第28話 コボルド村の事情
06月24日。AM06:00。
もうすぐ、コボルドの村に着く。10時には着くかな?
とりあえず2人を起こしておいた。
俺は「水晶の麦」を作り、オズワルドは興味深そうに見学。
朕の血は要らないか?と言われたので、採血させてもらう事に。
3cup分貰った。血の麦にして、いつもより小さな小瓶に収納する。
珍しそうに、血の麦作りを見守るオズワルド。適応が早い。
8時。朝ごはんは、亜空間収納から取り出した新鮮フルーツである。
マンゴ―、パパイヤ、パッションフルーツ、パイナップル、ココナッツだ。
このアフザル近隣の気候は、ブラジルと似ているらしい。道理で暑いわけだ。
それでは満足しなかった水玉には、パンとバターだ。
オズワルドは水玉から半分貰っていた。食べ盛りだな。
10時。村が見えてきた。わらわらと犬種様々なコボルドたちが出迎える。
オズワルドが目をキラキラさせているな。
「いらっしゃいー」「らっしゃいやでー」「どしたん?何で人間の方から来たん?」
などと口々に言ってくる。
「えーと、この村で一番偉いコボルドの所に連れて行ってくれる?」
「ええでー」「族長やなー」「行こかー」
そして俺たちの前に立って先導し始めた。フレンドリーな奴らである。
小さな掘っ立て小屋が並ぶ中、やや大きい家に着く。
族長は、マルチーズのように愛らしいコボルドだった。
「族長ー族長ーおきゃくさまやでー」「人間がここまで来たでー」
「おお!ご苦労さん。お客さんに、村のもんが迷惑かけてなければええんですけど」
「いえまったく。かわいいですね」
「お嬢さんにはそう見えますか。まあ獰猛な同族とは違うけど」
「それで今日はお願い―――取引があって来たんだけど」
「取引かいな?なんでっしゃろ?」
「彼、皇帝陛下なんだけど、コボルドを5匹近習に欲しいっていうんだ」
「皇帝っ!?ホンマに!?」
「そうだよ、どうかな?これで判る?」
オズワルドは空に手を向け、皇族の証のグリフォンを照射する。
「と、いうわけで仕官させられるコボルドはいない?」
「うーん、今は立て込んでおりまして、それを解決して下さるなら………」
「立て込んでる事って?」
「ゴブリンが、畑荒らしに来るんです。おいしーい作物の取れる畑ですわ。それで行商やらしてもらってますねん。撃退してもまた来るんで、近くに巣があるんだと思います。そこを根絶しないことには、わしら身動きが取れませんねん」
「ゴブリンは、何時ごろにやって来ます?」
「5時ぐらいです」
「水玉、オズワルド、今日は畑の番だな」
「おお、冒険者の方の助力が得られるとは!有難い!」
12時。奥さんコボルドに、お茶を淹れて貰って人心地つく。はぁ。
不思議な味だが、落ち着くぅー。
そのあとは、集落の見学をさせてもらう。
掘っ立て小屋に住んでいるコボルドは種々様々な犬種の姿をしている。
オズワルドの目に留まったのはパピヨンだ。あの耳がたまらないらしい。
少し経った頃、村に農作業をしていた村人が駆け込んできて来た。
「畑で遊んでいた子供たちが、ゴブリンに攫われてん!」
それはまずい、ゴブリンはコボルドを食うのである。
「冒険者様あ………」
「分かってる、大雑把でいいから地図を書いて」
急ぎ、その地図を見ながらこの辺だろうと辺りをつけて、洞窟に向かう。
だが着いてみれば話は早かった。
ゴブリンなど、オズワルド含めて俺たちの敵ではなかったのだ。
右耳を切り落とし、コボルドの集落へ証拠として差し出す事にした。
