出て、地図を見ながら傭兵登録所を探した。

「あれではないですか?雷鳴」

「あー。あの看板だろうな」


 登録はサクサクと終わった。小さなプレートを所属のしるしに渡されただけ。

 ここでは依頼は、ランクなどなく早い者勝ちらしい。

 以来の種類も、ほぼ討伐依頼―――それもモンスターでなく人間相手がほとんど。

 大抵は賞金首か盗賊・強盗(街中で起こるものも)の討伐だった。

 一度仕事を受けるかどうか悩んだが、やめておいた。

 早くグレンパに行きたかったのだ。水玉がお腹が減ったというのもあったが。


 馬車の預かり所で、馬車を出してくると、人気のない所まで乗っていく。

 別に見られてもいいのだが、馬車まで転移すると驚かれるだろうからだ。

「人影ナシでーす!」

 偵察に飛んだ水玉が戻って来る。

「よし、じゃあ『テレポート』!」


 『テレポート』は俺が術式を改造したものを使っている。

 なので、グレンパにほど近い丘陵地帯で、人目と障害物のない所に転移した。

 グレンパの全景が見えるが、相当大きな都市だ。アフザルより大きい。

 ここはグレンパの南のようだ。俺と水玉の指輪の『方位感知』が教えてくれる。


 ゴーレムに動作を教え込みながら、ガラガラと幌馬車で門に進む。

 入場料を払うついでに、この町の地理を教えて貰う。


 町はとても広い通りで東西南北に分割されている。

 南は商業地域(大バザールがある)だ。東地区は神殿や冒険者ギルドがある。

 商店でない工房も東地区だ。北と西は居住区になっている。

 大通りの交わる中央広場には6大種族会議所「ジュエル」がある。

 「ジュエル」は普段は使われていないそうで、観光できるとのことである。


 俺たちは南東の門から入ったので、目的地にちょうどいい。

 馬車はこの門の預かり所に預けよう。

 預かり所から出たら、すぐそこにあるバザールへ。

 グレンパは大陸のちょうど中央だ。

 内陸も内陸なので、肉や野菜を売っている屋台が多いな。

 それも、凄く種類が豊富だ。見た事もないものも多い。

 広いので、食事ができる屋台の場所を聞いて進んだ。

 

 食事できる屋台は、ヴルミのように素材をそのまま生かした店が多い。

 が、大きさが違った。

 巨大焼き芋、巨大焼きトウモロコシ、巨大じゃがバター。

 もちろん丸ごとではなく切り分けた物が売っている。それでも片手では持てない。

 青果市場では丸ごと売っているそうだ。

 あと、見覚えがあるのとないのがあるフルーツたち。

 ちょっと凝った物では大きな肉まん(中身は謎)

 鶏のから揚げ(巨大鳥のものだとか)などなど。ほとんど全部が大きい。


 チャレンジだが、水玉は全部制覇した。

 俺は果物の説明を聞いて、一つ一つ買って試してみる。

 分かったのはフルーツも巨大だと言う事。

 スイカサイズのブルーベリーがあるのである。

 小さいのは(と言ってもスイカサイズ)カットして売られているものなのだ。

 俺はフルーツの屋台だけでお腹いっぱいになった………

 

 8時。気を取り直して。冒険者ギルドに向かう。

 建物は、やっぱりと言うか、ガラス張りだった。

 ガラスをレンガ状にして使っているのも変わりなくてホッとする。

 入ってみて確かめたが、受付その他の棟と、酒場や武器防具よろず屋、宿屋の入っている棟は別れていた。アフザルと同じ造りだ。つまり酒場は1階である。


 俺たちは取り合えず、5つある窓口のうち受付嬢がキジトラの猫獣人の所を選ぶ。

「すみません、査定付き登録をお願いします」

「こんにちわニャ。あたしはチェリー。経歴はニャ?」

「雷鳴と水玉です。もうない過疎の村を出て、しばらく傭兵として働いていました」

「登録証を見せるニャ。うん、間違いないニャいね。では査定付き登録の用意するので、ロビーのベンチでしばし待つニャ!」

 チェリーさんはそう言って、カウンターに「お休み中」と札を出した。


 俺たちはロビーの椅子に腰かけた。

 周りの好奇の視線を感じる。

 だが、俺たちも見た目年齢が上がり、装備も使い込まれ風格が出ている。

 突っかかって来る奴はいないようだ。いい事である。


 

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