「うわぁぁぁ!殺されるぅ!」
そんな事をしていると、洞窟の奥から悲鳴が。あわてて行ってみる。
と、そこにははパピヨンコボルド1匹と、牢に入れたコボルドたちを盾にしたゴブリンが何か喚き散らしていた。コボルドはみんなパピヨンである。
ゴブリン語で訳すまでもない、人質はやるから、自分を逃がせと言うのだろう。
オルドナンツが『スリープミスト 威力×5 範囲選択』で、先制した。
駆け寄って、パピヨンみたいなそのコボルドを助け起こしている。
そのパピヨンの子は、真っ白で、他の子とは色が違った。
みんなキラキラした目でオズワルドを見ている。
耳を切り取って、とどめを刺してっと。こっちは見なくていいよ。
その後は、俺たちが洞窟(罠はなかった)を隅々まで探索して、終了となった。
「それで村長!この子とその兄弟、合計5匹を近習にしたいのだが!」
腕にはパピヨンの子犬―――そう、助けたのは子犬だったのだ―――
「コイツなら、周囲も辛く辺りはしないでしょう。むしろ可愛がられると思います」
「うん、わてもオルドナンツ様の―――皇帝陛下のお役に立ちたいです!」
かわいいなぁと、オルドナンツは相好を崩している。
「よし!この子達は今から皇帝陛下の近習ですわ。好きなようにして下さいや!」
「親の了承とか、いいのか?」
「コボルドは共同子育てですから。私がええと言えばええんです」
「そうか!名前は………チャーリーだ!」
「ぼくチャーリー?チャーリー!名前を貰えたで!やったでえ!」
オズワルドの胸で,飛び跳ねるチャーリー
「ちゃんと教育して、恥ずかしくない近習にするから!」
「立派になるんだぞ。それと、冒険者ギルドには畑が回復し次第行きますので」
「伝えておきます」
06日25日。AM06:00。
帰りの幌馬車で、オズワルドとコボルド達のやり取りは微笑ましいものだった
「いいかー?まず宮廷に入ったら、近習になるための勉強だ」
「「「「「あい、陛下」」」」」
「来年のお披露目の時に間に合うように頑張るんだぞー」
「「「「「あい、陛下」」」」」
「そしたら綺麗な服も、美味しい料理も思いのままだ!」
「「「「「あい、陛下!!(尻尾ブンブン)」」」」
コボルドの子なので、どこまで分かってるか分からないが、やる気はありそうだ。
陛下付きの文官と侍女は有能なので、徹底的に教えてくれるだろう。
いや、それとも家庭教師を呼ぶのかな?聞いてみる。
「うむ、家庭教師をつけて、徹底的にやる。朕は見学に行く!」
「………まあ将来の近習を見に行くのはいい事だな」
「うむ!可愛いからな!」
それから時間は過ぎて―――3日後
6月28日。AM06:00。
もうしばらくしたら、アフザルの町が見えてくる。
俺たちはコボルドの子がいるので、モッフモフの寝心地を堪能していた。
寝ている間にはゴーレムに指令を下せないので、夜は休みなのだ。
もう朝かあ、あっという間だな。
俺は自作魔法『ミキサー』で、フルーツジュースを作る。氷魔法で氷も作る。
それを、全員を起こしていきながら、コップをほっぺにくっ付けてやる。
キャアキャアいいながら、コボルドの子たちが起きてきた。
水玉もすぐであるが、オズワルドは中々起きない。
「起きないとフルーツジュースを逆さまにするぞ!」
「起きる!起きる!」
オズワルドは慌てて起きてきた。最初から起きろっていうの。
水玉は果物もモリモリ食べる―――あ、コボルドの子が真似してる。
ポテトフライも好評だった。フランクフルトも。
主に食べていたのは水玉だったけどな!
12時。アフザルに着いた。オズワルドを宮殿に送り届けるまでが任務である。
西行きの道をガラゴロと駆け、北行きの道に入る。王宮はもうすぐだ。
王城に辿り着いて、フィニッシュ。
オズワルドとコボルドの子たちには下りて貰う。
オズワルド陛下は、早速人を呼ばわっていた。
俺たちはこれで………と行こうとしたらマックスとグルンが飛び乗ってきた。
「ひどいじゃないか、私たちに留守を押し付けるなんて」
「誤魔化すのが大変だったゾナ。代わりに首尾を聞かせるゾナ」
あー。仕方ない。俺は今回の顛末を語った。
「なるほど、ゴブリンが出てくれてて、結果的にはラッキーだったね」
「毛並みのいいコボルドの子たちゾナ」
「そういうこと、マックスとグルンも可愛がってやって」
「はいはい」
「ワシは動物好きだから構わんゾナ!」
やっと、下りてくれたよ。この隙にエスケープしよう
13時。
北門の馴染みの預かり所に「ライムグリーン号」を預けて冒険者ギルドに帰る。
どうする?水玉と相談する。2階に頼んだ強弓を取りに行こうという事になった。
2階の武器屋に行くと、強弓が出来上がていた。
『剛力10』と『フィジカルエンチャント・パワー 威力×10』で引いてみた。
いい感じである。武器屋のおやじは目が真ん丸だが。
「いやあ、品質良くはしたけど、本当に引けるなんてな。あ、これが矢だよ」
一人30本ずつの鉄の矢である。弓ごと亜空間収納に収納した。
「ありがとう、金貨100枚で足りる?」
「そんなにか?1つ20枚でいいよ!」
「いいの?」
「おうよ!」
鉄の矢は無限収納に入れて、尽きないようにした。
15時。遅めの昼ごはんだ。夜も食べるので控えめにしておく。
水玉はホルモン串焼き盛り合わせとか頼んでいるけどな!
俺は大人しく、具沢山のシチューとパンである。
「水玉、家庭教師のスケジュールだけどどうしようか?」
「残りの6月と7月の間は亜空間収納でしょうね」
「その後12月までに中級魔法か?」
「それでいいのでは?最後の年は、上級魔法、最上級魔法ですかね?」
「儀式魔法はどうする?」
「難しいからな………オズワルドが期間を延ばすなら教えてもいい」
「絶対、延びますね」
「だろうなあ」
実際『念話』で聞いてみると307年いっぱいまで延ばすぞ!と言われた。
さらには、剣術も教えてくれとの事である。
「だってよ、水玉」
「うふふ、魔力をもっと上げて貰わないといけないでしょうね」
♦♦♦
そして統一歴307年4月08日。16時。中級・最上級と、儀式魔法の前提条件を全部クリア(種々様々な杖づくり、必要な媒介の知識、魔法陣の書き方などなど)した皇帝と宮廷魔導士たち。テレポートの極意も覚えて笑いが止まらないようだ。
亜空間収納のやり方も教えて、今では自由自在である。
相変わらず『クリエイト』系は、教えはしたが秘中の秘である。
まだ私たちよりだいぶ低い魔力しか保有してないのがネックだが、時間が解決してくれるだろう。
宮廷魔導士たちはこれで卒業だ。後の時間はオズワルドの剣を見る。
だが、皇帝陛下オズワルドがまたワガママを言い出した。
「雷鳴!水玉!今の朕ならワイバーンを狩れるか!?」
「優秀な前衛がいたら、余裕でできるでしょうね。そうですね?」
水玉は見物していたマックスとグルンに向けて言う。
オズワルドがふむと頷く。
「お前たち、随分強くなったと聞く。前衛を務めよ」
「え!?皇帝陛下がワイバーン狩りをするんですか!?」
「ジャベリンを、沢山持って行くことを進めるよ」
皇帝が言い出したら、全てが決定事項になるのだ。
俺は全員にワイバーン狩りの方法を伝授する。
今回はおびき寄せる必要がある。
「馬は1体のみだが、生身のやつを使うことにしましょう。狩られたらアウトです」
「一回行った所だから『テレポート』で帝国側の出口に近いところに全員で飛ぶぞ!明日の朝8時決行な。ジャベリンの準備を忘れずにな!」
それだけ言い残して、俺たちはピンクの御者で冒険者ギルドに帰ったのである。
そして、ギルドマスターの部屋に確認事項が一つ。
コンコン
「おーう、誰だあ?」
「雷鳴と水玉です」
「入れ」
「お久しぶりです」
「あいかわらずだな。いや、雷鳴が大人びたか………」
ギルドマスターは相変わらず隻眼のマッチョなオッサンである。
「ありがとうございます、確かに背が伸びました」
「で、何の用事だぁ?」
「黒龍山脈のことなんですけど。亜竜、出てないですよね?」
「いや?出てるぞ。ヒートドラゴンだ」
「え?どの辺です!?」
「パルケルス帝国の出口付近」
「………その亜竜、倒してしまって構いません?正確には皇帝陛下と、宮廷魔術師とセトリーブ近衛隊長に、レドモンド近衛副隊長ですけど」
「あー。大変だなお前らも。その面子なら大丈夫だろう、許可する」
「ありがとうございます」
4月09日。AM08:00。
「という訳で、亜竜も倒す事になった。まあ、俺たちがついているから問題ない。ワイバーンの前衛はマックスとグルン。亜竜の前衛は俺たちがやる」
ウキウキする魔導士陣を尻目に青くなったり戻ったりの近衛兵2人。
「よし、行くからな。全員俺に触れ。よし。馬も触って一緒に『テレポート』!!」
いきなり黒龍山脈の入口(パルケルス帝国から見て)に到着する。
俺は、馬を単独で歩かせる。すると早速つられたのか、ワイバーンが2匹舞い降りて来て、馬を掴もうとして喧嘩になる。
「マックス、グルン、ジャベリン!」
「おおぅ!ゾナ!」「なるようになれー!!」
2人のジャベリンは突き刺さった。………胴体に。
怒りの咆哮を上げて飛び立つワイバーン。
「マックスとグルンが翼を狙うのが無理なら、魔導士2人!翼を攻撃!」
「「「三連『『『ニードルブラスト』』』!!」」」
うん、いいチョイスだ。被膜さえ敗れればいいのだから。
これで片方が落ちた。
「近衛騎士2人、トドメさして!首、心臓、頭が有効だ。尻尾の毒に気を付けて!」
「ワイバーンの心臓はどこゾナ!?」
「そこ!深い位置にあるから思い切りね!」
俺は『ダイ』で心臓の位置を赤く染める。ついでなのでもう一匹もだ。
もう一匹は『アイアンスピア』でオルドナンツが落とした。
「よくやった、オズワルド。マックス、行け!」
マックスはワイバーンの首をかき切る事にしたようだ。何度も切り付けているうちに、首がボトリと落ちる。マックスもグルンも返り血で真っ赤だった。
そこへいきなり、威力は本家に劣るとはいえ、ファイアブレスが扇状に広がった。
予想していたので『魔法範囲結界』が間に合う。
「ミリオンとバルケッタは、魔法範囲結界を張る準備を!オズワルドは『アイアンスピア』で、奴を落とせ!グルン、マックス、ジャベリンだ!」
それぞれが素早く動き、ヒートドラゴンに痛打を与えていく。
よし、地に落ちた!
「『範囲魔法結界』の準備はそのまま、グルンとマックスは俺たちを手伝って!弱点はさっきと変わらない!剣を持つオズワルドと俺たちは首を切り落とす!」
言われた通りに動く面々。
オズワルドは亜竜の首を切り落とす時、嬉しそうにしていた。
これは自分の武勲になるのだから当然だろう。
ともあれ、戦闘は終わった。オズワルドは亜竜の首を掲げている。
水玉が「念動」の応用で、血を吸い出してやっていた。
習いたいというオズワルドに、残りの期間で教えます、と水玉。
骨にして玉座の間(謁見の間)に飾るとオズワルドは上機嫌だ。
貢献したグルンとマックスたちも、まんざらではなさそうである。
ここで血まみれ連中を『キュア』したら、戦ってないんじゃないかと誤解されそうだから止めておく。グルンとマックス、オズワルドは我慢するように
帰還すると、心配していたらしい文官と侍女たちによって、俺たちは風呂に連行された。オズワルドは別だが、マックスとグルンとは同じ風呂だ。
浸かる前に、侍女―――メイド?―――によって、綺麗さっぱり洗われた。
オズワルドの意向か、全員ゆったりした部屋に集められる。
アフザルの豊富な果物も持ってあり、飲み物の給仕をする女性もいる。
俺たちはゆっくり、今日の反省会をしたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます